真白な世界を駆け抜けて3

「はははっ、さすがだな!」


 リュードが最後のレッドットベアから剣を抜く。

 赤い血が雪に広がるがじわりと広がり始めた瞬間にはもう魔力となっていく。


「さすが大司教様が見込んだ人にゃ!」


 支援しててこれほど楽しい人もいない。

 力を引き出している感覚があって軽やかで力強い戦いの一部は自分のおかげなのだと軽い興奮を覚えた。


 リュードの方もどうして上級者のパーティーが宗教関係と仲良くして聖職者をパーティーに引き入れたいかよく分かった。

 多少の無理な戦いでレッドットベアの爪が頬をかすめたりもした。


 しかしニャロは強化をしながら同時に治療も行いリュードを常に万全の状態に保ってくれていた。

 強化も聖者ほどの神聖力でのものとなると自分の力を勘違いしてしまいそうなほどだった。


 強化支援というものの効果を身を持って知った。

 治療もできて強化もできる。


 今後も冒険を続けていくなら聖職者をパーティーに引き入れたいとリュードも思った。


「やるじゃないか!」


 剣の血も払うまでもなく魔力になって消えていく。

 幸いにしてケーフィス教との関係は悪くないから冒険者に同行を志望している聖職者を紹介してもらおうかなんて考えていた。


 バンッと背中を叩かれて驚きに振り返るとウィドウがいた。

 とても気分が良さそうに笑顔を浮かべている。


 レッドットベアを引きつけながら雪原を駆け隙を見て雷をまとった剣で倒していく姿は雷そのもののようだった。

 教会側から用意されたメンバーなので文句は言わない。


 足手まといにはならないほどの実力はありそうだと思っていたがやや心配はしていた。

 だがそんな心配は杞憂だった。


 むしろ大きな戦力になってくれる。

 喜ばずにはいられない。


「素晴らしい実力だ」


「あ、ありがとうございます」


 ある程度戦況に余裕が出てきたのでウィドウはリュードたちの戦いを見ていた。

 リュード、ルフォン、ラストは想像していたよりも高い実力を有している。


 連携も取れているし周りを見る視野の広さもある。

 まだシルバーだと聞いていたのに実力はもっと高い。


 若い人、しかも旅をするタイプの冒険者にありがちな実績の足りなさがあるのだろうとウィドウはすぐに分かった。

 これだからランクは信用しすぎてもいけないのだ。


「プラチナランクの大先輩にお褒めいただいて光栄です」


「ふふ、私は普段めったに人を褒めない。


 ありがたく思うといい」


「はい、そうします」


「ははっ!


 そう素直に受け取らないでくれ。


 冗談を言った私が恥ずかしいではないか」


「やっぱり褒めるには値しませんか」


「分かってるくせに君も人が悪い。


 褒めたことは冗談ではないよ」


「それは良かったです」


「ユーモアも持ち合わせているとはな……欠点が見当たらない」


「そうですね……俺は酸っぱいものが苦手です」


「……ハッハッハッ!


 いやはや、使えなさそうなら討伐隊と共にダンジョンから帰ってもらうつもりだったけど是非とも力を貸してほしいな」


「もちろんそのために来ています」


「心強い。


 期待しているよ」


 ウィドウがリュードに手を差し出す。

 背中を預けてもよい実力と信頼の相手だと認める。


 リュードもウィドウの手を握り返して握手を交わす。


「俺は辛いもんがダメだ。


 こんな時には体を温めるのにも辛いもんがいいんだろうけどちょっとした辛味も苦手でな」


 だから料理において刺激が少なめだったのかと道中ケフィズサンが料理を担当した時のものを思い出す。


「食えないわけじゃないけど出来るだけ辛くない方がいい」


 お互いに弱点を暴露しあって仲を深めた。

 プラチナランクまで駆け上がった人なのにとても気さくで接しやすくこれぞ冒険者といった人だとリュードは思った。


「本当にあんたたちがいてくれて助かったよ」


 戦いは終わったけど事後処理は残っている。

 ただ外なら死体の処理だがここはダンジョンで死体はほっとけばなくなる。


 それどころか死んだそばから死体が魔力となるのでやるべきことはケガ人の処置とドロップ品を拾って整理するぐらいだ。


 討伐隊の冒険者がニコニコとドロップ品を拾う。

 レッドットベアの数が多くて死をも覚悟していたのだけど逆に上質なドロップ品を大量入手することができた。


 討伐隊のみんなはリュードたちに感謝をしていた。


 明らかに力の強すぎる聖職者たちについてもこれほどの実力者のパーティーならむしろ自然だと考えた。

 疑問に思うような人も中にはいたけれど恩人とも言えるリュードたちに疑問に思う以上のアクションを起こすような人はいなかった。


「今日はこれぐらいにしておきましょうか。


 皆さんお疲れでしょうし」


 空を見上げる。

 このダンジョンは常に薄曇りのようなスッキリしない空をしている。


 昼夜はあるのだけどどの時間だろうが空は雲がかかっていてやや暗い印象がどうしてもある。

 それでも昼に当たる時間帯は明るいのだけど気づけば空も暗くなり始めていた。


 外も大体同じ時間で夜になる。

 生活のリズムを保つことができるのはありがたい。


 魔法で軽く雪をどけてへこませる。

 下まで掘れば地面もあるのかもしれないけどそこまで掘ったことはなく、出やすくかつ横風を少し防げるぐらいの深さで掘ってテントを張る。


 ダンジョンでも木々があるタイプだとそうした木を燃やすこともあるが極寒のダンジョンは見渡す限り雪しかない雪原。

 持ってきた燃料を燃やすしかない。


 火を焚くのは暖を取ることだけでなく明るさや料理にも使えるので大切なのである。


「なーるほど」


 リュードはプラチナランクの力を見た。

 討伐隊はある程度の寒さには耐える。


 焚き火で体を温めて厚い毛布や寝袋のようなものに身を包んでさっさと寝てしまうのだけどプラチナランクは違った。

 魔道具を用いていた。


 まずテントの中に魔法を張る。

 テントそのものも性能が良いものを使っているのだけど寒気が入り、暖気が流れるのを防ぐ一種の結界のような魔法を用いる。


 そして中で火が出る魔道具を使う。

 いわゆるトーチのようなもので松明代わりに魔石を中に入れるとその魔力で火が出るものである。


 明かりとして使うものなのだが火は火だ。

 魔法で中の暖かさが逃げないようになっているのでトーチを付けっぱなしにしておくと少しずつテントの中が温まる。


 寒さに耐えるぐらいなら多少の魔力や魔石は使ってしまう。

 体力の管理や精神的な安らぎを優先する。


 流石プラチナランクとリュードも感心した。

 見習おうとリュードも空気の温度を遮断する結界魔法を教えてもらって自分達のテントで実践した。


 発動させるのに若干の魔力はいるが一度発動させれば一晩維持するのは難しくない。

 トーチのような魔道具はなく、デカコンロを出すか迷ったけどやめておいた。


 寒さがテントの中に入らないだけで随分と快適に休むことができる。

 環境に合わせた対応をすることは経験や知恵がいる。


 ケフィズサンのように何を優先して何を用意しておくのかもっと考えておくことも大事だ。

 ちなみに今はリュードはルフォンとラストと同じテントにいる。


 普段はリュードは天候が悪くなきゃ地面に寝るか、別のテントでも張るのだけど雪を掘ったりするので雪の中では寝られないしテントスペースの確保も面倒だ。

 3人は同じパーティーなので同じテントで寝る。


 そうすることもたまにはあるし、宿の部屋の都合で同部屋であることだってままあることだ。

 3人もいればテントの中も多少暖かくなる。


 リュードを真ん中に川の字になって眠る。

 ちょっとずつ2人がリュードに距離を詰めてくるのだけど近い方があったかかったのでリュードも何も言わなかった。

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