神物の在処と協力者たち2
「もちろん報酬はお支払いいたしますし教会をご利用いただきます費用も一生割引かせていただきましょう」
そこはタダでないのかとちょっとだけ思っちゃう。
「……俺はやりたいと思うけど2人もいいか?」
いつもと違うリュードの聞き方。
2人にも意見は尋ねているがまずリュード自身がやりたいと意思表示をして、2人にも同意を求めている。
ケーフィスからのお願いだからという側面もあるがやっぱりダリルとテレサの姿に胸打たれた部分は大きい。
誰かを助けよう、あるいはダリルを助けようとしてああなって今度はダリルが必死にテレサを助けようとしている。
望まれるなら是非とも手伝いたい。
「もちろんやるよ」
「私も!」
ルフォンとラストも同じ気持ちだった。
互いを思いやるダリルとテレサには幸せになってほしい。
「みんな……ありがとう!」
ダリルは目頭が熱くなる。
リュードたちとの時間は長いとは言えない。
けれどここまで旅をしてきてリュードたちが善良であり情に厚く、優しくて、心に熱いものを持っているものであることは分かっていた。
手伝ってくれと言えば手伝ってくれることはなんとなく予想がついていたが相手は攻略不可ダンジョン、断ったって恥でもなんでもないことだ。
ダリルだってテレサのことがなければそんなところに行きたいなんて思うはずもないのにリュードたちはダリルのためという理由で行こうとしてくれている。
「うおおっ!
感動だ!」
そこでしっとりとした雰囲気出しときゃいいのにダリルは感情を表に出してしまう。
慣れたもんでサッとミミを塞ぐルフォン。
「是非……是非感謝の抱擁を……」
「イラナイ」
「ヤダ」
「うおおおおん、リュードォ!」
「こっち来んな!」
感極まったダリルが腕を広げるがその胸に自ら飛び込むなどいない。
代わりにダリルがリュードに突撃していった。
リュードも大概力自慢な方ではあるが力自慢どころか怪力自慢なダリルの前ではレベルが違う。
「ヘ、ヘルプ!
やっぱ一緒に行くのやめる!」
「うおおおっ!
お前さんがいてくれたら百人力だぁ!」
またダリルが泣き出した。
なんて一瞬城の中はソワついたがある程度男泣きしたらダリルは装備を整えるために馴染みの武器屋に走って行った。
ーーーーー
ダリルとリュードたちだけでは攻略不可ダンジョンを攻略することはできない。
オルタンタスが言っていたツテとやらにも連絡を飛ばしてさらにケーフィス教は各地にいる聖者や使徒を集めた。
聖者や使徒といった人は珍しくあるが同時期に1人とかそんなものではなく何人も同時代に存在する。
広く信仰されているケーフィス教では複数人の聖者や使徒を抱えていて今回神物を取り戻すためにそうした貴重な人材も投入することになったのだ。
どの人も色々なところで活躍している人たちなので集まるのには時間がかかった。
その間にテレサも一度目を覚ましてダリルは神物を取り戻せばテレサが治ることと神物を取りに向かうことを報告した。
心配をかけないようにそこが攻略不可ダンジョンであることは言わなかった。
「ウィドウだ。
よろしく頼む」
「シューナリュードです。
リュードと呼んでください。
よろしくお願いします」
流石に世界最大規模の宗教はツテも違う。
ツテで呼んだのは冒険者パーティーであった。
ゴールドランクを上回る冒険者として最高峰になるプラチナランクの冒険者のウィドウをリーダーとする冒険者パーティー。
プラチナ−でもなくその1つ上のプラチナである。
物腰の柔らかい中年のイケメン男性がウィドウ。
声も低くて渋くイケおじである。
体力面では衰え始めているが気力は充実しているし経験が体力の衰えを大きく超えてウィドウの腕を支えている。
強さとしてもまだまだピークな冒険者と言えた。
パーティーメンバー一流である。
プラチナの壁を越えられたのはウィドウだけだが残る5人も全員がゴールド+ランクという猛者中の猛者。
パーティー名をケフィズサンとしているこのパーティーはリーダーのウィドウは元孤児で教会に育てられたり、元聖職者や教会に関わっていたような人が集まっていた。
難しかろう攻略不可ダンジョンにも挑むぐらいには教会に恩義を感じている人たちなのである。
さらに教会が聖者を2人、使徒を1人呼び寄せた。
ダリルもいるので聖職者系のトップクラスの実力者が4人も加わることになる。
リュードたち3人、ケフィズサン6人、聖職者4人の計13人でグルーウィンにある極寒のダンジョンに挑むことになった。
1つのパーティーとして見ると多いが攻略不可ダンジョンを攻略するパーティーとしてみるとやや少ない感じもある。
グルーウィンに勘づかれるわけにはいかないのであまり大規模すぎてもいけないし、秘密を知る人が多すぎるのも考えものなのでこれぐらいが限度だった。
聖職者たちもいつもは白を基調とした聖職者だと分かりやすい服装や装備を一般のものに見えるようにして出発した。
「いや、もう凄くいい!」
テレサに残された時間はリュードぐらいしか知らない。
他の人から見れば段々とテレサが弱っていっているので残された時間は少なく見える。
じっくりと自己紹介をしている時間もなく出発。
歩きながらお互いを知ることにした。
これから攻略不可ダンジョンに向かう。
その前に歓迎されない国に入らなくてはならない。
およそ3つのグループでこれから挑まねばならないが互いのこともよく知らない。
自然とピリついた空気になるものだけどリュードはルンルンだった。
モッコモコの着膨れ防寒スタイルだったリュードは少しスマートになっていた。
分厚くて見た目の悪い大量重ね着をやめたのだ。
というのもリュードは待ち時間の間に教会からプレゼントを貰っていた。
リュードが異常なまでに寒さに弱いことを聞いたオルタンタスが用意してくれたプレゼントであったかインナーだった。
本来はもっといい名前があったのだけど忘れた。
いわゆる魔道具であり魔物の素材を使い快適な着心地を実現しながら魔力を加えると発熱する石を繊維に混ぜ込んで細かな調整を加えた一品。
伸縮性にも優れ手触りが良く通気性もありながら少量の魔力で温かい。
魔力で温かさのコントロールまで出来るので暑くなれば抑えて寒くなれば魔力を加えて温かくすればよかった。
実はかなりの高級品なのだけれど値段も知らずリュードは超がつくほど上機嫌なのであった。
リュードは機嫌がいいがルフォンとラストは腕を組む口実がなくなったので少し不満そうだった。
「ルフォンは獣人族にゃ?」
「ううん、私は人狼族だよ」
「ありゃ、それは失礼したにゃ!」
「勘違いしてもしょうがないからいいよ」
聖者の1人で名前をニャロという女性。
ニャロはネコミミネコシッポの猫人族である。
獣人族全体的に聖職者が少ない中でさらに真人族に信者の多いケーフィス教の信者で、さらにさらに聖者であるという稀有な存在。
ニャロは獣人族集まる村の出身でそこを強く保護しているのがケーフィス教だった。
村を支援してくれていたケーフィス教に感謝をしていて聖職者の道を進んだのだがなぜか神の愛を受け聖者となった。
明るく人懐こい性格をしていて懐に入るのが上手くルフォンやラストともあっという間に距離を詰めた。
しかし実力は確かでお勤めや新勢力の扱いに関してはトップクラスに上手いらしい。
子供たちが親しみを持ってくれるからと語尾ににゃをつけて話すニャロ。
ピリついた空気もニコニコとするニャロにいつの間にか柔らかくなっていた。
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