神物の在処と協力者たち1
魔力というものがある世界。
基本的なところは前の世界とも大きく変わらないのだけど前の世界にはなかったような環境や場所なんかが存在していたりする。
分かりやすい不思議な場所として代表的なものにはダンジョンがある。
ダンジョンにもさまざまな種類があるのだけどただの洞窟なんかとは違っている不思議な場所であることは共通している。
攻略すると消えてしまうものや消えずに何回でも攻略できるものも、有名なものや知られていないものも色々ある。
中でも有名なダンジョンに五大攻略不可ダンジョンというものがある。
どのダンジョンも未だに完全な攻略がなされていない高難度ダンジョンで長いこと攻略されていないために攻略不可だと言われている。
多くの冒険者が挑んで散らしていった魔のダンジョンでギルドやダンジョンを保有する国から攻略に対して莫大な懸賞金がかけられている。
五大攻略不可ダンジョンの中には管理に失敗してダンジョンブレイクを起こして国の一部を魔物に乗っ取られてしまったものまである。
また五大攻略不可ダンジョンに限らずとも攻略のなされていないダンジョンは世界中に存在している。
そうしたダンジョンも攻略不可の烙印が押されて懸賞金がかけられていて、誰かが攻略してくれないかと周囲の人は不安を抱えている。
ただ最後まで攻略しなくても途中で帰ってきて新しい内部の情報を持ち帰れてもいくらか貰えたりもする。
ダンジョン問題は結構いろんなところにあるのであった。
「悪名高き攻略不可ダンジョンか……」
ケーフィランドにも冒険者ギルドはあり、冒険者はいて、依頼もある。
ケーフィス教でグルーウィンについて調べている間にもリュードたちは依頼を受けたりして過ごしていた。
その甲斐あってラストもアイアン+まで昇格し、次の段階まであと少しのところに来ていた。
日ごとに寒さ厳しくなるような日々を過ごしているとオルタンタスに呼び出された。
今回はレストランではなく城の中にある会議室みたいなところに集まった。
そこには例によってダリルとヒョルドもいた。
煩わしい挨拶は抜きにして早速話を始めたオルタンタス。
調査の結果が出たのだ。
グルーウィンについては現在3ヶ所のダンジョンを抱えていることを公表していた。
うち2つは一般的なダンジョンであり、すでに攻略済みのもの。
攻略がなされたダンジョンから神物が見つかることはまずないだろうから除外ができる。
そうなると候補は残る1ヶ所。
当然ながら攻略のされていないダンジョン。
しかも見つかってから攻略されていない期間が長くてギルド、グルーウィン共にこのダンジョンを攻略不可だと認定していた。
五大攻略不可ダンジョンに比べて僻地にあり、歴史も浅いために知名度に関してそれらに劣る。
しかしよくよく調べてみると攻略不可ダンジョンとしてはそれなりに有名なダンジョンであった。
極寒のダンジョンと呼ばれているダンジョンらしく、その名の通りに非常に寒い。
元々北にあるグルーウィンの国の中でさらに北部にこのダンジョンはあった。
中も万年雪原が広がっているフィールド型ダンジョンであり、その中の構造はほとんど知られていない。
魔物の種類も序盤に出てくるものが分かっているだけであとは噂になる。
「しかしながら……難しい事情もあります」
神物もかかっている。
ケーフィス教の全てをかけてもダンジョンの攻略をするべきだがそうもいかない訳があった。
グルーウィンという国が問題なのである。
ケーフィスを信仰しているケーフィス教、あるいはケーフィスの仲間の神を信仰する聖教一派や広く聖教そのものを信仰している人も世の中には多い。
しかし聖教を信仰せず他の神を信仰している人も多く存在していることも確かである。
血人族は自分の始祖を広く神として信仰しているし聖教以外の神も多くいる。
何も聖教じゃないからケーフィスと仲が悪い、ケーフィス教と反目しているなんてことはないが仲が良くない宗教、宗派もいるのだ。
グルーウィンは聖教とは違う神を国教として信仰している国だった。
一神教で自分達の神以外を認めていない。
国内における他宗教の活動を禁じていて他宗教の聖職者は入国に特別の許可まで必要とされていた。
積極的にケーフィス教と敵対はしていないけれど手を取って仲良くする国じゃない。
ダンジョン攻略するという名目があっても他宗教の布教が疑われるためにぞろぞろとケーフィス教の人間で乗り込むことはできないだろう。
宗教的侵略行為だとみなされればグルーウィンとの戦争にだって発展しかねない。
神物という事情を話したとしても協力を得られるかは分からない。
事情は隠して行うしかないのだけどどの道グルーウィンでは助けを得られない。
「大規模な攻略隊を編成することは出来なくなりました」
神物のために戦争を起こすことは神も望まない。
報告書の内容を読み上げたオルタンタスは深いため息をついた。
どうしてこうも上手くいかないのか。
一筋縄ではいかない攻略不可ダンジョンが一筋縄ではいかない国にある。
楽なものなら神物もとっくに見つかっていただろうから楽でないことは分かっていたがまず攻略する以前の問題があるとは予想外だった。
「たとえそうだとしてもだ。
俺は行くぞ。
ケーフィス教や聖教の者だと明かさねば良いのだろう?
たった1人でも成し遂げてみせる。
……それがテレサのためなら」
ダリルは立ち上がった。
攻略不可ダンジョンだろうが他宗教の地だろうが関係ない。
テレサを助けるためならどこにだって行くし、何とだって戦う。
燃えるような決意がダリルの目から伺える。
「待ちなさい」
「しかし!」
「テレサさんのためというならそのような無謀なことはおやめなさい!」
このままでは本当に一人で行ってしまいそうなダリルを止めるオルタンタス。
優しく荒げたような感じはしないのに体の芯に響くような叱責。
「彼女が起きた時にあなたがいなくて誰より悲しむのはテレサさん本人です」
「うっ……」
ダリルの扱いになれているオルタンタス。
しっかりとクギを刺してダリルの暴走を早めに止めておく。
「もちろん私たちも指を咥えてみているつもりなんてありません。
ちゃんと考えてあります」
ケーフィス教として大規模に動こうとするからダメなのだ。
「人数を絞り、外部の協力者を招いて少数精鋭で挑みましょう」
普通の攻略の範囲でならグルーウィンも不審には思わない。
相手は攻略不可ダンジョンなのでそれなりの人数はいても大丈夫だろうし神聖力を持った冒険者もいるので格好を普通にしていけばまず教会に所属する聖職者だとはバレない。
「外部の協力者……とは?」
「要するに冒険者ですよ。
教会と関係の深く、信用ができる口の固い冒険者を1組知っています。
教会の方も本殿に協力の申請をしています。
さらに私はあなた方にも協力をお願いしたいと考えております」
「俺たちにですか?」
ここまで黙って聞いていたリュードたち。
わざわざ報告をしてくれる必要もなく、厄介そうだなと他人事のように思っていた。
オルタンタスの視線が向いて驚く。
「こうして関わったのも何かの縁。
ダリルからも伺っておりますが優秀な冒険者であられるとか。
それに私の勘が告げておるのです。
あなた方必要であると」
リュードがぼかしたので追及はしなかったがオルタンタスの勘はリュードが神と何かしらの繋がりや関係があることを感じさせた。
聖職者ではないが今回の件に関わるに相応しい人物はリュードなのではないかと思っていたのだ。
ダリルの話がなくてもオルタンタスはリュードたちを引き入れるつもりだった。
神が関わっていなくても縁はある。
強い縁は強い運を引き寄せ、神の導きとなる。
だからリュードたちをこの場に呼んでいたのである。
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