ケーフィス教の悲願2
「まあ少し落ち着いてください」
良い年をした大人たちが目をぎらつかせているのは少し怖い。
「まま、まずはスープ食べましょう。
冷めてしまいますよ」
一口食べてみたけど高い店だけあって美味い。
せっかくの料理が冷めてしまうのはもったいないので料理が来た以上は食べよう。
食べなきゃ教えてもらえない。
なんてことはないのだけど黙々と食べる。
「ふぅ……それで神物はどこにあるのですか?」
別に今聞こうと後で聞こうとさほど違いはないのに。
せっかくの美味しいスープをサクッと食べてリュードに話を促す。
「この国よりも北にあるグルーウィンという国にダンジョンはありませんか?
おそらく長らく攻略されていないものがあるはずです」
スープを食べたのを確認して次の料理が運ばれてくる。
「ダンジョンだと……?
まさか…………」
「そうです。
そのダンジョンの中に神物があるはずです」
「ダンジョンに神物が……」
「正確に言うと神物があった場所がダンジョンになったみたいですけどね」
「ううむ、なるほど」
神物の影響で周りがダンジョンになる。
聞いたこともない話だけど神物が長いこと外に置かれていた事例も他にないのであり得ないことだと断言はできない。
むしろダンジョンになっているから発見できなかったと説明されれば納得もできる。
「……とりあえずグルーウィンについて調べてみましょう。
それと1つお聞きしてもよろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「神物について、どこでお聞きなったのでしょうか?」
神物が失われたことは教会の恥でありひた隠しにされてきた。
今でもそのことを知っているのはごくわずかなものしかいない。
それでいながら長年神物の存在については探し続けていたのに未だに発見には至っていない。
もし本当に神物の場所を教えてくれたのだとしたら大恩人になるのだけどどうやって神物のことをどうやって知ったのかは気になってしまう。
「それは言えません」
リュードは真っ直ぐにオルタンタスの目を見て答えた。
強い意志を感じさせる純粋な瞳。
言ってしまえば本人というか本神に教えてもらったものだけどそれを伝える気はなかった。
こうなることは当然に予想できていたけれどどのように言い訳をしたところで疑問が残ってしまう。
しかし正直にケーフィスに教えてもらったと答えるとどうなる。
この世界において神様の存在は大きく、神の声を聞けるだけでも保護の対象にすらなりうる。
必要以上に持ち上げられたり宗教に拘束されたりするのは避けたい。
言い訳できない以上答えない。
どのように解釈するかは勝手だけど何も答えていない以上リュードに手を出す理由にはならない。
こうして答えることでそこについて触れられたくない意思表示にもなる。
「……分かりました。
これも神の導きなのでしょう」
神のご意志を探ってはいけない。
リュードがどのように知ったのであれ、それが神のご意志によるものであるなら受け入れようとオルタンタスは思った。
神物があって、その場所が分かった。
それでいい。
オルタンタスが察しのいい男で助かった。
明るく希望の持てる話に料理も美味しく感じる。
いつの間にかお偉いさんなことは忘れて気のいいおじさんたちとの食事会になった。
「そういえば色々と旅をなさっているんでしたね?」
「まだまだ見られた国は少ないですがこれまでも、これからも旅をしていくつもりです」
「ダリルの報告は読んでいますのでそれだけでも数カ国は巡っていらっしゃる。
一生を同じ国だけで過ごす人も少なくない世の中ですからもうすでに多くのものを見てきたと言ってよいでしょう」
冒険者も旅をして色々なところでやっているなんて人の方が少ない。
大体同国内か行っても隣の国ぐらいだろう。
リュードのように旅して回る人はいるにはいるが多い人種ではない。
「私どももそれほど多くの国に行くことはないのですが各国にある支部からいろいろな情報が上がってくるのでいろんな国のことが知れるのです。
面白いものですよ。
王族の痴話喧嘩の話なんてことも報告書にあるのですから」
例えば国で戦争が起きそうなら動向に注目している必要がある。
国から依頼があればどちらかにつく可能性もあるのでそうしたことから教会でも情報収集が欠かせない。
「特に宗教関係の話などには注目しているものですがある国では愛や正義などを名乗る神だか神の使いだかが現れたなんて話まであったそうです」
またその話か、とリュードがスンッとなる。
若気の至りというにもそんなに前の話ではない。
俺の話なんで話すのやめてくださいなんてことも言えないので大人しく知らない顔をして聞き流すしかないが恥ずかしいことこの上ない。
派手な登場、派手な戦い、派手な退場を今更後悔するなんてその時は思わなかった。
オルタンタスとしては旅の面白話として話してくれている。
ラストも前にこの話を聞いたけどリュードが自分の話だとは伝えていないのでリュードの話だと知らない。
ただ疑っているらしくオルタンタスの話を聞きながら横目でリュードのことをじーっと見ていた。
オルタンタスの話もおおよその内容は変わらないのだけど細かな設定とかちょっとずつ違っている。
愛の詩を朗読しながら空を飛んで去っていってなんかいやしないぞ。
「この話で気になるところなんですが……」
ついにバレたかとリュードが身構える。
「雷の神様の存在に言及されている点です。
これまで雷の神様といえばあまりメジャーではありませんでした。
なのにいきなりその存在が話の中に現れました」
オルタンタスはやや学者気質なところがある。
根も葉もない噂のように見えても話の根源を探るとその理由が分かったりすることもある。
「そしてまた別の国では雷の神様の神殿が建てられたり雷の神獣が現れたりしたそうです。
宗教の復活とは喜ばしいことです。
是非とも雷の神様の宗派とは仲良くしたいものだと思います」
オルタンタスは目を輝かせて話を続けている。
それもリュードの知るところであるとは口が裂けても言えないリュードであった。
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