君が起きるなら3

「みなさん諦めてはなりません!」


 そんな中でもテレサは人々を治して回りながら鼓舞し、討伐隊はどうにか持ち直した。

 モンスターパニックは決して対岸の火事ではない。


 小国が魔物を押しとどめることができなければ次の被害は自分の国かもしれない。

 魔物が勢いづいてより増えれば討伐も困難になっていく。


 さらに増援の戦力も来て第二次討伐隊が編成されて大決戦となった。

 今度はゴブリン相手であると言う油断もない。


 聖職者の治療や強化の支援もあって戦闘は優位に進められゴブリンたちの勢いも減りはじめた。


 そこでゴブリンオーガも前に出てきた。

 多少の知恵を働かせたゴブリンオーガは一気に兵士たちの間を突っ切って討伐隊の後ろを狙った。


 魔法使いや聖職者たちをどうにかしようとしたのである。

 予想外の動きに戦線は乱れた。


 大きな被害を出しながらもどうにかゴブリンオーガを押し戻した第二次討伐隊。

 相手のゴブリンも減らせたがこのまま同じく戦い続けるのは危険だということになった。


 ゴブリンオーガをやはりなんとかせねばならない。

 みんなの共通の認識であった。


 そこで第三次討伐隊は手を打った。

 最初は同様にゴブリンの大群と当たり、数を減らしていく。


 そうすると最初の頃よりもゴブリンの数はだいぶ減り、また予想通りにゴブリンオーガが前に出てきた。

 しかし今度は簡単には後ろに行かせない。


 兵士や冒険者が協力してゴブリンオーガを誘導する。

 ゴブリンオーガをバラけさせ狙った後ろに向かわせる。


 後ろにわざわざ来てくれることが分かっているならば対処のしようもある。

 第三次討伐隊では後ろに強力な冒険者などゴブリンオーガ対応のチームを置いておいたのだ。


 そのうちの1つ。

 1体のゴブリンオーガを相手取ったのがダリルであった。


 ダリルがいるということはテレサもいた。

 誰かから奪ったのか大きな斧を持っているゴブリンオーガ。


 ゴブリンオーガが逃げないようにと盾を構えた兵士たちが囲む中でダリルとゴブリンオーガは戦った。

 肉体的に優れたゴブリンオーガはダリルとも同等に力を見せ、戦いは拮抗していた。


 けれど戦いが続くにつれてわずかに均衡が崩れ強い方が分かり始めた。

 ダリルの方である。


 テレサの強化や回復を受けながら戦うダリルはゴブリンオーガ以上に頑丈で回復が早く、さらに戦いの経験においてはダリルの方が何枚も上手であった。

 戦いを続けるほどにダリルが押し始め勝利は目に見えていた。


 そんな時だった。

 盾を構える兵士を飛び越えて別のゴブリンオーガが飛び込んできたのだ。


 血に赤く染まった大振りの剣を肩に担いだゴブリンオーガはところどころに傷があるが命に別状はなさそうだった。

 ゴブリンオーガを受け持っていた冒険者パーティーが敗北した。


 不利なゴブリンオーガの支援に来た。

 斧を持ったゴブリンオーガは不満そうな顔をしたが負けそうだったのは事実なので屈辱で怒りのこもった目をダリルに向けた。


 一気に形成が不利になる。

 1体相手にしてギリギリ勝てそうだった状況で2体目が来て勝てるはずがない。


 ゴブリンオーガに攻められてなんとか持ち堪えるダリル。

 希望は残る3体目のゴブリンオーガを相手にしている冒険者だ。


 倒してこちらに来てくれれば倒せる可能性は十分にある。

 けれどいつまで経っても冒険者は来ない。


 冒険者たちがどうなったのかの一報を受けたのはテレサだった。

 ゴブリンオーガ討伐成功。


 ただし冒険者たちも被害を受け来られない。


 テレサは決断した。

 このままではダリルがやられてしまう。


 禁じ手を使うことにした。


「……!


 テレサ!」


 テレサから強い神聖力を感じるがゴブリンオーガの相手をしていて確認も取れないダリル。

 “降臨”という神聖魔法をテレサは用いた。


 神様を降臨させるとかではなく、神の力を一時的に借りて自分が与えられたよりもはるかに大きな神聖力を引き出す魔法である。

 神聖力が溢れ出し輝くテレサがダリルに神聖力を送り込む。


 強化され重くなりつつあった体が非常に軽く感じる。

 テレサが何をしたのかダリルは悟った。


 止められない以上は早く片をつけてやめさせなければならない。

 雄叫びを上げたダリルは盾を投げ捨てた。


 回復はテレサに任せてゴブリンオーガに突っ込む。

 テレサのためにゴブリンオーガを倒す。


 相手をよりもぎらついた目をしたダリルはゴブリンオーガをメイスで殴りつける。

 ゴブリンオーガも負けじと反撃するが回復が早く強化されて力の強くなったダリルにゴブリンオーガは2体でも押された。


 ゴブリンオーガよりもよほど魔物のような荒々しい戦い。

 メイスがへし折れるほどの一撃でゴブリンオーガの首が飛んでいき、斧を奪い取ってもう1体を倒した。


 リーダーであったゴブリンオーガが倒されたことは多少離れていてもゴブリンたちには分かった。

 途端にゴブリンたちの統率が取れなくなり、死を恐れなかったゴブリンたちがためらいを見せた。


 数が多いだけのゴブリンとなり第三次討伐隊は一気に攻勢を強めた。


「テレサ!


 目を開けてくれ!」


 過ぎたる力には代償が伴う。

 本来持っているはずの神聖力を超える力を身に受けて、それを使って何事もないとはいかない。


 ゴブリンオーガを倒したのを確認したテレサはその場に倒れ込んだ。

 グッタリと目を閉じて力なく眠るテレサ。


 テレサの犠牲、あるいは多くの人の命を失って小国はモンスターパニックの鎮圧に成功した。


 ーーーーー


 テレサは降臨の代償に蝕まれている。

 強すぎる神聖力が体にダメージを与えている。


 長い時間起きていることができず、体を保護するためなのか段々と眠る時間が長くなっていっている。

 日を追うごと、眠るごとに睡眠時間が伸びていき、今では10日に1度だけ、それもほんのわずかな時間だけ目を覚ますぐらいになっていた。


 ムシュカはそうした眠るテレサのことを献身的に世話してくれているのだ。


 ダリルはベッドに腰掛けてテレサの手を握る。

 あれほど暖かかった手が今はヒンヤリとしている。


「生きている。


 生きているのだがテレサが笑っていられる時間はとても短いものになってしまった」


 テレサを見るダリルは今にも泣き出しそうだ。


「私はケーフィス様に祈った。


 毎日、テレサをお助けくださいと。


 ある時に私は声を聞いたのだ。

 神の、天啓であった」


 使徒であるダリルでも神の声を聞いたのは初めてだった。

 他の人のいない祈祷室だったから神の声だと分かったのではなく、仮に他の人がいる場で聞いてもそれが神の声だとは分かっただろう。


「その声はテレサを救うために君を探せと言っていたのだ。


 正確には黒いツノのある竜人族の男性がテレサを救いに導いてくれると。


 話をすれば向こうもすぐに理解してくれるだろうと私にお言葉を下さった」


 リュードが聞いた話からするとテレサがまだ死ぬことはない。

 けれど日に日に寝る時間が長くなって気力が衰えていくテレサの様子を見てる周りは気が気でない。


 ダリルの熱心なお願いに心打たれたケーフィスはちょっとしたヒントを与えた。

 神ができる介入としてはそれぐらいが限界だった。


 リュードの名前すら出すことも制限されていたけれど特徴的な見た目をしていたので助かった。

 この広い世界でリュードを探し出せるかは知らないけどダリルなら探し出せると思っていた。


 結果ダリルはリュードにたどり着いた。

 きっとそれは必然だったのである。


「ついでこうも言っていた。


 何か騒ぎがあるところに君がいるだろうとね」


「ケーフィス……」


 制限に引っかからない程度で伝えられるヒントとしてはリュードが結構事件を起こしていることを知っていたケーフィスはそんなヒントも出していた。

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