君が起きるなら4

 騒ぎと黒いツノの魔人族を探した。

 結果的にはそれでリュードを探し当てた。


 ハズレ続きだったけれど諦めなかったダリルが見つけたのだ。

 最初は愛と正義と雷と竜人族の神なる変な存在がいると聞いて、仮にも神に仕える身として気になったのだ。


 神を名乗る存在なので教会関係の中でも噂になっていてそれがきっかけだった。

 もうだいぶ前の噂なのでなかなか難しかったけれどダリルはリュードの痕跡を追った。


 見失いかけるたびに黒いツノの男の噂がダリルの耳に入って導いてくれた。

 導いちゃいないとリュードは少し恥ずかしくなる。


 自分のことがそんな噂になっていると改めて言われるとむず痒い気持ちになる。


 そしてダリルはトゥジュームのマヤノブッカでリュードに追いついた。

 たまたま悪魔が出たというので行ってみたらリュードがいたのだけど狙っていないのに出会ったこれこそ必然だとダリルは深くうなずいた。


 こう聞くと数カ国にわたり、結構な時間をかけて追いかけてきている。

 ものすごい執念である。


 いかに見た目が特徴的であってもいくつかの国での噂を頼りに探し出すとは感心する。


「……ダリル?」


「テレサ!」


 弱々しいが鈴のような美しい声。

 ベッドで寝ていたテレサがふと目を覚ました。


「貴方なのね」


「そうだ。


 テレサ、君を治せるかもしれない人を連れてきた」


 テレサの体に響かないように声のトーンを落として優しく話しかけるダリル。

 そうしていれば結構いい声なのに。


「そうなの……」


「どうした?


 嬉しくないのかい?」


「不安だったの」


「何?」


「目を覚ましてもいつまで持つか、また次にいつ目が覚めるか分からない。


 目が覚めても残された時間は短くて、でも不安なのはそうじゃないの。


 目覚めるたびに貴方がいないことが不安だった」


 テレサは握られた手を弱々しく握り返す。

 いつもは暑苦しいぐらいに感じていたダリルの体温を今は強く感じていたい。


「隣にいて、手を握って優しく語りかけてくれていた貴方がいなくて……こんな女捨てられちゃったじゃないかって、そんな不安で胸がいっぱいになるの。


 ごめんね、重たいでしょ、私……」


「そんなことない……そんなわけないなじゃないか……!」


 本当は抱き寄せたいぐらいだが弱った体に無理はできない。

 握ったテレサの手にキスをしていれば愛おしさを示すように頬を寄せる。


 ダリルとテレサの目が潤んでいる。

 口に出す時にはただのパートナーのように話していたいたけれど2人がただのパートナーに収まらない深い絆があることは見ていてわかる。


「ふふっ、いつもの大きな声も嫌いじゃないけど今みたいに優しく声をかけてくれるのも新鮮で好きよ」


「……君を残してすまない。


 でも全ては君のためなんだ」


「知ってるわ。


 全部ただの私のわがままだもの。


 ……きっと体調が悪いせいね。

 よくないことを考えて、よくないように思ってしまう」


「誰しも弱るとそうだ。


 俺も風邪をひいた時は明日のメシが美味しく食べられるか不安だったさ。


 俺は何があっても君だけは見捨てない」


「その言葉でとても安心できるわ」


 見つめ合う2人。


「そちらの方を紹介してくださる?」


「あ、ああ……そうだった」


 首を少し傾けたテレサと目があったリュード。

 テレサに促されてようやくダリルはリュードたちのことを思い出した。


「こちらがリュード、ルフォン、ラストだ。


 君に言ったかな?

 前に神託を受けた話。


 こちらのリュードがその神託の中で言われて探していた人だ」


「あら……そうなの。


 …………この人、迷惑かけませんでしたか?」


 優しく微笑むテレサ。


「いえ、色々と助けてもらいましたよ」


「それならよかった。


 この人ったらちょっと無鉄砲なところあるじゃない?


 私は普段からそれが心配で……」


「テ、テレサ……」


「ふふふっ、きっと強引に話しかけたりしたんじゃありません?


 邪険にしないでくださってありがとうございます」


「そんなお礼をことなんて……むしろダリルには感謝してますよ」


「いい人たちね。


 ケーフィス様のお導きなら間違いはないわ。


 私も神のお声を聞いてみたいものね」


「……自己紹介も済んだし、俺たちは失礼させてもらおう」


「あらあら、気を使わせてしまいましたね」


「どうぞごゆっくり」


 このままダリルとテレサの様子を見て突っ立っていたってすることもない。

 2人の雰囲気を壊すのも忍びないのでリュードたちは部屋を後にした。


「おや、ダリル様は……?」


「テレサさんが目を覚まされたので」


「ああ、そうでしたか」


 部屋を出るとデーネが待っていた。

 

「お部屋のご用意ができましたので他にご用事がなければ宿にご案内いたしますよ」


「じゃあお願いします」


 デーネについて宿に向かう。


「あと2人は、そういった関係なんですか?」


 たまらずラストがデーネに質問をぶつける。

 当人たちにはちょっと聞けそうもなかったのでデーネに聞いてみたのだ。


 近さや関係性を見るに仕事上のパートナーなだけでないことは明白である。

 ただ私生活上のパートナー、妻や奥さんというのも違う感じがした。


 どこまでの関係なのかラストは気になっていた。


「ダリル様とテレサ様のことですよね?


 もうくっつけよ!


 ってみんな思っております」


 聞いてもいいことなのかちょっとだけドキドキしていたリュード。

 デーネは思いの外軽く答えてくれた。


「あの2人が互いを憎からず思っているのは周知のことです。


 本人たちはバレてないとでも思っているのか仕事でパートナーだから遠慮しているのか……


 そもそもケーフィス教では恋愛、結婚は自由。

 それどころか是非していこうって宗教なのですからくっつけばいいのに」


 ダリルとテレサはパートナーである。

 長い時を共に過ごし特別な感情が生まれてもおかしくないしケーフィス教はそんな感情を後押ししていく宗教でもある。

 

 それは2人が意識していることを知っているからパートナーを続けさせているなんて側面もあった。

 だから他の神官は他宗教の人も含めて思っていた。


 はよくっつけや、と。


 他の使徒や聖者は結構パートナーが別だったりするのにわざわざダリルとテレサはほぼ固定なのだ。

 実質公認カップルみたいなもんだ。


 このまま2人のペースで派やくっつけちゃえ派などこの問題には様々な派閥がいることでも盛り上がっていた。


「……どうかテレサ様をお救いください」


 宿についたデーネはリュードたちと別れる前に深々と頭を下げた。

 ダリルとテレサがくっつくかくっつかないか見たいからではなく、ダリルもテレサも真面目で熱心な聖職者で尊敬もされていた。


 使徒や聖者となるにふさわしい人物であり、これからの世にも必要な人たちだと思っている。

 助けられるならどんなことをしても助けたいと思うのは何もダリルだけではないのだ。


「やるだけやってますよ」


 デーネを安心させるようにリュードは微笑む。

 こうは言ったものの。


 今すぐリュードにできることは何もない。

 リュードは改めてケーフィスにされた話を頭に思い出してみる。


「私たちにできることなら協力は惜しみません。


 何なりとお申し付けください」


 ダリルとテレサのあんなものを見せられたのだ、リュードも助けてあげたいという気持ちが大きくなっていた。


「私も頑張るよ!」


「テレサさん救ってあげようね!」


 ルフォンとラストもちゃっかり影響されてやる気満々になっている。


「そうだな。


 助けて……あげたいな」

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