共に生きる2

 全員が押し黙る。

 魔物であることを除けば互いに利益のある話で実現もできそうな話だ。


 ハチを自由にしたときのリスクも説明されたのでただ自由にもできないことは理解できた。

 倒してしまえばいいと思わなくもないがそれを口にできる権利がドワーフにないことも分かっていた。


「すぐには答えは出ないと思います。


 ただ良く考えてみてください」


 不倶戴天の敵である魔物と仲良くしろと言われても困るはずだ。

 リュードから見れば魔物にも動物的だったり、知性的な側面があることは理解できる話でもこの世界の人にとっては敵だから。


 落ち着く時間、考える時間も必要だろうと話し合いは微妙な空気のままお開きになった。

 ハチはリュードが責任を持って連れ帰る。


 流石のドワーフたちもリュードの側にハチがいるので寄っていけずに遠巻きに眺めているだけだった。

 酒漬けにされなさそうでちょっと助かったと思ったのは秘密だ。


「あっはっはっはっ!


 私は大歓迎だよ!」


 宿に連れて行くのも嫌がられるかもしれない。

 不安に思いつつハチを連れていったけれどケルタは度量が違った。


 宿屋のおばちゃんの最上級は一味も二味も違う。

 説得の文句も考えていたのだけど連れていってハチがちゃんとおじぎをしたらケルタは大笑いして受け入れた。


 ただ大キラービーについては羽ばたいて飛行している都合上宿の中には入れなくて宿の屋根にいることになった。


「リュードォ!


 酒飲むぞ!」


 ただハチはメスなのでリュードと同部屋はよろしくないのでルフォンたちと同じ部屋にいることになった。

 そうしてハチもいるし今日はのんびりできるなとのんびりしていると外から声がした。


 変な勇気を出したのは誰だと興味を持ったので表に出てみた。

 そこにいたのはちょっと知ったドワーフ。


 最も頑なな態度を取ることが多いドゥルビョであった。


 荷車に大きなタルを積んでそれを引いてきたようだ。


「おお、いたか。


 ううん、俺はお前さんのことを良くは知らない。

 周りのものはお前さんを信頼できるとか何とかいうが俺は、俺の目で確かめたものしか信じない!


 どうすればお前さんが信頼できるか考えた。


 そして1つの答えに辿り着いた。


 酒だ。

 酒を飲み交わせばお前さんのことを知れる!」


 なんともドワーフ的思考。

 結局のところそこにたどり着くのがドワーフというものである。


「俺はかつてドワーフの中でも指折りの大酒飲みだった。


 年を取って少しは衰えたかもしれんがまだまだお前さんのような若造には負けはせんわい!」


「…………ふぅ。


 分かった、受けて立つ」


 別に負けたところで構いやしないと思っていた。

 しかしこの勝負は負けられない気がするとリュードも気合を入れる。


 ドゥルビョは荷車に乗せたタルを1つ下ろして蓋を開ける。

 金属で作られたコップに中のお酒を並々と注いでリュードに渡す。


「これって……」


「果実酒だ。


 俺は甘いものが好きで甘い酒を自分で作っていてな」


「わあっ!


 甘くいい香り!」


「キラービーのお嬢ちゃんか……


 お前さんも飲むかい?」


「いいの?」


「ああ、なんならお前さんのことも知りたいからな」


 並々と注がれたお酒から桃のような香りがしている。

 飲む前からわかる。


 これは危険なお酒だ。


 そしてハチにお酒飲ませて大丈夫なのか不安であったけれど考えがまとまる前にドゥルビョがリュードのコップに自分のコップを打ち鳴らす。


「それでは乾杯だ!」


 始まってしまった以上はしょうがない。

 リュードはドゥルビョに合わせて一気にお酒を流し込む。


 ふくよかな甘い香りとクドすぎない甘味が飲んだ瞬間から広がる。

 ジュースを飲んでいるかのようだけど甘味が去るとそこに強いお酒の余韻も残って喉が熱くなる。


 甘味が強くジュースみたいなのにアルコール度数が高い。

 ただの果実酒ではなく、ドワーフの果実酒。


「おいし〜い!」


 頬に手を当てて目を輝かせるハチ。

 お酒はダメじゃないみたいで、しかも甘い果実のようなものが好きなハチは独自のペースでお酒を飲む。


 2人には及ばないけどハチもかなりのハイペースで飲んでいる。

 ドゥルビョも強いと豪語するだけあって全くペースを落とさずに酒を飲む。


 瞬く間にタルの中のお酒は減っていき、1タルがあっという間に空になる。


「ふふっ、強いなリュード。


 これだけで潰れてしまう者もいるのにな」


「美味しいのでいくらでも飲めますよ」


 リュードもドゥルビョも顔が赤くなり始めている。

 強気に返してみたものの初めて酔い潰されてしまうのではないかとリュードも頭のどこかで考えていた。


 ドゥルビョは2タル目を開ける。

 今度は1タル目と違ってさわかな香り。


 柑橘系の香りだ。

 飲んでみるとミカンのような甘味とほんのりと苦味があり、鼻をゆずのような香りが抜けて行く。


 桃もミカンもどちらの果実酒にしても飲みやすさはこれまで飲んだどんなお酒よりも飲みやすい。


「うーん、コレもいいね!」


 体がゆらゆらと揺れ始めているハチもまだ飲むつもりのようだ。

 遠巻きに見ていたドワーフたちもリュードとドゥルビョの激戦を見て近づいてきて酒盛りを始めていた。

 

 リュードとドゥルビョどっちが勝つかなんて賭けやハチが最後で保つかなんてことも賭けになったりしていた。

 ドワーフから見てもハチのペースは早くてかなりお酒に強かった。


「よっ……ととっと」


 2タル目も飲み干した。

 ドゥルビョは3タル目を下ろそうとするが足元がおぼつかなくなっている。


 だいぶドゥルビョの方も酔いが回っているようだった。

 3タル目はリンゴのようなスッキリとした香りのするワインのようなお酒だった。


 どれも甘味が強くて甘さに弱くなければその分飲みやすいお酒ばかりだった。


「うんうん、コレも……さいこぉー。


 うへへっ、飲めやー」


 目がとろんとしているハチはすでにふらつく2人の代わりにいつの間にかお酒を注ぐ係をやってくれていた。

 ハチも危険水準に達しているが思いの外強くて潰れるまでいっていない。


 リュードとドゥルビョの早いペースに当てられて早いペースになってしまっていた周りのドワーフたちはもうかなり酔いが回って潰れているドワーフも多い。


「コポォ……ふん、強いじゃ…………ねえか」


 並々と注がれた果実酒。

 リュードとドゥルビョは一気に飲み干そうと天を仰ぐように口に酒を流し込んだ。


 リュードが先に飲み終えてコップから口を離した。

 まだ飲み終わらないドゥルビョ。


 次の瞬間、ドゥルビョの鼻からお酒が噴き出した。

 口いっぱいに流し込んだお酒が喉に流れていかなかった。


 ただドワーフの意地で酒を吐き出す真似はしない。

 鼻から流れてしまう分には自分の意思じゃ止められないのでしょうがないが口から戻しはしない。


 それでもコップの中に半分ほど残ったお酒からリュードに視線を向けてドゥルビョはニカッと笑った。

 ゆっくりと後ろに倒れて、ドゥルビョは酒に潰れた。


 清々しい笑顔を浮かべて大いびきをかき始めたドゥルビョ。


「かっ……た」


 辛勝。

 決してリュードにも余裕のある勝利ではなかった。


 空のコップを放り投げてリュードも道の真ん中に大の字になる。


「だいひょーぶ?」


 鼻を押さえたルフォンがリュードを覗き込む。

 お酒の匂いが強すぎて匂いだけで酔ってしまう。


 お酒にあまり強くないルフォンは口呼吸でも若干クラクラする思いがしていた。


「ああ、でも……少し寝るよ」


 リュードも限界だった。

 宿は目の前なのに戻る元気すらないほどに酒が回っていてリュードは重たいまぶたをそのまま閉じた。


 ーーーーー


「……寝てる間に何があった?」

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