お家を探して4
リザーセツと大キラービーが戦い始めて、他も混戦となる。
それほど強くないなんて吐いた自分を殴りたい。
大キラービーは上手くリザーセツの周りを飛びながら針を巧みに操り剣技にも似た戦い方を繰り広げる。
危なくなれば素早く空中に逃げて体勢を整えて再びかかってくる。
体が大きいだけでなく戦いにおいてしっかりと経験値がある。
大きい分力も強くて他のキラービーの純粋なパワーアップ版でリザーセツも苦戦している。
しかし目的は大キラービーを引きつけておくことなので大きな問題はない。
一瞬の油断もできない戦いだが狙い通りに大キラービーもリザーセツに集中している。
知性や経験を感じさせる戦いに感心してしまうがリザーセツもそれほど余裕があるわけでもない。
これまでも戦いでは積極的に前に出て、後ろに下がっている時も周りの状況を見て指示を飛ばしたりしていた。
毒を警戒して大きく回避を繰り返す戦いはリザーセツの体力を奪っていた。
少し休んだからと言って完全回復とはいかないので大キラービーの前にそんなに長いことは持たないかもしれないと思い始めてもいた。
出来るなら早くみんながキラービーを倒して支援してくれるといいのだけど。
「ぐわあああっ!」
「リザーセツ!」
決定打が見つからない。
それでいながら周りのキラービーたちはやられていく。
このままいけばやられてしまう。
そう察した大キラービーは早めにカードを切った。
一度距離を取り、急降下しながら針を突き出す。
リザーセツはまともに受けては危ないと剣で針を受け流そうとした。
その判断にミスはなかった。
けれど剣が針に触れた瞬間、針から黒に近い濃い紫色の液体が飛び出してきたのだ。
ここまで隠してきた攻撃。
大キラービーは針の先から毒を噴射した。
リザーセツは毒をかわしきることが出来ずに肩から腹部にかけて毒を浴びた。
鉄製の防具が溶けるひどい匂いがして、肌に毒が触れる。
その瞬間毒が付着したところに熱いような痛みが走った。
そう何度も使える技ではなく一度放てばしばらく使うことが出来ない切り札だった。
「ルフォン!」
リュードがルフォンに声をかけて走り出す。
疾風の剣のメンバーより誰よりも早くに状況判断をして動いたのがリュードだった。
「させるかよ!」
リュードは小さく旋回してリザーセツにトドメを刺そうと突き出された針を横から剣で切りつけた。
固くて切断はできなかったけれど大キラービーの空中での体勢が崩れて素早く距離を取って逃げる。
ピンチはチャンス。
転んでもただでは起きない。
「行け、ルフォン!」
「任せてぇ!」
反転して大キラービーに背を向ける。
グッと腰を落として剣を持たない左手を低く差し出すリュード。
後ろからはルフォンが走ってきていた。
ルフォンは小さく飛び上がってリュードの左手に足をかけるとリュードは腕を跳ね上げ、ルフォンはリュードの手を蹴り上げて大きく跳躍した。
大キラービーは未だにバランスを戻しきれていない。
空中で体勢を大きくずらしてかわそうとする大キラービーだけどルフォンのナイフは大キラービーの羽の先端を切り落とした。
ケガの程度としては浅い。
しかしご自慢の羽を傷つけられて大キラービーは大きくバランスを崩す。
羽が欠けて正しく飛ぶことが出来なくて壁にぶつかりながらフラフラとバランスを保とうとしている。
「リザーセツ、これを!」
その隙にリザーセツを引きずって下がらせるリュードは腰に付けた袋から小瓶を取り出してリザーセツに渡す。
顔色が急速に悪くなっている。
「こ、これは……」
「解毒できるかは分かんないけどないよりマシだろ」
「クスリってやつは、嫌いなんだけどね……」
鈍い痛みが広がっていく。
リザーセツは感覚もなくなってきた手を伸ばして小瓶を受けると一気に飲み干す。
「くぅ……苦い……けど少し甘い?」
まずは治療薬にありがちな青臭さが鼻を抜ける。
葉っぱの苦い所を集めたような舌にくる苦味が来て、最後になんだか甘さがあった。
リュード特製解毒薬の改良版である。
それには以前に買ったハチミツを使っていた。
ただ苦い薬に甘みを足して飲みやすくしようとかそんなではない。
その魔物から取れる素材でその魔物が生み出す毒を解毒するものが作れることがある。
自身の毒にやられないためか魔物自身は自分の毒に対する耐性があるので魔物の素材を利用するとその魔物の毒に対する解毒薬となるのだ。
ハチがいて、そのハチが生み出すハチミツがある。
ついでにハチは毒を持っている。
細かい調整や研究はできないのでほとんどハチミツを混ぜただけなような形になってしまったので気休め程度だけど効けば儲けもんである。
ポーション効果もあるので少しだけ毒がかかったところの痛みが和らいだ気がする。
リザーセツをダリルに渡してリュードが前に出て大キラービーを相手取る。
羽が欠けたためか見た目にもスピードが落ちて戦いやすくなっていた。
大キラービーの繰り出した毒の噴射は一度限りの大技だったがリュードはそんなこと知らない。
大キラービーが毒を噴射できるということしか知らず正面に立つのは危険であると判断した。
針を避けたり受けたりしながらいつ針から毒が出ても避けられるように戦った。
他のみんなもリザーセツのことは心配だけど心配するからこそ早く戦いを終わらせねばならないと思った。
大キラービーをさっさと倒すことがリザーセツにとって最も良いことだとキラービーを倒す。
リザーセツはダリルとユリディカが必死に治療している。
あとは2人の実力とリュードの薬の効き具合によるだろう。
キラービーの数も目に見えて減ってきた。
このままいけば大キラービーの方まで手が回るのもすぐだろう。
いち早く状況を見たルフォンがキラービーではなくリュードの戦う大キラービーの方に手を出し始めた。
まだ速くてもかなり速度を落とした大キラービーはまともに接近してリュードとルフォンを相手にするのは難しくなった。
「あ、あー……あーあー……あなたたちは何者ですか?」
このままなら押し切れる。
そう思った時だった。
鉱山の奥から歩いてきた。
息苦しくなるほどの強い魔力を感じ、そちらを見て全員の動きが一瞬止まった。
表現するならハチ人間と言ったところ。
ハチの獣人族がいたならばこんな感じなのかなとリュードは思った。
頭の奥底で本能が警報を鳴らす。
キケンダ。
「ルフォン、そっちは任せた!」
リュードは竜人化する。
時として魔物には恐るべき進化を遂げる個体もいる。
原因は誰にも分からないのだけど種の形や力の限界を超えた新たなる姿や力を持って進化することがある。
そうした進化の一つに人化というものがある。
非常に厄介で恐れられる進化の方向性で人化を遂げた魔物は高い知能と能力を持つ。
人化というのだからその特徴は分かりやすい。
人に似た姿を得る。
真人族の姿に近ければ近いほど人化の方向の進化は強いなどという不思議な話である。
今目の前にいるハチはどうか。
戦闘中でなければ見惚れるほどに美しい女性の姿をしている。
背中に羽があり、見た目に僅かにハチのような要素があるから真人族ではないなと分かるぐらいだ。
「敵……?」
人の言葉も話している。
知能の高さが窺えて、それも危険だとリュードは思った。
一撃で仕留めるつもりで剣を振り下ろしたけれどリュードの攻撃は空を切った。
「全員、逃げるんだ……!」
リザーセツが掠れる声で叫んだ。
これは緊急事態だ。
全滅を避け、誰かがどこかに伝えねばならない事態。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます