お家を探して3

「全員戦闘に備えろ!」


 ずっと坑道に響き渡っていた羽音が近づいてくる。

 キラービーが来る。


「えいっ!」


 バレていないと想定することはできない。

 もう相手には侵入したことがバレていると考えて動いた方がリスクを避けられる。


 明かりを消さずに待ち受けるリュードたち。


 ゆっくりと弓を引いたラストはパッと手を放した。

 まだみんなには見えていなくてもラストには明かりのわずかな光でも届いていれば見えていた。


 明かりを反射して僅かにきらめく矢が飛んできてキラービーに突き刺さって後ろに吹き飛ばす。


「4体!」


 ルフォンがキラービーの数を報告する。

 ラストが射抜いたものを除いて4体のキラービーが接近していた。


「ふんっ!


 ふぅん!」


 一歩前に出るダリル。

 キラービーが突き出した針を盾で受け流すように受けてすぐさまメイスを振り下ろす。


 ピシャリとキラービーの体液が飛び散り殴り倒される。

 さすがは経験豊富な使徒。


 リュードは前に出ない。

 ここはリュードが勝手に前に出る場面でないことを周りを見てしっかりと判断する。


 ここは疾風の剣が前に出て戦っている。

 リュードやルフォンもいざとなれば前に出られるように心構えはしているけど下手にしゃしゃり出て連携を乱してはダメなのだ。


 奇襲した時と違って完全に戦闘態勢なキラービーは針で刺さんと攻撃している。

 刺されれば毒に冒されてしまうのでやや慎重な戦いとなったけれど危なげなくキラービーを倒すことができた。


 鉱山の中での戦いは冒険者にとってやりにくい場所である。

 狭くて明かりが足りないので不意の一撃をもらいやすく、互いを邪魔しないためにも連携して戦うことがとても重要である。


 しかしながら狭い坑道での戦いは冒険者たちにばかり不利を強いているのではない。

 むしろキラービーたちにとっても坑道での戦いは非常にやりにくいものだった。


 天井も道幅も狭いのでキラービーご自慢の機動力は発揮できない。

 素早さがキラービーの武器なのにほとんど針での突進しかないようなもので戦いやすかった。


「……おかしいな」


「何がですか?」


「キラービーは厄介な魔物だが単体で見ればそれほど強いとも言えない。


 針も人にとっては致命的な威力があるけどあのミスリルリザードの体を貫けるほどのものじゃないんだ」


「キラービーではミスリルリザードに敵わないと?」


「……戦ってるのを見たことはないけどミスリルリザードも速さに優れた魔物だし、トカゲは虫を食う」


 ミスリルリザードも数がいた。

 棲家となれば必死に守るもので簡単に明け渡さない。


 それがあっさりと明け渡して大移動をするなんてとても考えにくかった。

 今改めてキラービーと戦ってもミスリルリザードの方がキラービーよりもそんなに劣っていると思えなかった。


 リザーセツは頭を振った。

 ここで今ミスリルリザードとのことを考えても仕方がない。


 何が待ち受けているにしろ先に進む他確かめる手段はないし、今外に出ればキラービーに囲まれてしまう。


 さらに進むリュードたち。

 坑道の作りに特別なものなんてなく、他の鉱山と同じく長く奥へと道が続いている。


 敵の出現パターンも鉱山の作りが同じようなもののためにバリエーションもなく、次から次へと奥からキラービーが押し寄せてくる。

 何度も戦っていると冒険者たちも多少キラービーとの戦いに小慣れてくる。


 体力の温存や回復のためにリュードやルフォンも交代で前に出て戦う。

 リュードたちが戦うことに不安そうにしていたもう1つのパーティーもリュードとルフォンがそつなく戦いをこなし、ラストが矢でキラービーを仕留めていくと態度を改めた。


 元々この鉱山の内部にはいくつか空洞となっている部分がある。

 ドワーフもそうした空間を休憩所として利用していたのだけどキラービーもそこでリュードたちを待ち受けていた。


 空洞部分は坑道よりもはるかに広く、キラービーの機動力も多少は活かせる。

 機動力を十分に活かせるほどの広さはないけどこれまでよりも速さを生かした戦いを繰り広げてきた。


 キラービーとの戦いで優先したのは針の毒を受けないこと。

 それなので時間がかかる戦い方にはなるけど回避や防御を確実に行い、針を受けないように気をつけて戦う。


「これだから毒持ちと戦うのはイヤなんだ」


 時間はかかったけどケガ人もなく空洞に待ち受けていたキラービーを倒した。

 道を魔法で一旦塞いで休憩所で休む。


 肩の凝るキラービーとの戦いに冒険者がふと漏らした。

 キラービーの毒は強力で短い時間に死に至る。


 危険であるのだが生息域が限定されてメジャーな魔物じゃないので研究もされていない。

 どれほどの量で危険でどれほどの時間で死に至るのかも不明。


 解毒薬も現在はなく聖職者のダリルやユリディカに頼るしかない。

 そうなると治療の間聖職者は無防備になり他の人の回復や強化が出来なくなる。


 1人毒にやられると一気に崩れることも考えられる。

 だからこそ完全に針を回避していくことが大切なのである。


 当たるつもりなど誰1人もない。

 けど常に気を張り完全にかわし続けるのは精神的にも疲れてしまう。


「しかしやるな、リュード!」


「ルフォンちゃんとラストちゃんもすごいじゃない!」


 明るい会話をして気分でも上げるのは大事なこと。

 疾風の剣とは別のパーティーの男性冒険者がリュードを褒め、女性冒険者がルフォンとラストのことを褒めた。


 最初は不安だった3人の実力を目の当たりにしては認めざるを得ない。

 自分たち、あるいはゴールド相当の実力がある疾風の剣と比べても何の遜色もない活躍をしている。


 十分すぎるぐらいの戦力になっている。

 戦いが楽になっていたし今後も期待できるので気分が少し軽くなる。


「よし、そろそろ行こうか」


 休憩はするけど体を冷やしすぎてもまた戦いモードにするのが大変になる。

 ほどほどの休憩で切り上げて先に進むために魔法で作った壁を壊すことにした。


「避けろ!」


 壁が崩れると同時にキラービーが飛び込んできた。

 壁を作り出し、崩していた疾風の剣のメンバーである魔法使いは体をねじって回避しようとしたがかわしきれなくてキラービーの針に腹部を貫かれた。


「ジョルジュ!」


「ダリル、治療を!」


 リュードとリザーセツが走り出す。

 リザーセツが大きく剣を振ってキラービーを追い払い、リュードがジョルジュを抱えて大きく後退する。


 開いた道からキラービーが続々と入ってくる。

 これは危険だとリュードはすぐさま坑道にまで下がってダリルの前にジョルジュを横たわらせる。


 キラービーもわざわざ狭い坑道の方にまで追いかけてくるとはしないで休憩所で戦うみたいである。

 リュードは力一杯ジョルジュの服を破く。


 腹の傷口周辺はすでに黒ずんでいる。

 キラービーの毒に冒されている。


 ダリルとユリディカがジョルジュの治療を始めてリュードはキラービーとの戦いに走り出した。


 ジョルジュを倒したキラービーは他のキラービーよりも一回りほど大きい個体だった。

 威圧感があり、全体を俯瞰するように高い位置から見下ろしてくるその姿にリザーセツはこいつがキラービーのリーダーなのでないかと思った。


「僕がアイツを引きつける!


 みんなでキラービーを減らしてくれ!」


 リザーセツが単体で大きなキラービーと戦って、その間に周りのキラービーの数を減らしていく作戦。

 俯瞰していた大キラービーはリザーセツが指示を出していることを見ていた。


 知恵が少しあるキラービーはまず指示を出しているリザーセツを倒すべきだと考えた。


 リザーセツは大キラービーを引きつけようと思い、大キラービーはリザーセツを倒そうと思った。

 両者の思惑は一致した。

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