お家を探して2
手の届く位置にいて不意をつければ防御力の低いキラービーは脅威ではない。
手練れの冒険者たちは素早く羽から狙い、あっという間にキラービーを倒した。
「どうしてこんなところにキラービーが?」
キラービーのことを知る疾風の剣のみんなは困惑したような表情を浮かべた。
森の奥などの自然が豊かな場所に巣を作るキラービーは鉱山などの自然の少ないところでは活動しない。
1匹だけ何かの理由で巣を離れて普段見ないようなところで見る可能性があっても今いたキラービーは3匹。
3匹ものキラービーがまとまって動いているのは経験上巣の周りの見張りぐらいである。
鉱山、そしてミスリルリザードの異常な移動、キラービー。
1つに繋がったような気がして、誰も口にそれを出せなかった。
ミスリルリザードの異常な移動はキラービーが関わっている。
いやもしかしたら鉱山に次々と魔物が現れたのも、とリュードは思った。
ここから先にはキラービーがいる。
みんなが一層の警戒をする。
「いやー……あれは」
鉱山近くにある林の中にある休憩小屋。
そこから鉱山の様子を伺う。
リュードは遠視の魔法を使うが他の冒険者は望遠鏡を取り出していた。
予想通りだった。
鉱山の周りには警戒しているキラービーが飛んでいて何匹かが出入りしているのも見えた。
明らかに今現在鉱山を支配しているのはドワーフでもミスリルリザードでもなく、キラービーであった。
鉱山の中に巣を作っているのか規模は外から分からない。
しかし巣が作られているとしたら危険な状況である。
「リュード、あれ見えるか?」
「あれ?」
「あっこ……入り口のところだ。
この望遠鏡じゃ見えなくてよ」
遠視の魔法は難しいものでなくても1本望遠鏡を持てば事足りるのでわざわざ習得する必要もない魔法である。
遠視の魔法を練習するなら攻撃魔法の1つでもやった方がいいと言う人も多い。
何がいいかなんて人それぞれだからリュードもそれに文句つけることはないけど望遠鏡がなくても遠くが見れるのでリュードは便利だと思っている。
リュードはより魔力を強めて倍率を上げる。
あっこがどこかいまいち分かっていなかったのでとりあえず入り口付近を探してみる。
「あっ!」
「見えたか?」
鉱山にある入り口の1つの前に剣が落ちているのが見えた。
少し前まではドワーフに管理されていた鉱山なので忘れ物なはずはない。
長らく放置されたようにも見えず、よく観察してみるとその剣には見覚えがあった。
失踪したパーティーの冒険者が腰に差していたものによく似ている。
断定はできないけど状況から判断すると否定もできない。
リュードがそのことを伝えるとみんなに緊張が走る。
「いや、まだ死んではいないかもしれない」
誰もが冒険者たちの最悪の末路を想像した。
ただ死んだと決めつけるにはまだ早い。
なぜなら剣が落ちていたからである。
偵察では鉱山に不用意に近づくことはない。
今近づくのはリスクが高いし、魔物に見つかれば警戒されてしまうからだ。
それなのに鉱山の入り口に剣が落ちていた。
そこから予想できるのは冒険者たちが鉱山の入り口に近づいたか、魔物に連れ去られたかである。
自ら入り口に近づくことは考えにくいので魔物に連れ去られたと考えることができる。
それがイコール生きているではないけどキラービーは女王蜂に捧げるのにまだ生きている魔物を連れ去って生き餌にする習性があることもごく稀に見られていた。
どうするのかみんな悩んだ。
リスクや状況のハッキリとした見通しが立たない。
どうなっているのか情報が少なく戦略を考えることができない。
キラービーが鉱山にいて、冒険者が鉱山に連れ去られた可能性がある。
そしてその冒険者も生きているかは分からない。
不安を減らすためにはこのまま偵察して情報を集めるのがいいのだけどそうしている間にも冒険者たちの命の期限は迫っているのかもしれない。
「やろう」
最初に意思を見せたのはリザーセツだった。
真っ直ぐな決意を込めた目でみんなを見る。
ドワーフの依頼がある以上鉱山を取り戻すのにキラービーを倒す時が来る。
時間が経てば経つほどキラービーが増えることだって考えられる。
今ここが正念場で、乗り越えねばならない。
リザーセツの言葉にみんながゆっくりと賛同し始める。
安全を取って退くことを選べば今この場で死ぬことはない。
しかし例え失踪したパーティーが死んでいたとしても見捨てて見殺しにする判断をした結果は後に残る。
一緒に依頼をやるとなった以上は他のパーティーでも仲間だ。
仲間は見捨てない。
定石通り二手に分かれて攻略することにした。
全員で突入しても狭くて全員では戦えない。
効率やリスクの分散を考えるとやはり2つに分けるのがちょうどいい。
リュードたちは疾風の剣と共に行くことになった。
リザーセツが引き入れたのだし最後まで責任を取る形となった。
鉱山奪還作戦というより失踪パーティー捜索作戦。
まず問題はどう鉱山に近づくかである。
林から鉱山までも少し距離がある。
見つからずに鉱山まで行くのはほとんど不可能である。
見つかってしまえば鉱山からキラービーたちが飛び出してくる。
広い外で戦うのはリュードたちに取って大きく不利になってしまう。
見張りのキラービーをどうにかしなきゃいけないが手が届かない。
ラストなら1体ぐらいは倒せるが数体見張りがいるので同時に複数体を倒し切るのは腕が何本かない限り無理である。
「……あまり良くないことだけど火をつけようか」
地図を眺めていたリザーセツが提案した。
鉱山周りには今いる林の他にもう1つ林がある。
どちらかの林に火をつけてキラービーの気を引こうというのである。
自然に火をつけるなんて言語道断の行いであるけれど背に腹はかえられぬ。
林から鉱山までの距離やこちらには休めるコヤがあることからもう1つの林に火をつけるのがよいだろうということになった。
鉱山から離れるようにして足の速い冒険者たちがもう1つの林に向かった。
鉱山のギリギリ裏にあるのでもう1つの林は見えない。
「うまくやったようだな」
鉱山の向こう側から煙が立ち上るのが見えた。
それに気づいたキラービーたちが一斉に燃える林な方に向かう。
少し遅れてもう1つの林を燃やしに行っていた冒険者が戻ってくる。
まだキラービーたちは戻ってこないので今がチャンスだとリュードたちは鉱山に向かった。
剣の落ちていた入り口にリュードたちは来た。
剣を拾い上げる。
手入れのしっかりとされた剣は間違いなく失踪したパーティーの冒険者のものだった。
剣は非戦闘員のデルデが預かってリュードたちは鉱山の中に侵入した。
鉱山の中は想像よりも広いけど綺麗ではなかった。
壁や天井がやたらとデコボコとしていて、これまでの綺麗に掘り進められた鉱山とは様子が違っている。
デルデがため息をついて否定した。
これはドワーフがやったのではないと。
こんな雑に広げると崩れやすくなるし他の道などと不用意にぶつかる可能性も出てくる。
これはミスリルリザードのせい。
鉱石を食べて体を強化するミスリルリザードは手当たり次第に鉱山の中身を食べる。
おそらくここがミスリル鉱のある鉱山だったのでミスリルリザードになったのだ。
元はオーアリザードという適当にそこらの石でも食べて体を強化するトカゲ系の魔物の一種らしい。
ともかくそのオーアリザードだかミスリルリザードだかが食べたせいで坑道が広がっていた。
綺麗に食べるなんてことはしないのでデコボコしてしまうのは当然のことであった。
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