お家を探して1

 パーティーが失踪した。

 このことは大きな衝撃をみんなに与えた。


 失踪したのはミスリルリザードの鉱山を調査に行った冒険者パーティーでゴールド−の冒険者が率いていた。

 実力も確かで無理をするパーティーでもなかった。


 戦闘ではなく調査に行ったのだから全滅する可能性も高くはないはずだった。

 それなのに鉱山を取り戻しに行った冒険者たちが鉱山を取り戻して帰ってきても調査に出たパーティーは帰ってこなかったのだ。


 やはり何かが起きている。


 話し合いが行われて鉱山の奪還は一度止めてミスリルリザードのいた鉱山の調査と失踪したパーティーの捜索を優先することになった。

 そもそも複数の鉱山をそれぞれ違う魔物がほとんど同時期に占拠するというのも異常事態だった。


 魔物がナワバリを変えることは滅多にない。

 ミスリルリザードが棲んでいた鉱山を捨てて移動することも異常だし、その原因がミスリルリザードがいた鉱山にある。


 そうリュードたちは結論づけた。


 ドワガルの防衛力に不安は残るが鉱山に起きている事態が予想もできない以上一緒に行く戦力は多い方がいい。

 リザーセツからの提案でリュードたちも鉱山の調査に共に赴くようにお願いされた。


 こうなったら乗り掛かった船。

 解決しないことにはリュードだってドワガルを離れられないので3人の総意で快諾した。


 リザーセツは戦いとなればリュードたちが大きな戦力となってくれることに期待を寄せていた。

 失踪したパーティーを探すなら早く見つけ出さなければならない。


 早速冒険者一行はミスリルリザードいたディンダルという鉱山に向かった。

 依頼の責任者であると言い張ってデルデも付いてきていた。


 さらにこの件には関係のないダリルも付いてきてくれることとなった。


「まさかこのようなところで使徒様にお会いできますとは思いもしませんでした!」


 ユリディカは歩きながら胸の前で手を組んで神に祈りを捧げている。

 ユリディカとダリルは信仰している神様が違う。


 ダリルは主神、創造神であるケーフィスを信仰していている。

 ユリディカは愛の神ソフィヤを信仰している。


 けれど神様にも派閥みたいなものがあり、特にケーフィス一派の派閥では信仰する神様が違っていても大きく見ると同じ宗派のような感じなのだ。

 ケーフィスとソフィヤは仲良し神様グループなので他宗教の使徒でもユリディカから見ると格上の聖職者となる。


 ついでにユリディカから初めて聞いたのがダリルの二つ名。

 破壊の救い手と呼ばれるダリルは有名な使徒であった。


 戦うことで人を救う使徒にも有名な人は何人もいてその中の1人がダリルであった。

 破壊の救い手などいかにも物騒な二つ名だけど実際にダリルの戦いぶりを見てあの破壊力を見れば納得の呼び方だ。


 話に聞くとダリルは女性の聖者とペアで活動しているらしいが今は単独で動いている。

 多くの人を救ってきたことでも有名でお高くもとまらない性格で人気もある。


 ユリディカはダリルとの出会いに感謝をしていた。


「よせ、私は何もしていない。


 人を救っているのはテレサの方だ」


 尊敬の眼差しを向けられてもダリルは微笑んで驕ることもない。

 ダリル本人としては尊敬されるべきは自分ではないと本気で思っている。


 ダリルと組んで活動しているパートナーのテレサの方が崇高な精神を持ち、その能力で人を救ってきた。

 だからその尊敬の向きはテレサに向けられるもので自分に向けられても嬉しくはないのである。


「ご謙遜なさらずともよろしいのに……


 お噂に聞き及んでいらっしゃいますダリル様がご一緒でしたら非常に心強いです」


「私は私に出来ることをするだけだ。


 過度な期待はよしてくれ」


「分かりました」


 特にユリディカが感動しているので目立たないけれどダリルは他の冒険者にも知られていた。

 こうした神の使徒や聖者は冒険者の間でも名が知られているものだ。


 ダリルは対価を要求することもなく善意で人を助けるので冒険者にとっても良い使徒で有名だったのである。


「ダリルさんってすごい人だったんですね」


「ルフォンまでやめてくれ……」


 困った顔をするダリル。

 本当に自分がそんな風に言われる人だと思っていないのである。


「リューちゃん……」


「ああ……」


「みんな静かに!」


 冒険者の1人が口に指を当てて黙るように指示する。

 熟練の冒険者たちはサッと押し黙り周りの警戒を始める。


 静かになるとよく聞こえる地鳴りのような低い羽音。

 ルフォンやリュードには冒険者よりも早くに聞こえ始めていて、今やっとみんなにも聞こえた。


 聞き覚えのある音。

 パッと思い出せなくてラストが首を傾げた。


「えっと、この音って……?」


「キラービーだ」


 リザーセツが答える。

 大森林周辺で活動していない冒険者には分からなかったがリザーセツは普段大森林で活動している高ランク冒険者なので分かる。


 みんなで木が密集して空から見にくいところに移動する。

 少し待って羽音が振動にまで感じられるほどに聞こえてきてキラービーの姿が見えた。


 キラービーを初めて見る者もいた。

 どこにでもいる魔物じゃなく生息域が限定され巣の規模によって危険度も変わる魔物で他に巣が見つかると早めに処理されてしまうので広く知られていなかった。


 キラービーを知っているリザーセツなど何人かは険しい顔をしていた。

 キラービーは面倒な魔物である。


 早いし空を飛んでいる。

 太い針は驚異的だしキラービーの持つ毒は冒されると致命的になる。


 離れた個体はそうでもないが巣を作り、集団でいるキラービーを相手取るのは簡単なことではない。

 鉱山に何がいるのか予想がついた。


 リザーセツの指示で戦闘にすぐに移れるような準備をして進むことにした。

 鉱山まではあと少しなのにここから急激に木々が減って身を隠せる場所が減るためにキラービーに見つかる危険がはるかに高くなるからだ。


 下手に隠れようとするよりも見つかったキラービーを早く倒した方が効率的。

 覚悟を決めて戦うのが正しい判断である。


「いたぞ」


「まだこちらに気づいていないな」


 声をひそめて会話する。

 風向きも味方してくれていた。


 キラービーの嗅覚について聞いたことがある人は誰もいない。

 そんな時は大体優れていない。


 それでも臭いでバレることは魔物相手でよくあることなので警戒するに越したことはなく、今はキラービーの風下にいるので鼻が敏感でもバレにくい。

 先ほど見かけたキラービーは1匹だけだったが今回見つけたキラービーは3匹。


 見回りでもしているかのように低空をゆっくりと飛んでいた。


「よし、仲間を呼ばれる前に倒してしまおう」


 逃げられて仲間を呼ばれたら面倒なことになる。

 速攻で勝負を仕掛ける。


「いけ!」


 冒険者の中でも足の速い者が飛び出していく。

 ルフォンもその1人。


「放て!」


 近づいてくる人の気配を察知したキラービーが振り返る。

 そのタイミングでラストを含めた遠距離攻撃組が一斉に攻撃する。


 ドワーフ製の強弓を使うラストの矢は他の人の魔法などに比べて速度が速い。

 1番奥にいたキラービーの眼に半分ほどまで深々と突き刺さる。


 一瞬遅れて矢に込められた魔力が爆発する。

 脆いキラービーの頭はそれだけで吹き飛び、1発で1匹が戦闘不能になる。


 後ろのキラービーがやられたことに他のキラービーは気づかなかった。

 そのために他のキラービーたちは動揺がなくなんとか魔法を回避した。


 ただ冒険者たちはキラービーよりも上手だった。

 キラービーを狙った魔法もあればキラービーを直接狙っていない魔法もあった。


 高めに放ってキラービーが上空に逃げることを防ぐ目的の魔法もあり、キラービーは相変わらず地面付近の低空を飛んでいた。

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