冒険者にお任せあれ3
「リザーセツさん、起きてください!」
ドワーフを枕にして眠りに落ちているリザーセツはこんな道のど真ん中に寝ていても姿勢が良かった。
声をかけただけでは起きない。
お酒が入っていることは確実なので荒めに起こすしかない。
軽くゆすることから始めて、強くしていく。
「んが……シューナリュード…………さん?」
うっすらと目を開けるリザーセツ。
そのままもうちょっとゆすって起きてもらうけど目がトロンとしていて酔いが回っている。
一般の人ならこんなものだろう。
リュードの体が異常なのだと改めて思う。
「魔物です。
緊急事態ですよ!」
「ま、まものぉ?
くぅ……ダメだ…………
ユリディカを……僕の仲間のユリディカを呼んでくれ」
「分かりました。
これ飲んでください」
「悪いね」
リュードはなんとか体を起こしたリザーセツに水を渡す。
リザーセツは頭を振って思考を取り戻そうとするが全く頭が働かない。
状況を把握しようにも持っている水さえ飲むことが難しい。
まだ眠りに落ちてしまってからそんなに時間も経っていない。
お酒が抜けるどころかむしろ十分に身体に回りきってしまっている。
騒ぎを聞きつけたドワーフにリザーセツの仲間を呼びにいってもらって、リュードはその間に宿に戻って剣を取ってくる。
走って駆けつけてくれた疾風の剣のみんなは割とすぐにリザーセツのところに到着した。
「何してんだ!」
リュードが剣を取って宿から出てくるとリザーセツは吐いていた。
何の言い訳もできない状態に疾風の剣のみんなが呆れている。
「うぅ……酒くさぁ」
「依頼の最中に良いご身分だな」
「いや……違うんだ」
涙目で否定するリザーセツだけど酒を飲んで酔い潰れて吐いてしまった事実は変えようもない。
「緊急事態ってことなんだから感謝しなさいよ!」
リザーセツが呼んでほしいと言っていたユリディカ。
彼女は聖職者であった。
前に出てリザーセツの背中に手を当てて治療を始める。
お酒はある種の毒と同じ扱いで神聖力による治療ができるのだ。
だからといって酔っ払って教会に行っても治療なんかしてもらえないけれど今はリザーセツの仲間だし緊急事態なので渋々治療をしている。
酒酔いも二日酔いも治療できるのだから面白いものである。
吐いて青白くなっていたリザーセツの顔色が落ち着いていく。
「すまない……」
「謝るなら最初からやらない!」
「面目ない……」
頭がスッキリとしてきて気分が良くなる。
潰れるほど飲まされたので治療にも多少の時間がかかったけれどリザーセツはなんとか回復した。
「ほら、リーダーの装備だ」
「悪いね」
ちゃんと分かっている人たちなのでリザーセツの装備も持ってきていた。
「リュードさん、集まりました!」
「ありがと……う」
そうこうしている間にドワーフたちが集まっていた。
それを見てリュードは絶句した。
デルデが特別ゴテゴテとした装備をしているものだと思っていた。
しかしそうではなかった。
集まったドワーフたちは各々が作った立派なフルアーマーに身を包んでいた。
防御力は高そうだけど機動力が無さそうな鎧の集団となっていた。
1人でもうるさいのにそれなりの人数集まっているためにガチャガチャとすごくうるさい。
ドワーフが長いこと国を封鎖して実戦を忘れてやや見た目の美を追求し始めてしまったために起きた弊害であった。
「とりあえず何が起きたのかの状況説明を頼む」
準備を終えたルフォンとラストも来た。
疾風の剣のみんなもいるしこれなら一度の説明で済む。
「原因は不明なのですが魔物の群れがドワガルの方に向かってきているのを警戒中の衛兵が発見しました。
魔物はミスリルリザードでおそらく鉱山にいた魔物だと思われます」
ドワガルの所領はドワガルの町だけでなく鉱山までの間も一応ドワガルとなる。
特に鉱山周辺は鎖国や国の封鎖をしていなくても関係者以外立ち入り禁止の場所なので見回りがいる。
その見回りが移動する魔物の群れを見つけた。
異常な魔物の移動、しかもその方向はドワガルの方向であった。
来た方向と見回りの話を合わせるとミスリルリザードがその魔物であるようだ。
みんなの頭に浮かんでいたのは討伐の失敗や手違いによって鉱山から魔物が逃げ出してきたのだと考えていた。
けれど今冒険者たちが向かっている鉱山はミスリルリザードの鉱山ではなく、方向も違っていた。
これまでの傾向として魔物は鉱山から大きく離れることはなかった。
そのために調査も楽で、討伐も鉱山の中で行うことになっていた。
原因もわからない魔物の移動に一同に緊張が走る。
今はその原因を考えている時間はない。
被害が出る前にミスリルリザードを何とかせねばならない。
ミスリルリザードは非常に硬く、生半可な攻撃は通じない。
素早さも高いのでドワーフたちでは対処が難しい。
「数は分かりますか?」
「正確なことは分かりませんが30体ほどであるかと」
多すぎる。
リザーセツはため息をついた。
リュードたちを戦力と考えてもミスリルリザードの数が多い。
ドワーフの頭数はいるけど戦力として未知数な以上確実な数に数えることはできない。
このまま放っておけば町中に入ってくる危険も考えられる。
そうなると戦いの備えもしていない一般のドワーフたちも入り乱れて余計な危険が発生する。
さらに問題なのは門の外である。
ドワガルに入りたい人たちが集まるキャンプがある。
まず狙われるとしたらそこだ。
ドワガルよりも前にそこにいる冒険者なり商人なりが襲われることだろう。
少し魔物がいることはあるけどドワガルの前で大量の魔物に襲われたなどドワーフたちの信頼にも関わる。
ドワーフの信頼まで守る必要はないけど門を固く閉じて自分だけが助かれば良いと考えるほどリザーセツも人間が出来ていない。
鉱山を攻略に出ている冒険者たちだって帰ってくる時に魔物に遭遇してしまう可能性がある。
不意の遭遇、しかも攻略して疲れている時に何の備えもなく戦い始めると被害が出るに違いない。
「うーん、じゃあこんなんはどうですかね?」
ただ他のためとはいっても自分たちに被害を出しながら戦うほどの自己犠牲精神も備えてはいない。
悩むリザーセツにリュードが提案をした。
「……悪くないかもしれないな」
リュードの提案は悪くない作戦。
リュードはリザーセツとは比べ物にならないほど酒を飲んでいるのに潰れる様子もなく思考がはっきりしている。
それどころか頭の回転が早く、ユニークなことを思いつく。
将来有望な冒険者だ。
リザーセツはだいぶリュードのことを気に入っていた。
ーーーーー
「27」
「30よりは少ないか」
見回りのドワーフがかなり早めに気づき、倒れるほどの猛ダッシュで伝えてくれたためにすぐさま戦わなきゃいけないほどではなかった。
魔物の場所や数を把握するために疾風の剣のメンバーが偵察に出て帰ってきた。
ドワーフが見た時には走っていたけれど現在のところ少し速度を落としてミスリルリザードがドワガルの方向に進行中。
その数は27体であった。
30と言われていたよりは少ないけれどそんなに差はない。
「よし……みんな!
今ここにいるのは僕たちしかいない。
ドワガルを守れるのは僕たちだけだ。
家族や大切な人を守れるかはみんなの働きにかかっている。
頼むぞ!」
「えっ…………や、やるぞ!」
「やるぞ!
おっー!」
「…………」
「落ち込むなよ、リーダー」
「なんだかすいません……」
「いや、いいんだ」
リザーセツが士気を上げようとカッコ良く言葉を投げつけたがドワーフたちはリュードの方に視線を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます