冒険者にお任せあれ4
リザーセツへの信頼はまだ薄い。
そこまで露骨にやらなくてもとは思わなくもないけどいざ戦いが始まって言うことを聞かない事態になるより明確でよいかもしれない。
信頼関係が気づけるほどの時間を過ごしていないので仕方のないこと。
緊急事態においてもそのような態度を取られるのは傷つくけど受け入れる必要がある。
ドワーフの信頼の差はわかっていたじゃないか。
急ぎドワガルを出てミスリルリザードを迎えうつ準備をする。
ドワガル前のキャンプにも危険を知らせて避難を呼びかけた。
リュードたちが移動する間にミスリルリザードはさらに速度を落としてくれたので思い通りの場所まで行くことができた。
戦場に選んだのは開けた草原。
森など木々があると速いミスリルリザードの方が有利であるし指揮するのも大変になる。
ミスリルリザードがこのまま進むなら通る場所でもあるのでちょうどよかった。
「見えたぞ!」
「全員構えるんだ!
……シューナリュード君!」
「みんな構えて!」
「それ来た!」
やはりよくはなかった。
二度手間になるのだから大人しく従ってくれればいいのに。
リュードの号令でズラリと並んだドワーフが一斉に盾を構えた。
ドワーフの身の丈ほどもあって幅もあるタワーシールドのみをドワーフたちは持っている。
シールドも自作のものなので各々のデザインなり形なりしているけど全員盾を持っていることに変わりはない。
これはリュードが提案した作戦だった。
ミスリルリザードは防御力が高く生半可な攻撃ではダメージを与えられない。
ドワーフでは攻撃力に不安があるし一々フォローもしていられない。
しかしドワーフは重心が低く体格が良くて力強い。
それを生かそうと思った。
攻撃がダメなら防御。
盾を構え3人1組となって防御に徹して戦いに参加してもらうことにした。
ミスリルリザードの四足で地を這う魔物なので攻撃の位置が低い。
背の低いドワーフの防御とは相性が良かった。
盾持ちドワーフの数だけはいるので徹底してミスリルリザードの攻撃を防ぎ分断してもらって、その間に疾風の剣やリュードたちでミスリルリザードを倒していく。
時間がかかろうが安全かつ確実にミスリルリザードの数を減らしていく。
こちらから見えたということはミスリルリザードの側からも見える。
ミスリルリザードは待ち受けるリュードたちのことを敵だと認識して速度を速めた。
「前へ!」
この際一切の指揮を任せた方が円滑でいい。
ドワーフに指示を出すのはリザーセツでなくリュードになった。
盾を構えたドワーフ構えに出る。
「放て!」
十分に引きつけてラストが矢を放ち、疾風の剣の魔法使い2人とリュードも魔法を発動させる。
ラストの矢はミスリルリザードの目を正確に射抜いた。
いくら体が硬かろうとも目まで硬いとはいかない。
深々と矢が突き刺さり、そして矢に込められた魔力が爆発を起こす。
中身も特別硬くないミスリルリザードは内側から爆発させられてあっさりとやられた。
魔法使いたちが撃ったのは火の魔法。
それぞれの魔法がミスリルリザードに当たるが外皮の魔法耐性の高いミスリルリザードにはダメージは通らない。
が魔法使いたちは魔力を送るのをやめない。
ミスリルリザードに当たった火は燃え続ける。
異常を覚えたミスリルリザードだったけれどもう遅い。
目や口に火が回り、関節などのわずかな柔らかい部分が焼け、熱に体の中がダメージを受け始める。
転がって火を消そうとするが魔法の火はそんなことでは消えず、耐えきれなくなったミスリルリザードはプツリと意識が途絶えて死んでしまった。
単に魔法の威力だけに頼らない上手いやり方。
こうした戦い方が出来るのも高ランクの経験の差であり、そして火属性の利点でもある。
そしてリュードはお得意の雷属性。
リュードの上にバチバチと音を立てる雷の塊が2つ浮き上がり、手を前に突き出して魔法を発射させる。
太い雷のビームが放たれてそれぞれミスリルリザードにヒットする。
やりたいことは火属性と似たようなもの。
火属性よりも容易くミスリルリザードの内部にダメージを与えるリュードの雷はミスリルリザードの体の中を焼き尽くした。
高威力の魔法にみんな驚いている。
雷を崇めよとちょっとだけカッコつけてみる。
「無理はしなくていい。
しっかりと受けるんだ!」
仲間がやられても何のその。
接近してきたミスリルリザードは飛びかかってきて噛みつこうとしたり、尻尾を叩きつけてきた。
ドワーフにも意地がある。
盾を構えたドワーフはどっしりと地に足をつけミスリルリザードの攻撃を受け止める。
中には耐えきれずに後ろに飛ばされるドワーフもいるが3人1組のためにすぐに他のドワーフがフォローに入って危険はない。
ほとんどドワーフを押されることもなく押し返すことができた。
「はっ!」
ミスリルリザードの波を受け止めた。
状況は均衡となり、こちらも接近の攻勢に出る。
ドワーフが盾で体当たりしながら前に出てミスリルリザードを分断させる。
そうして出来た間からリザーセツが前に出た。
要するにめちゃくちゃ硬いトカゲであるミスリルリザード。
背中から尾にかけて非常に硬く、それ以外の全身も剣が通らないほどの硬さを誇っている。
いかにして戦えばいいのか。
ゴールドランクまで上がった実力は伊達ではない。
リザーセツはあえてミスリルリザードの正面に回り込む。
正対すると攻撃の手段は限られる。
しなやかで意外と長い尻尾での攻撃はわざわざクルリと体を反転させることになるからやらなくなる。
ミスリルリザードはリザーセツに噛みつこうと飛びかかった。
口を大きく開けて、高く飛び上がる。
しかしそれはリザーセツの狙い通りだった。
引くでもなく剣を突き出したリザーセツ。
狙いは一点。
口の中である。
とことん体の外皮を硬くして魔法への耐性が高いミスリルリザードだけど裏を返せばそれ以外は弱い。
リザーセツの剣はミスリルリザードの上顎に突き刺さり、頭の中まで入って、頭の上にぶつかる。
内側からでも外皮は硬いので突き出てはこない。
頭の中を突き刺されたミスリルリザードはそのまま後ろに突き飛ばされて動かなくなる。
正確さ、それに大胆さも兼ね備えている。
相手に怯まず狙いすまして正確に突き抜く必要があるし失敗すればやられて大怪我なので度胸もいる。
爪で引っ掻く攻撃もあるのでその見極めも必要で簡単に見えて簡単なことではない。
「ほぅ……なかなか……」
素早く周りの状況を見るリザーセツ。
フォローが必要なところや体が大きく優先して倒す必要のあるミスリルリザードを確認する。
思わず感嘆の声を漏らした。
「ラスト!」
「はいよ!」
ルフォンとラストは2人1組で動いていた。
周りを気にしながらもドワーフに任せてしっかりとミスリルリザード1体を開いて取る。
ルフォンがミスリルリザードの気を引いて戦うけれど単に囮になっているだけではない。
関節部分の曲がるところは他に比べて柔らかい。
ミスリルリザードを上回るスピードで相手を翻弄しながらそんな弱い部分を切り付けていた。
他に比べて柔らかいといっても比べたらの話で硬いのにルフォンはしっかりと魔力をナイフに通して容易く見えるほどに切り裂いていた。
ラストはラストで集中力を高めていた。
ルフォンの動きを見ながら矢をつがえて弓を引く。
関節を攻撃されて動きが鈍くなりルフォンに完全に気を取られたミスリルリザードの目や口を狙う。
動いたルフォンに遅れて反応して首を振ったミスリルリザードの喉奥に矢が突き刺さる。
近くだとラストでも追いきれないけど少し離れていればもうルフォンがどう動くのかも分かっている。
ミスリルリザードがラストの方に顔を向けるわずかな隙を狙った。
喉奥で魔力が爆発して、ミスリルリザードはひどく苦しむ。
一撃で絶命はしなかったが喉が潰れてはそう長くはもたない。
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