冒険者にお任せあれ2

「なるほど。


 こうやってドワーフの信頼を得ていたのか」


 休みのパーティーは順番で決まる。

 5つの鉱山があるのでちょうど5パーティーで1回ずつ休むことになるのだ。


 2ヶ所目の鉱山の攻略は疾風の剣がお休みの番となった。

 リュードたちと一緒におらずに町中を歩くと良い顔をされないことはわかっているけれど部屋にこもっていても暇なだけ。


 どうせならドワーフと仲良くなりたいと思い、リュードにその秘訣でも聞いてみようと思った。

 リュードが泊まっている宿に向かったリザーセツ。


 その時間は朝なのだけれどすでに宿の前にはドワーフたちが集まっていた。

 聞かずとも目で見て秘訣がわかるかもしれない。


 リザーセツは気配を消してドワーフたちとリュードがどう交流を始めるのかを見学し始めた。

 単なる興味である。


 もうすでに酒盛りを始めているドワーフがいるし、みんななぜかお酒を持っている。

 樽を背負ってるドワーフや荷台に積んできているドワーフもいて何が始まるのか分かるけど何をするつもりなのか理解ができない。


 ドワーフたちはお酒の他に持ってきた武器やら宝石やらを比べてやんややんやと議論している。


 そうしていると宿からすごい嫌そうな顔をしたリュードが出てきた。

 ドワーフたちが先ほどまで議論していた武器について尋ねて、リュードがそのうちの1つを指差すと1人のドワーフが喜んだ。


 それをリュードに渡し、ついでにカップを渡すと並々とお酒を注いだ。

 周りのドワーフもワッと盛り上がり、向かい合うドワーフのカップにも並々とお酒を注ぐ。


 一度リュードがガックリと項垂れて大きく息を吐き出すと覚悟を決めた様に顔を上げた。

 まさか本当に朝から酒盛りをするのかと驚いたリザーセツ。


 周りにいたドワーフに何をしているのかそれとなく聞いてみる。

 あれは酒飲み勝負。


 降参するか、酒を飲みきれなくなるか、潰れるか。

 冒険者でも時々やる勝負なのでリザーセツも分からなくないけれど朝っぱらから宿の前でそんなことはやらない。


 さらにドワーフはお酒が好きで同時にお酒に強いことも知っている。

 ドワーフが作る酒は美味いが強いなんてのも聞いたことがある。


 普通の人が飲めばあっという間に酔っ払ってしまうようなドワーフの酒をリュードは一気に飲み干した。

 危ないのではないかとリザーセツは思った。


 酒を飲みすぎていきなり倒れてしまう奴もいる。

 強い酒を一気に飲み干すなんて危険すぎる行為である。


 向かい合うドワーフも同じく一気に酒を飲んで、豪快に笑う。

 空になったカップを確認してさらにまた酒を注ぐ。


 リュードがドワーフと同じ早さでお酒を飲む。

 ふとお酒の匂いが漂ってくる。


 あんな飲み方をしては死んでしまうかもしれない。

 止めに入ろうとしたリザーセツをドワーフたちが止める。


 何をすると怒られ、いいとこなんだからとなだめすかされ、お前も飲めと酒の注がれたカップを渡される。

 芳醇で芳しい香り。


 それでいながらお酒の香りであり、香りだけでも酔えてしまいそうだ。

 リザーセツも冒険者であるのでお酒を飲む機会はそれなりにある。


 弱くもなく自分の限界は知っているけれどこのお酒に対してどれだけ戦えるのか自信がない。

 無理矢理とはいっても受け取ってしまった酒を突き返すこともできなくて一杯だけどサッと飲んでリュードを止めようと口をつけた。


 美味い。

 美味いのだけど喉が焼けるようだ。


 クゥと声が漏れる。

 今度は胸が熱くなりお酒の香りが鼻から抜けていく。


 チラリと見るとリュードは相変わらずドワーフと同じ速度で酒を飲んでいた。

 よくあんな早さで飲めるものだ。


 早く飲まなきゃと思うけど強すぎて少しずつしか飲めない。

 酒はまだ残っているのに胸の熱が全身に広がってきた頃、カップを持つ手が二重に見えてきた。


 ほら、もっと飲めと無くなってもないのにお酒を追加で注がれるリザーセツは断る言葉も言えなかった。

 

 そんな時に並々と注がれたお酒を一口に飲みきれず、プルプルと手が震えてカップを落としてしまった。


 それでも飲めば続行だったが降参と弱々しくいってカップを落として地面に倒れてしまう。

 ドワーフの方がだ。


 リザーセツの方からはリュードと対面しているドワーフの背中しか見えていなかったがドワーフは顔を真っ赤にして完全に出来上がっていた。

 一方でリュードの方はほんのりと頬は赤いがドワーフのように酔い潰れるほどには見えなかった。


 ドワーフたちから歓声が上がる。

 次にまたリュードが物を選んでそれを渡される。


 地面に転がったドワーフを他のドワーフたちが運んで別のドワーフがリュードの前に座る。

 不平等な連戦。


 と思うが挑んだドワーフの方も酒盛りしていてもうすでに顔が赤くなっている。

 酒飲み勝負を肴に酒を飲んでいたドワーフ。


 完全にイーブンとはいかないけどそれでもドワーフなりに平等を目指したのかもしれない。

 ともかくリュードは時々休憩を挟みながらお酒に強いと言われるドワーフたちを撃破していく。


 すっかり一観客となったリザーセツも感心してしまう。

 これが秘訣なのかと。


 リザーセツにはとても真似できない。

 飲んでは足され、飲んでは足されを繰り返すカップのお酒はもういくつもの味が混ざったものになっている。


 総量で言えばカップ2杯ぐらいか。

 ドワーフのお酒との戦いにしては飲んだ方である。


 もうリザーセツも酔って思考力が低下している。

 リュードが勝つとリザーセツも声を上げて喜び、新たなるドワーフの挑戦者に歓声を送る。

 やがてリュードに負けて倒れたドワーフだけでなく周りで酒盛りをしていたドワーフたちにも寝始めるものが出てきた。


 その中にもリザーセツはいて、気力で持ってる分だけはと飲み切ってカップは空だった。

 もう何杯飲んだのかは分からなかった。


 軟弱な真人族にしては飲んだ方だ。

 逃げずに飲み、共に一体となって酒飲み勝負を楽しんだ。


 ちょびっとだけドワーフからの好感を得られたリザーセツであった。


 待ってる間に自分でしこたま酒を飲み、リュードの前にくるのも千鳥足になっているドワーフを2杯で倒した。

 挑んでくるドワーフもいなくなってこれで一息つけるとルフォンから水を受け取って飲む。


 リュードとしても酔っていないのではない。

 正直酔ってはいるのだけど酔い潰れないのである。


 ルフォンはお酒の匂いがキツいのは嫌だけど酒飲み勝負をするリュードの近くにいつもいた。

 お酒が入って感情が緩くなったリュードはお酒のせいか妖艶な笑みを浮かべる。


 ルフォンに優しく微笑み頭を撫でてくれたりするのでお酒を飲んでいるところではちょっと頭を差し出してみていたりする。


「おい、大変だ!」


 お腹チャポチャポだからちょっと休もうと思っていると若いドワーフが慌ててリュードのところに駆けてきた。


「どうした?」


「ま、魔物が近くまで来ているんだ!」


「なんだって?」


「こ、こんなこと今までなかったのに……どうしたらいいでしょうか?」


 デルデたちやリザーセツではなくリュードのところに来る。

 これもまた信頼の高さというものだろう。


「君はとりあえず戦えるドワーフに声をかけて集めて」


「分かりました!」


 リュードは宿に入ろうとしていた体をグッと伸ばして気合を入れる。

 寝ているドワーフを踏まないように気をつけながらリザーセツのところに行く。


 もちろんリザーセツがいたことには気がついていた。

 なぜドワーフに混じって酒を飲んでリュードを応援していたのか知らないけど体格的な違いがあるから見ていてリザーセツは目立っていた。

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