せめて見つけてあげたい2

 そうはいうけれど今のデルデは全身フルアーマーの出立ちではない。

 あんな重たい鎧を四六時中着ていることはできなくて肩と胸当てしか着けていない。


 アーマーなので鎧の一種かもしれないけどこれで安心できる鎧かと言われるとちょっとそうは言えない。

 宿で1人こもっていても何にもならないので付いてきたデルデ。


 防御力は低いが音は出ないのでそこに関してのみは良しである。

 ドワガルで鉱山を取り戻した時も戦いには参加せずサッと下がって応援だけしていたのでよほど油断しない限りは大丈夫なはず。


 帰りなさいとも言えないので是非とも大人しく下がっていてもらおう。

 変に頑固なところはあるけれど戦いに関しては無理は一切しないデルデのことだからいざとなればさっさと逃げてくれるだろう。


 リュードたちはまずウメハトたちが待ち伏せをしていたところに向かう。


 ギルドが話を聞いて作ってくれた地図によるとその場所はオークが出るところよりもさらに奥に入ったところ。

 大体の場所に赤く印が付けてある。


 もうすぐ赤い印の場所に着くところまで来ていた。

 キラービーは羽音がうるさく、遠くまで聞こえる。


 なのでルフォンの聴覚には期待している。

 周りの警戒は目視でもするが敵を探すよりも地面などをよく見て痕跡を探す。


 今回はウメハトの仲間たちを探しにきた。

 闇雲に歩き回っても探すのは大変なので逃げた先などが予想できる足跡とか枝の折れた跡とかを見つけて経路を予想して進むのだ。


 森の中とはいえ木の密集している場所や逆にまばらな場所もある。

 ウメハトたちが襲われた場所の周辺は木々がまばらで空からも地上がよく見える。


 キラービーがいたとしたらウメハトたちがよく見えただろう。

 まず印の周辺を探して待ち伏せのために近くに置いてあった荷物を見つけた。


 食料類は荒らされているがそれ以外の荷物はそのまま地面に散乱していた。

 そこを始点にして探していく。


 ウメハトたちは森の浅い方に向かって逃げた。

 だからリュードたちもそこから浅い方に向かっていく。


 なかなか単なる自然と人工的に付けられた痕跡の区別はつきにくい。

 慌てて走った時に跳ね上げた土なのか、自然とそうなったのか、あるいは魔物でもいたのか。


 ほんのわずかに残る痕跡っぽいものを辿ってリュードたちは進んでいく。

 途中痕跡が途絶えて戻ってみたりなんてこともあるが根気強く探していくしかない。


「リュード、あれ!」


 ラストが木の影にうつ伏せに倒れている人を発見した。


「……みんな触るな」


 駆け寄ってみるが倒れている人は動かない。

 声への反応も呼吸する胸の動きもない。

 

 毒で苦しんだだろうか、それとも腹部に空いた大きな穴で先に亡くなっただろうかと考える。


 リュードが手袋を着けて死体を裏返す。

 年は大体ウメハトと同じくらいに見える男性だった。


 開きっぱなしの目を閉じてやってゆっくりとため息をついた。

 多分毒で長く苦しむことはなかっただろう。


 男の腹部には大きな穴が空いていて、その周りが痛々しく黒く変色している。

 毒が体に回りきっていないので多分だけど毒が体に回る前に死んだのだ。


 それが幸か不幸かどっちと言っていいのか知らないけれど。

 全身黒くなっているよりはマシかもしれない。


 リュードは男の懐をまさぐる。

 死体を漁るのは気分が良くないけどそうした依頼だから仕方ないと割り切る。


 財布と一緒に入れてあった冒険者証を確認する。

 ウメハトの仲間だろうけど後に報告するためには名前の確認が必要だ。


 これでウメハトの仲間ではない死体だったらそれもまた問題となる。

 リストを見るとウメハトのパーティーのメンバーであった。


 死体があって顔が綺麗で名前も分かって町に戻ってくる。

 冒険者の死に様としてはまだ上等なものだ。


 そんな話を酔っ払って叫ぶように会話していた冒険者のことをふと思い出した。

 死体が見つからないことで行方不明になる冒険者も多い。


 死んだと明確に言えるのも運がいい方なのだ。

 その酔っ払いの友人は片腕しか帰ってこなかった。


 古傷から友人のものだと分かったらしいが腕一本でどうしろと言うんだと最後は泣き崩れていた。


 見つかることは幸運。

 下を見れば限りないからそう言えることだけど死なないことが1番の幸運だ。


 リュードは大きな袋を取り出した。

 デルデにも手袋を渡して手伝ってもらって男の死体を袋に詰める。


 袋に冒険者の名前と発見者であるリュードの名前を書く。

 そして木にロープで吊るす。


 出来るなら連れ帰ってやりたいところだけど今は出来ない。

 重たい死体を持って歩くことはできないし他のメンバーも探さねばならないからだ。


 吊るしておけば大体の魔物は手が出せない。

 地図に大体の位置を記し付けてこの死体にはもう少し待ってもらうことにする。


 一々帰ってもいられない。

 後で冒険者ギルドに報告して、冒険者ギルドが死体の回収に向かうのである。


 懐を漁った挙句に袋に詰めて吊るすなんてとんでもないことだけど現状できる最良の手段だから許してほしい。

 こうすることでのちに死体が帰ってきて少しでも心が軽くなる人がいるのだからやるしかないのだ。


 その後もう1人の死体も見つけた。

 そちらの方もウメハトのパーティーのメンバーだった。


 女性冒険者だったのだけど全身が黒くなっていて毒で死んだのだとリュードは推測した。

 ウメハトの様子を見るに楽に死ねる毒じゃない。


 女性なのに顔も黒く毒で染まってしまっているのもまた同情をしてしまう。

 こちらもまた袋に詰めて木に吊るす。


「しょうがないとはいえ重たい仕事だな」


「必要なことだとやりはするけど気持ちは割り切れないよな」


 事前にルフォンが作ってくれていたお昼を食べながらリュードはため息をついてしまう。

 帰ってこない時点でこうした結末は予想できていたけれどほんのわずかに残っていた希望も打ち砕かれたような気がする。


 死体を見つけて名前を確認して袋詰めにするとやるせない気持ちになってくる。


「そうだね。


 ……でもこうなったら見つけてあげたいね」


「うん。


 見つけられるなら見つけてあげようよ」


 ある種の希望というか幸運としてはキラービーにやられた死体は毒に冒されていることである。

 それのどこが幸運なのかというと猛毒に体が冒されているために魔物に食い荒らされないのだ。


 命としては助からないけど死体としては残っている可能性が高い。

 毒のせいで死ぬけど毒のおかげで死んだ後は見つけられる。


 皮肉なものである。


「しかし凶悪な魔物もいるものだな」


 2つの死体は結構距離が離れている。

 さらにいえば待ち伏せ地点からも離れている。


 しつこく追いかけ回して冒険者を襲ったのだとわかる。

 そこまでする理由がデルデには分からなかった。


「キラービーが凶悪な魔物なのはそうだけどおかしいらしいぞ」


「おかしいってなんだ?」


「キラービーは攻撃されたり巣に近づかれたりすると凶暴な魔物だけど普段はそんなに積極的に人を襲う魔物でもないらしい。


 敵対的な行動を取らないで大人しくしていれば巣から離れたところでは人に手を出してこないんだと」


 そこがウメハトたちの話と矛盾する。

 ウメハトたちは確かに敵対的な行動を取ってしまった。


 それが行けなかったのだけどキラービーの方もわざわざウメハトたちに接近してきたのだ。

 互いに近づかなきゃ戦いにならない。


 キラービーの方も人に近づいてこないはずなのに近づいてきたからウメハトたちも攻撃してしまったという経緯があった。

 だからキラービーの行動としても若干おかしなところがあると言えるのだ。

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