せめて見つけてあげたい1

「本当にありがとうございます!」


 後日リュードたちは冒険者ギルドに呼ばれた。

 会議室に通されて、待っていたのはあの森の中で毒で死にかけていた男だった。


 死にかけていた男は教会の治療によって大きな後遺症も残ることなく回復していた。

 強い毒の影響か脇腹の辺りの傷口があったところにやや黒い痕が残ってしまったがそれぐらい後遺症とも言えない。


 是非ともリュードたちにお礼がしたいということで冒険者ギルドで会うことになった。

 男はブロンズランクの冒険者で名前をウメハトと名乗った。


 ややタレ目の人の良さそうな青年でこの町を中心に活動している。


「礼はいいさ。


 最終的に助けたのは教会だからな」


「いえいえ、森の中では神への祈りも届かないでしょう。


 お運びくださったから今の私があるのです」


「運んだとて治療できなきゃ……ってこんなことしてたら堂々巡りになってしまうな。


 礼は受け取っておこう。


 無事回復したようで何よりです」


「頭を下げて礼を尽くすしか出来ずに申し訳ないです」


「それで構いませんって。


 金銭とか寄越せというつもりなんて全くありませんから」


 効果があったなら解毒薬の1本分ぐらいのお金は要求してもよかったかもしれないけれど効果がなかったポーションのお金を要求はしない。


「お礼代わりになんであんなことになったか聞いてもいいですか?」


 森の中で何かがあったことは分かりきっている。

 まだドワーフの依頼の方は時間がかかるのでもうちょいここで活動する必要がある。


 その間やることといえば依頼をこなしてラストのランク上げなのだけど森に異常があるなら知っておきたい。


「……分かりました。


 聞いてもつまらない話ですしあれは俺たちの油断のせいでしょう」


 ウメハトは自身も含めた5人のパーティーで活動していた。

 最近になってようやくメンバー全員がブロンズ−からブロンズに上がったばかりでやる気に満ち溢れていた。


 1つ上がったけれど同じブロンズランク内でのことなのでそんなにできることに差があるのではないが順調に上がっていくランクにみんな浮かれ気味であった。

 一応ブロンズ−だとダメだけどブロンズなら受けられる魔物の討伐があったので少し背伸びをしてそれを受けてみることにした。


 それでもまだブロンズランク。

 下から数えた方が早いランクなのでそんなに難しくない相手だった。


 事前に情報を集め策を練り、相手を待ち伏せした。

 他の冒険者もよくやる方法でうまくいくはずだった。


 けれど実際にやってみると現れたのは目的の魔物ではなかったのだ。

 相手は目的の魔物よりも数段上の魔物であるキラービーという魔物であった。


 リュードは前世の知識からでかい蜂をイメージしたけれどおおよそ外れたものではない。


 身まで震えるような羽音を立てて飛んできたキラービーに慌てたウメハトたちは見つかってしまった。

 見つかったこともまずかったのにウメハトたちはほんの一瞬抵抗を試みてしまった。


 それがキラービーを怒らせたのかは人であるウメハトには分からない。

 けれど逃げ出したウメハトたちをキラービーは執拗に追いかけました。


 ウメハトは逃げきれずに脇腹をキラービーのハリがかすめていった。

 やられたウメハトを助けようと仲間たちが気を引いてくれてウメハトは森の中に放置されることになった。


 逃げなきゃいけないのに体が動かない。

 かすめただけなのに鎧はひどく壊れて脇腹に大きな傷ができ、毒が体に回り始めていた。


「ですがあそこでキラービーが出たことなんてなかったんです。


 ギルドにも調べてもらいましたし、他の冒険者もそんなこと……


 だからといって警戒を怠り、判断ミスを重ねた俺たちも悪いんです」


 確認した。

 間違って変な場所に足を踏み入れたとか実はキラービーの生息域だったのではないかとか。


 しかしウメハトたちが行った場所は狙った魔物の生息域でキラービーはいない、はずだった。


 ただ予想外の事態に大人しく隠れればいいのに判断が遅れてキラービーに見つかり、さっさと逃げれば明らかに格下のウメハトたちは見逃された可能性もあったのに抵抗を見せた。

 一度のミスでも大きいのにウメハトたちは大きなミスを立て続けに2つした。


 魔物相手に何度もミスして無事でいられるわけもなかったのだ。

 最善の行動を取れなかったことが大きく悔やまれた。


「みんな……無事だろうか」


 ガックリと項垂れたウメハト。

 その言葉の答えはまだ出ていないが分かりきっている。


 キラービーはブロンズよりも上の魔物になる。

 そして無事だったのなら今頃町に戻ってきているはずなのに連絡はない。


 意味するところの重たさにリュードもかける言葉が見つからない。

 ウメハトの仲間の無事を願いはするが軽率に慰めの言葉も口にはできなかった。


「何はともあれ私は生き延びることはできました。


 アイツらの親も家も知っています。


 伝えられる自分がいて……アイツらは…………幸運だったのかもしれませんね」


 パーティーが全滅してしまうと多くの場合遺体も残らず、全滅を伝える術もない。

 残された荷物でも見つかってどのパーティーの誰だか分かれば儲け物で、長らく帰ってこなくてようやく全滅したのだと諦める他ない。


 起きたことも分からず、あるいはいなくなった冒険者の親や友達も分からなくて確認も取れないしいなくなったことも伝えられないこともある。

 まだ1人だけでも生きていることは大きな意味を持つのだ。


 これ以上は話せないと判断されたウメハトは神官に連れられていった。

 体のケアだけでなく、心のケアも教会では行なってくれる。


 今のウメハトに必要なのは心の方のケアだろう。


「……それで話とは何ですか?」


 残されたリュードたち。

 ギルドの方から話があると会議室に留め置かれた。


「ご依頼したいことがございまして」


「依頼ですか?」


「はい、そうです」


 リュードがルフォンとラストに視線を送る。


「話は聞きましょう」


 2人も頷き返したのでとりあえず話だけでも聞いてみることにした。


 ギルドからされた話はリュードたちにウメハトのパーティーのメンバーたちの行方を探してほしいという依頼であった。

 リュードとルフォンはシルバー−のそれなりに高ランクに差し掛かるランクの冒険者。


 今現在把握している高ランク冒険者で自由がききそうな、かつ事情にも通じているのはリュードたちぐらいだった。

 ウメハトの話が本当だとするとキラービーがいる可能性がある。


 シルバー−ぐらいなら戦えるし、逃げることも可能だろう。

 それに目的は戦闘ではなく、ウメハトのパーティーメンバー探しである。


 まだ行方がわからなくなってからそう時間が経ってもいない。

 生存の確率は低くても遺品ぐらいなら見つかるかもしれない。


 少数精鋭、で潜在的な能力はシルバー−も越えると見られているリュードたちなら十分にこなせる依頼だとギルドはお願いしたのだ。


 相談の結果、リュードたちはその依頼を受けることにした。

 乗り掛かった船だしラストの実績にも繋がる。


 何よりあんな話を聞いてしまっては気になってしょうがない。

 例え死体であってもあればありがたい状況で迅速に動けば死体ぐらいならあるかもしれないという悲しい希望的観測。


 その日からさっそくリュードたちは森に向かうことにした。


 ーーーーー


「デルデまで来なくてよかったのに」


「ふん!


 部屋でおとなしくしとれと?


 大丈夫、キラービーの攻撃だってこの鎧は通さんわい!」


 キラービーがどれほどの強さの魔物かはリュードはまだ分からない。

 ルフォンやラストについてはあまり心配していないのだけどデルデについては心配だ。

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