甘く、のんびりと3

 しかし依頼の内容が内容なだけに周辺だけで冒険者を集めるわけにもいかない。

 量より質を確保しなければならない。


 時間的な制約もあるのであまり手を広げすぎてもいけないが隣国の冒険者ギルドにも連絡を入れて冒険者を募ることにした。

 依頼を冒険者ギルドで出して冒険者を募り、そこから精査した上で最終的にリュードたちが確認し、冒険者たちが集まるのを待つ。


 信用できない者、実力のない者はドワーフのためにも雇えないのでここは多少なりとも時間をかけてやる他なかった。


「依頼できたのはいいが……くぅ……」


 デルデは苦悶の表情を浮かべた。

 依頼も終えて、あとは冒険者ギルドの方に任せることにして応接室からギルドのロビーに戻ってきた。


 渋い顔をしているデルデの視線の先には昼間からギルドにたむろっている冒険者たちの姿があった。

 もっと言うと冒険者たちの装備品にである。


 冒険者たちの装備品の質が低い。

 パッと見ただけでもその質の悪さが分かり、作った者の名前を問いただしてハンマーで頭をかち割ってやりたくなる。


 真魔大戦やそれに続く戦争で職人や技術の伝承が損なわれ、再び人が増えて魔物との戦いに突入していくと武器の需要が増えた。

 当然武器を供給することが最優先で質よりも量が求められた。


 そうした状況下であったので武器が広く行き渡るようになったのだけど現在では質が悪い物が多く出回っているのが現状となった。

 それなりに質も求められる時代になってきて質の良い武器を作るようにもなってきたけれど、伝統を受け継ぎ1つ1つを丁寧に作り上げるドワーフから見るとどれもこれも質が悪い。


 見ていて気分が悪くイライラしてくる。

 あれでは金属が泣いている。


「さてと、時間ができちゃったな」


 時間が無いという状況も大変だけど時間が有り余るほどあるというのも困ったものだ。


「ダリルはどうするんだ?」


 ダリルの話は聞いた。

 用件としては分かった。


 ダリルの方もどうにかしなきゃいけない話ではあるけれどケーフィスによると今すぐなんとかしなくてもいい話ではあったので、先に受けたこともあるし今の優先はドワーフである。


「ドワーフの件についてよければ私にも手伝わせてください。


 しかし時間があるなら教会に行って連絡したり、祈りを捧げたり教会の方を手伝おうと思っています」


「そっか、分かった」


「何かあれば教会の方にいる。


 いなくとも伝言でも残してくれ。


 ドワガルまで先に向かっていてくれても全く構わない」


 聖職者が一緒に戦ってくれると心強い。

 ドワガルでの戦いに合流してくれるというならリュードとしてもありがたい話である。


「デルデは何かやることはあるか?」


「ふんっ、ワシが何をするというんだ。


 しかしこんなところに何もせずにずっとおったら気が狂ってしまうわ。

 お前さんたちについていく。


 何かするなら連れていってくれ」


「了解。


 俺たちはそうだな……ラストの冒険者ランク上げも兼ねて依頼でも受けようかな?」


「リュードぉ……!」


 パァッとラストの顔が明るくなる。

 アイアン−の冒険者証をもらってはいおしまいではないリュードの優しさが嬉しい。


 アイアン−では冒険者証をもらっただけと変わりがない。

 身分証ともなる冒険者証がアイアン−ではそれだけで下に見てくるような人もいる。


 上げられる機会があるなら上げておくのが賢明である。


「そうか。


 では私はそのまま教会の方に向かうとするよ。


 何か困ったことがあったらいつでも呼んでくれ」


 ダリルと別れてリュードたちは依頼の確認をする。

 どんな依頼があるかを見て計画を立てていかなければならない。


 依頼を受ける前に旅の消耗品なんかも補充しなきゃとか、日帰りでもいいかとか考えなきゃいけない。

 それに国や場所によって出てくる魔物も違うので依頼の内容にも違いがある。


「へぇ〜……」


 冒険者初心者のラストは広く張り出されている依頼を見て声を漏らす。

 意外と依頼の種類も多くて一目に確認することはできない。


 ブランダムというこの国は大きな森林を抱えているのでそうした場所での依頼が多い。

 森林における採取や調査、魔物の討伐など幅広く、中には森林の枝の間引きなんて依頼もあった。


 要求されるランクも様々だけどラストのランクを考えると高ランクの依頼は当然受けられない。

 常設依頼と呼ばれる魔物を倒して納品してねっていう依頼は勝手に倒して証拠を持ってくるだけなので高ランクでも問題はないが手っ取り早く上げるならそうした依頼は片手間にやりつつがいい。


 リュードたちはシルバー−なのでラストを引き連れてアイアン、ブロンズぐらいまでなら受けられる。

 そこらへんもギルドの受け付ける人によるのでブロンズ−かブロンズぐらいまでが確実なラインだろう。


「大森林の生態調査……」


 真新しく、ほかの依頼書よりも一回り大きいので目についた依頼。

 ただの調査なのに要求ランクがシルバーからゴールドになっているのでリュードたちでも受けられない。


 森林の奥の調査なので高ランクなのだろう。

 調査という長時間拘束され、人気もない依頼なので依頼料は高額に設定されていた。


 受けられたとしてもサッと終わらせることのできない依頼は受けるつもりはない。


「ラストのランクを考えると……」


 早く終わり、実績としても見られやすい依頼といったらもちろん魔物の討伐になる。

 いくつか目をつけたものを手に取っていく。


「これもアリなのか」


 手に取った依頼のほとんどが大森林における魔物の討伐。

 対象となる魔物の中にはアリを倒すものもあった。


 つい先日もアリを倒したばかり。

 勝手は分かるがアリとばかり戦うのは勘弁してほしいなとは少し思う。


 アイアン、ブロンズクラスの依頼ならラスト1人で戦っても苦労はなさそうなものばかりだった。

 低ランクで受けられる浅いところに出てくる魔物はさほど他とは変わりなくてコボルトやゴブリン、ちょっとランクを上げてオークなんかが出るようだ。


 そうした依頼をとりあえず受けておくことにした。


「これで私も立派な冒険者!」


 ふんすと鼻息荒いラスト。

 世界を旅して回ることと冒険者として活動することはある意味セットのようなものだ。


 定番中の定番でリュードとラストが冒険者としての身分があることをラストはずっと羨ましく思っていた。

 リュードもやろうやろうとは思っていたけど依頼を受けることもなく、冒険者登録することをすっかり忘れていたのでようやくきたかとラストの興奮もひとしおである。


 いつか冒険者として名を馳せる。

 そんなことだって夢見ても誰も笑わないような世界。


 ラストもリュードたちとならば活躍していけると思った。


「じゃあまずはお買い物だね。


 冒険者として準備は欠かせないから」


「はい、先輩!」


「よろしい!」


 ニッコニコのラストに影響されてルフォンもニッコニコ。


 雰囲気がハッピーで大変よろしい。


 受けた依頼の相手は特に苦労もなく、特別な準備も必要ないような相手だ。

 なのでとりあえず旅で消耗したものや食料などの補充をするために冒険者ギルドを出て買い物に向かう。


 時間を考えると今から大森林に向かって依頼をこなすよりはのんびりと買い物でもして休んで日を改めるのがいい。


 大森林が近くて色々なものも取れるし、冒険者も多い。

 そうすると自然と町は発展して規模が大きくなる。


 この町も結構規模としては大きく、市場は賑わっていた。


「よっ、そこの女の子たち!


 美容にもいい、健康にもいい、ハチミツ、どうだい?」


 威勢のいい呼び込みがあちこちから聞こえてくる。

 そんな呼び込みの1人がルフォンとラストに目をつけて声をかけた。

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