甘く、のんびりと2
「私の方が冒険者の先輩だからね。
えいっ!」
「ブゥー!」
怒ってリスのように膨らませたラストの頬をルフォンが指でつつく。
「まあ良いじゃないか。
上げてきゃいいんだよ。
ラストならすぐに上がって来れるさ」
ラストも高い実力を兼ね備えているし雑な冒険者でもない。
コツコツ依頼をこなしていけばすぐにでも上げてくれるだろうことは間違いない。
「あっと、それとギルドに依頼したいことがあるんですけど」
「ギルドに依頼ですか?
どのようなことでしょうか?」
ちょうどギルド長も出てきているので話も早そうだ。
「冒険者を募りたいんです」
リュードが依頼の内容を軽く説明する。
受付の女性は困った顔をしてギルド長を見る。
自分では手に余る案件であることは明らかである。
ギルド長は大きく頷いて、場所を変えることを提案した。
ギルド2階にある応接間に通される。
「グロムです。
よろしくお願いします」
「依頼主のビューランデルデさんです」
「よろしくな」
リュードが前に立ち、窓口として話をしているけれど依頼するのはデルデである。
流石に人生経験のあるグロムはドワーフにも驚いたような顔をせず膝を折って高さを合わせるとスッと手を差し出した。
「真人族と握手をするのも楽ではないな」
生まれ持っての身長差がある。
そのままの状態では握手することも簡単ではない。
デルデが浮くことでも出来ない限りは大きい方が小さい方に合わせてもらうしかないのだ。
「はははっ、種族が違うのですからしょうがないことですよ。
身長差を悩むより、その差をいかにして受け入れていくかを悩みましょう」
亀の甲より年の功。
穏やかで思慮深い。
膝を折ってドワーフに接することを嫌がるような人もいるだろうにグロムは軽く笑って座るように促した。
「私はこちらに座りますので皆さんはソファーにどうぞ」
テーブルを挟んでソファーが2つ。
2人掛け、詰めても3人が限界のソファー1つでは4人いるリュードたち全員が座ることはできない。
グロムはソファーを譲ってテーブルの横に椅子を持ってきて座る。
「改めてお話を伺いますが鉱山に棲みついた魔物の討伐依頼。
しかも鉱山は複数ある。
ということでよろしいですか?」
「そうです」
そしてグロムは一瞬リュードに視線を向けるとリュードの方を見て話し始めた。
誰に主導権があるのかを一瞬で見抜いた。
デルデがくだらなく顔を立てる必要もなく、それならさっさとリュードと話して依頼の内容を決めてくれた方がよいと考える人物なことも見抜いて話す方向を決めたのだ。
出来る男である。
気遣いもできるし頭の回転もいい。
そんなグロムはすでに依頼のことを頭の中で整理し始めていた。
容易い依頼ではなさそうだ。
鉱山という狭い場所、ドワーフが敵わなかったのならそれなりに強く、数もいるはず。
グロムが質問し、リュードがそれに答える。
そうやって細かく話を詰めていき、グロムは紙に話の内容をメモしていく。
悩むのはやるかどうかではなく、どうやるかなので話の進みも早くてグロムも考えをまとめるのがうまかった。
むやみやたらに人数を雇うのではなく、依頼の内容を考えると優秀な冒険者を絞って少数精鋭的に雇った方が良いということになった。
鉱山、坑道は山の中に広がっているけれど道の幅そのものはそれほど広い場所ばかりではない。
多く人を雇えばそれだけ統率もしにくくなるし狭い坑道で戦う時に互いに足を引っ張ってしまう可能性がある。
坑道の入り口そのものは複数あるのでいくつかに分けられて多すぎない程度の人数がいい。
ドワーフとしてもあまり人の数は多いよりはその方がよほどいい。
しかし人が少ない分危険度は高くなる。
同じパーティーだけでなく、他のパーティーとも連携が取れるようなしっかりした人、つまりは高ランクの冒険者が必要。
なので募集をかけるときにランクによる制限を設けることにもなった。
報酬についてはグロムも驚きを隠せなかった。
ドワガルにおけるドワーフの武器の優先購入権。
さらに活躍するとオーダーメイドで武器を作ってもらえる。
優先購入権だけでもすごいのにこれはとんでもない報酬だと思う。
依頼の内容を考えると高額な依頼料が必要となるものだけれど価値を比較するとドワーフの差し出すものの方が価値が高いのではないかとすら思える。
悩ましげにグロムは腕を組んだ。
依頼内容もやや漠然としたところがある。
そして報酬も単純に金銭には換えられない価値を持つ。
何かしらの行為や権利を報酬とすることはあるのでドワーフの提示してきた条件でも全く問題はない。
けれど行為や権利の価値というのは人それぞれなので難しい。
グロムは話を聞いてみて魅力的な提案であると始めに思ったからこそ、一度立ち止まってもう一回考えてみる。
冒険者ギルドとして引き受けていい依頼なのか、冒険者たちにとって引き受ける価値のある依頼なのかと考える。
例えばであるがドワーフがあくどい人でとてもじゃないが武器の価格を手が出せないほどの値段に設定していた場合には結局冒険者は権利がありながらも武器を買えないことになる。
単に買う権利だけを与えられて終わりなんてことになる可能性もないなんて言い切れない。
活躍した人に武器を作るという話も基準が曖昧で誰が活躍したのかと判断をどうするのか分からない。
魅力的な依頼であることは間違いないのだけれど飛びついていいかどうかはまた別問題だ。
はなから詐欺行為だと疑いはしないが心変わりすることあれば誰かがあくどく吹き込むこともある。
戦ってくれている冒険者を守る義務がギルドにはある以上簡単に引き受けられはしないのだ。
「……ドワガルでは武器をどれほどの値段で売っていますか?」
「値段だと?
そんなもの一概には言えんだろう。
作るやつの技量、使った素材、思い入れ……高いのもあれば安いのもある。
ドワーフによっても価値観が違うのでこうですとは言い難いが交流のある王国にいくらか武器を卸していて、中程度品質の剣は確か……」
デルデは頭を指でコンコンと叩いて値段を思い出そうとする。
直接デルデがそうした交易を担当しているのではないのでなかなか記憶を思い出せない。
「大体一振りで金貨1枚かな?」
剣1本で金貨1枚。
高い。
かなり効果な部類に入る。
「まあ優先購入権はもう作ってあるやつを売ることになる。
それぞれの値付けだからいくらで売るかは分からん。
気に入ったやつには安くても売るし、気に入らんやつには死んでも売らん」
中品質などとデルデはいうがデルデが本気で売ったら最高品質になることを考えると中品質でもよそでは高品質ぐらいの剣になる。
「うーむ……」
やはり悪くない話だ。
依頼を出そうと思っているのは高ランクの冒険者パーティーにである。
当然ある程度金も持っている。
「討伐する魔物のリストもあるのですよね?」
「こちらで調べたものです。
変わっている可能性もないこともないですがよほどない限りまた新しい棲家を捨てるなんてことしないと思います」
ドワーフだってタダでやられた訳じゃない。
相手がどんな魔物でどんな風にやられたかはちゃんとまとめてあった。
調査も行っているし魔物のことを全く知らずに戦いに行ったのでもなかったのだ。
しかし魔物そのものが色々いることは分かったのだけどその繋がりというか、なぜ同時多発的に鉱山を占領したのかその理由までは分からなかった。
魔物も鉱山それぞれに異なった魔物が棲みついてもいたのだ。
「……とりあえず依頼を引き受けましょう。
募集をかけて反応を見てみましょう。
場合によっては報酬の上乗せといったことも御検討いただくことがあるかもしれません」
多分こぞって問い合わせがあるだろうなとグロムは思った。
グロムも現役なら間違いなく依頼を受けに行っていたと思うほどの依頼であったのだ。
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