甘く、のんびりと1

「あっ!


 シューナリュード様ですね!」


「えっ?


 何かありました?」


「ええと、ルフォン様もいらっしゃいますね」


 何事もなくドワガルの隣にある国まで行くことができた。

 冒険者を雇うならやっぱり冒険者ギルド。


 ということでリュードたちは冒険者ギルドを訪れた。

 依頼したいことがあると言って冒険者証を提示したのだけどリュードたちの情報を照会して冒険者ギルドの受付の女性は驚いていた。


 何かやったかと焦るリュード。

 そもそもリュードたちが冒険者ギルドを訪れて依頼を受けることは少ない。


 依頼を見たりすることはあっても受付で冒険者証を出して身分を提示することは実はあまりなかったりする。

 というのもいろいろな理由がある。


 第一にリュードたちはお金に困っていない。

 やはり冒険者として仕事を受ける理由の大きな部分がお金のためである人がほとんどだろうけどその点に関してリュードたちは余裕がある。


 わざわざ焦って依頼を探して受ける必要がないのである。


 第二にリュードたちは冒険者ギルドを活用していない。

 道中魔物と戦うことも時折あるのだけれどその死体や簡単に解体して持ち運びできる魔石や素材なんかはリュードたちも実はちゃんと回収している。


 冒険者ギルドに持っていって買取して貰えば実績にもなるのだけど冒険者ギルドに買い取ってもらう場合買取価格は実はそんなに高くないのだ。

 なのでリュードはそうしたものを買い取ってくれる店に行って交渉する。


 基本的には必要な消耗品とかを買う時に近くにあれば寄って売るぐらいのものだけど冒険者ギルドを挟まない方が基本は高値で買ってくれるのだ。

 中にはあくどい人や足元を見てくるような人もいるけれどリュードたちはお金に困っていない。


 ふっかけられても全然動じることがないのでそんな人たちに騙されることもない。


 そんなわけで冒険者ギルドで冒険者証を出すのは以外と久々であった。

 直接交渉して魔物の素材を売っているのがバレたのかとか考える。


 それも認められた普通の行為なので悪いことは何にもないのだけどこうやって声をかけられると一瞬で何でもかんでも悪いことのように思えてしまうから不思議である。


 ついでにラストの冒険者としての登録でもしようかと簡単に考えていたのに、内心すごい焦ってしまう。

 ただ表情で悪事がバレるなんてこともあるのであくまでも顔は冷静に、だ。


 受付の女性はリュードたちとリュードたちの情報を見比べる。

 何事かとドキドキして待っていると少々お待ちくださいと言われて受付の女性はギルドの奥に慌てて消えていった。


「お待たせいたしました」


 戻ってきた受付の女性は1人の中年男性を連れてきていていた。

 紹介によるとこの人はこのギルドのギルド長であった。


「ええと、シューナリュード様およびルフォン様はいくつか国などからの特殊な指名による依頼がありまして、そちらの方を完了なさっております。


 相手様方からのお支払い等が済みましてギルドの方でも処理が完了いたしましたのでご依頼の完遂となりました。


 つきましてはこなされたご依頼の内容等からシューナリュード様およびルフォン様に関しましてギルドの特例によりシルバー−(マイナス)ランクに昇格となりました。


 こちらが新しい冒険者証となります」


 ギルド長は2枚の銀色のカードを取り出すとリュードとルフォンに渡した。


「なんか……いきなり飛ばし過ぎじゃないか?」


 リュードたちはアイアン+ランクであった。

 アイアンの上はブロンズであり、その上にシルバーがある。


 つまりリュードたちはブロンズランクを丸々すっ飛ばしてシルバーランクに上がったことになる。

 1つ飛ばしたのではない。


 それぞれのランクの中に−、+がついて3段階に分かれているのでブロンズランクの3つのランクを飛ばしたことになるのだ。


「しばらくギルドの方にお立ち寄りがなかったようなのでまとめてご実績が積み重なった結果です。


 ご実績だけでしたらゴールドランクにも比肩するのですがこなした数の少なさなどからシルバー−ということになりました」


 もっと上げろなんて言うつもりもない。

 十分すぎるぐらいである。


「……中々国から冒険者を名指しで指定なさって依頼されることなどありません。


 当然ギルド側も注目しますし、国が満足してくれればギルドも活動しやすくなりますのでありがたく思います。

 ですので実績としてはとても大きいものになるのです。


 もう少し魔物の討伐などをこなしたり、魔物の素材を持ち込んでいただければこちらとしても実力の判断基準となりますので、シューナリュード様とルフォン様がお上げになられたいとお考えでしたらそう時間もかからないと思います」


 クラーケンの討伐なんかは国からの依頼となり、ティアローザで起きたダンジョンブレイクについても国家の有事だったので活躍した冒険者には国から褒賞が出た。

 ギルド側もただ国の話を鵜呑みにせず調べた上でリュードたちが活躍したことを調べ上げていた。


 特に荒い者も多い冒険者の中で強く自分の功績を主張せず品行方正でありながら、実は大きな活躍をしていた。

 冒険者ギルドとしても好ましい人物。


 大きな実績を積み重ねたのでそうした側面では申し分ないがやはり多少の下積みも大切である。

 デカい仕事ばかりやればよいのでもないのでそこら辺は少し惜しい。


 なので引き上げやすいところまでとりあえず引き上げておこうと言うことでシルバー−ランクになったのだ。

 そうした控えめな人がいきなり高ランクに上げられることも好まないと分かっているので抑えめにしているのであった。


「ご依頼料や褒賞金などはギルド預かりとなっております。


 どの冒険者ギルドでも好きなように引き出すことができますのでいつでもお申し付けください。


 もちろんさらに預けることも出来ます」


「あ、そうなんですか……」


 冒険者専用の銀行みたいなことも冒険者ギルドではやっている。


 そしてリュードは知らなかった。

 ギルド経由で依頼を受けたと言うことはギルドからリュードたちにもお金が支払われるということなのだ。


 クラーケンの時は国から直接お金をもらったのでそれで終わりだと思っていたけれど、精算処理が終わって依頼としてのお金もリュードたちは受け取れることになっていたのだ。


 意図せぬ二重取りだが誰に返金できるものでもない。

 実はティアローザからもダンジョンブレイクについての褒賞として冒険者ギルドにお金が出ていたので貢献度の高いリュードにもそこからお金が支払われていた。


 受け取ってないのでギルド側が勝手にリュードの口座を作って貯金している形にはなっているけれど。


 貧乏暮らしに憧れるようなリュードではない。

 お金のある理想的な生活をしているのだけどお金がピンチだから急いで仕事しなきゃとか明日のご飯も心配だぜとか冒険っぽい感じも期待していないかと言われればちょっとだけ期待している自分もいる。


 さらにはルフォンはトゥジュームでリュード一点買いの賭けをしてしこたま儲けた。

 それはもうリュードたちは働かなくても未来のことは心配しなくてもいいほどにお金を持っているのだ。


 経済的基盤の圧倒的な安定感。

 冒険しているので派手な散財もすることがなくお金が貯まり続ける一方である。


「なにそれ!


 ちょ、私1番下だよ!」


 ラストは頬を膨らませてプンプンと怒る。

 ラストの冒険者登録も済ませたのだけど冒険者学校を卒業したのでもないラストは1番下からのスタートとなる。


 実力的にはリュードたちと一緒でも全然大丈夫だろうけど冒険者ギルド的には新参者だからしょうがない。

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