神のお告げに導かれ1

「なぜワシがこんなことを……」


 ブツクサと文句を垂れるデルデ。

 荷物をパンパンに詰めたリュックを背負って門の前にいた。


 ドワガルが基本的に他の種族は町に入らないので冒険者ギルドもない。

 他に助けを求めるとなるとつまりそれは他の国の町に行って冒険者ギルドに依頼することになるのだ。


 手紙でほいと依頼できる内容ではない。

 誰かが外に出て条件などを話し合った上で依頼を出す必要がある。


 問題は誰がやるかだけど決められるのは早かった。

 提案したのはデルデだ、デルデがやると良いと他3人のドワーフの一致でデルデが冒険者ギルドに行くことになった。


 最後まで責任を取ってこいと言われては何も言えない。

 ということでデルデはドワーフの代表、全権委任された責任者となったのだ。


 ずーっと文句は言っているが誰かがやらねばならないことだからやる。

 やるけどやりたくない気持ちはあるからどうしようもないのだ。


 外を旅していたこともあるデルデなら適任であろうともサッテは言っていた。


 しかしながらデルデだけでは不安。

 ドワーフに近づきたがる人は多く、騙そうとしてくる人だっていないとは限らない。


 冒険者ギルドだって信用できるか分かったものではない。

 よって信頼できそうな人に同行を頼んだ。


 リュードたちだ。

 ということで、リュードたちは交渉アドバイザー兼デルデの護衛としての役割を託されることになったのだ。


 乗り掛かった船どころか完全に乗り込んでいるが剣の修理どころかパワーアップをしてもらったのでこれぐらいは二つ返事で引き受けた。


「そんじゃ行くか」


「リューちゃんお酒臭い……」


「しょうがないだろ、みんなで俺に飲ませてくるんだから」


 リュードたちが出発すると聞いたドワーフたちが宿に集まって押しかけてきた。

 出発すると言っても依頼してまた戻ってくるつもりなのに、まだ勝ってないだの、勝ち逃げするつもりかなど言われて酒を飲まされた。


 別れを惜しんでいるのは分かったけど戻ってくると言っても聞いてくれなかった。

 さらにそんなお別れ会みたいな口実で宿前には酒を飲み交わしたドワーフたちが酔って眠りこけていた。


 元気でいろよとかまた来いよ!とか声をかけながら酒を注ぐものだからリュードもなんだか断り切れなかった。

 寝て、起きてからは飲んでないのに酒の臭いが残っている。


 そんな末期みたいな状態だけどリュードたちはドワガルを出国した。

 酒を理由に延期したらそれでも毎日押しかけてきそうなのでさっさと行くしかない。


「シューナリュードさん!」


「ん?


 ……あっ!」


「覚えておいでですか?


 マヤノブッカでお会いしたダリルです。


 ドワーフの国で会いましょうとお伝えしたのですが約束覚えていてくれたのですね」


「あっ、はい、もちろんです!」


 忘れてました。

 ドワガルに入国したい人が相変わらず門前でたむろしている。


 冒険者、商人、そして一際目立っているのが非常に大柄の聖職者の男性。

 白い鎧と盾、メイスを持った大柄の体格の男性がリュードを見つけて嬉しそうに駆け寄ってきた。


 それはマヤノブッカでデルゼウズと戦ったダリルであった。

 闘技場を破壊して天井から侵入し、最後にはデルゼウズを倒した豪快な聖職者の人でマヤノブッカの一件が片付いた後にリュードたちと会いたいと伝言を残していたのだ。


 しかしダリルの方も悪魔の後処理や追跡などがあってすぐにとはいかなかったのでリュードたちが次に確実に訪れるであろうドワガルで会うことになっていた。

 そんなことすっかり忘れていたリュードは忘れてないように装って笑う。


「あれ絶対に忘れてるよね?」


「うん、多分ね。


 私も忘れてた」


「実は……私も」


 ドワーフの国が封鎖されているなんて知らず、また運良く中に入れてしまって、色々なことがあったのでリュードたちはダリルのことをすっかり忘れていた。


「いやいや……本当に中にいらっしゃいますとは。


 なんと言っても私は中に入れてもらえませんでした」


 当然ダリルは中に入れなかった。

 リュードたちの知り合いであることを証明もできないがリュードたちが中に入ったことは門番のドワーフたちから聞いたので仕方なく出てくるまで門前で待つことにしたのだ。


 ただでさえドワガルから出てきて注目されているのにダリルの声がデカくて余計に注目を浴びる。

 少し声のトーンを抑えてほしいなとは思いながらほとんど初対面の人にそうも言えない。


 忘れていたという負い目もある。


「私のために出てきた……ということではなさそうですね?


 どちらに向かわれるのですか?


 私も同行してもよろしいでしょうか?」


「えーと……」


 リュードはデルデを見る。

 名目上はデルデが雇い主となるのでデルデの許可もないしに勝手に同行者を連れて行くことはできない。


 デルデの意思確認が必要となる。


「ぬ?


 ワシは構わんぞ。

 お前さんが決めればいい」


 デルデ自身の認識としては自分はお飾りのようなもの。

 リュードがそうしたいというなら断ることなんて出来ないのだ。


 それにデルデは他の年寄りドワーフのように人嫌いでないのでリュードが認めた相手なら同行することも問題なかった。


「分かりました。


 とりあえず一緒に行きましょうか」


「おおっ!


 ありがたい!」


 話がしたいということだったけど今は周りの目もあるしのんびりと立ち話している暇はない。

 ダリルに差し支えなきゃ歩きながらでも聞いた方がリュードにとっても都合が良い。


「それでは歩きながらでも改めて自己紹介を」


 他の人の視線が痛いのでまずはさっさと移動する。


「私はダリル・アステバロン。


 創造主であり、主神であるケーフィス様にお仕えする創主教の使徒でございます!」


 創主教とは簡単に言えばケーフィス教である。


「えっ、使徒、なんですか!?」


「はい、ありがたいことに」


 この世界における聖職者の中でもさらに特別な人たちも存在する。

 それが聖者と使徒である。


 どちらも神に大きな力を与えられたものなのであるが聖者と使徒には大きな違いがある。


 聖者は神に愛されし者。

 聖職者の持つ神聖力は魔力とトレード関係に近いものがあり、神聖力が強ければ強いほど聖職者の持つ魔力は少ないものとなる。


 けれどどれほど神聖力が強なっても魔力がゼロになることはないのだが聖者は違う。

 聖者は一切の魔力を持たない代わりに強力な神聖力を与えられた存在なのである。


 神聖力しか持たない、それが聖者である。


 それに対して使徒は神に認められし者。

 神聖力が強ければ強いほど魔力は少なくなるのだけれど使徒は魔力の量を保ったまま多くの神聖力も持ち合わせることを許された存在である。


 故に神聖力も魔力も高いレベルで扱うことができる戦う聖職者のトップが使徒であり、神により神の目的のために戦う義務があるとされている。

 愛の神なら愛のためとか、信者を守るためとかそうした理由から戦う定めも追っている。


 戦うのが嫌ならそれでもいいがそうすると使徒としての力は剥奪されてしまう。


 そんな聖職者の中でも敬意を払われる立場の高い人たちであり、そこらにポンポンといるものではない。

 何人もいたり、神様ごとにもいるのでその時代に1人とかのものではないが沢山いるものではないことも確かなのである。


 高い責任感と敬虔な信仰心を持つ人たちで聖者や使徒は非常に尊敬されるべき人たち。

 なのでそうしたことを知っているラストは驚いていた。


 リュードやルフォン、デルデの反応はやや薄く、知らないわけじゃないけどそうした宗教的な立場にはあんまりこだわっていないからである。

 ケーフィスとは顔見知りだし聖職者としてすごいのはわかるけど必要以上に謙る必要もない。


 問題なのはその使徒がリュードに何の用があるか、である。

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