ドワーフを思えば2
「それではまるで……」
自分たちの技術を安売りするような感じがした。
しかしデルデのした提案はそんな思い込みのような安いプライドを守ること以外のところは至極真っ当、ちゃんとした案だった。
「先に言ったがお前らがやらないというならそれでも構わんのだ。
ただ許可は欲しい。
ワシとワシに賛同してくれる者でやるつもりだ。
責任はワシが負う。
……許しもせんし、他のドワーフを巻き込むなというならワシの腕一つでもやってもらえないか頼み込んでみるわい」
やってくれるかどうかは半々。
プライドを突き通して拒否されることもデルデは考えていた。
頭の固い年寄りの集まりなのだ、ウダウダと言って判断すら下さないことだってあり得る。
でもここまで言えば、責任を負って1人でもやると言えばその許可ぐらいはしてくれるだろうと思っている。
そのようなことすら許さないほど腐ってはいない、はずである。
口だけではなくダメだったら本当に1人でもやるつもりだ。
たとえ追放されようと、口汚く罵られることがあろうとも、この難局を乗り切るために己を犠牲にすることも厭わぬ覚悟をしてきたのである。
せめて何人か賛同者を募ることを、弟子ぐらいは動員できたら冒険者を雇う対価にはなるだろう。
「ワタシもやるよ」
これまで沈黙を貫いてきたドワーフ。
他の3人よりも艶やかな顎髭を1つの三つ編みにしてリボンでまとめているドワーフから飛び出してきた声は女性だった。
「サッテ……」
「勘違いするんじゃないよデルデ。
あんたのためにやるんじゃない。
ドワーフのため、みんなのためにやるんだよ」
女性だったのかとリュードのみならずルフォンとラストも驚く。
年配の、ややハスキー目な女性の声で他の男のドワーフとあまり容姿の差が分からなくてとても違和感を感じる。
ドワーフは女性でも豊かな髭が生える。
リュードたちがこれまで見てきた中に髭を伸ばした女性のドワーフもいたのだけど見ただけでは分からないし交流はなかったので、実際にそうしたドワーフを見てとても驚いた。
「ワタシがハンマーを振るうことでみんなを助けられるならやろうじゃないか。
あんたの考えは間違ってないのさ、デルデ。
ワタシたちの問題は魔物なんじゃなく、心に持った偏見とプライドが問題だったんだ。
まあ話し合いとやらにワタシも飽き飽きしていたところだ」
「ありがとう、サッテ。
では2人はどうする?」
「お、俺は……」
「……分かった。
ワシも賛成しよう。
ただしワシはもう引退した身だ。
余程のものでない限りは新しく武器を作ることはない。
その代わりに過去に作ったものを買いたいという者が居れば提供しよう」
ゾドリアズムが顎髭を撫でながら優しく笑う。
「ありがたい。
それで全く構わん」
「ぐぅ……」
「お前さんはどうする、ドゥルビョ?」
「……俺は俺の認めた者にしか作らんぞ。
買いたいというのも認められない者には売らん。
…………だがデルデの提案は間違ってはいない。
どこかでやらねばならないことはわかっていた……俺も受け入れよう」
武器を作ったり売ったりするかは分からないけれど、デルデの出した対価を元に冒険者に依頼することはもはや避けられない。
「すまないな……若い旅人よ。
年寄りが揃いも揃って恥を晒して……」
「大丈夫です、ゾドリアズムさん。
国の一大事、簡単には決められることなんてないでしょうから」
「はっはっ、できた若者だ。
ワシらなんかよりもずっと柔軟で、前に向かっている」
「でも今、皆さんも柔らかくなって前を向き始めたじゃないですか」
「……そうだな。
よければこのまま知恵と力をお借りしたいのだけれどよろしいかな?」
「俺の、ですか?」
「その通り。
デルデはマヌケではなく、ドワーフ思いの良い奴だけれどこんなこと思いつく男じゃないからな
今回のことを考えてくれたのは君たちだろう?」
「なっ……!」
「何を驚いた顔している、デルデ。
そんなことにワシらが気づかんとでも思ったか?」
信頼がない、逆に信頼しているから分かると言えるかも。
鉱山を取り戻し、普段はしないような賢い提案をしてきた。
そしてその側には見知らぬ他種族、それも今ドワーフの間でも話題となっている人たちがいる。
自ずと答えは出てくる。
「ぬぅ……リュード、頼めるか?」
「もちろん。
出来ることなら手伝うさ」
観念したように唸るデルデ。
その通りなのだから反論のしようもない。
呼ばれた理由は元々デルデがリュードを紹介して力を借りるつもりだったのだ。
事前にオッケーしているのでここにきても答えは変わらない。
これまでとは違う、前に進み始めて、話す内容の大きく変わった話し合いが始まった。
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