ドワーフを思えば1

 鉱山を1つ取り戻した。

 瞬く間に話はドワガルに広がり、ドワーフたちは大騒ぎとなった。


 デルデが言うことなのでウソはないだろうと思っていても実際に人をやって確かめてみると本当に鉱山に魔物はいなかった。

 アリの卵は燃やしたし残りの魔物がいないかもちゃんとチェックした上でリュードが持つ魔物除けも燃やして中に他の魔物が来ないようにもしてきたので当然だ。


 多少ニオイが残っていたみたいだけどそこら辺はご愛嬌だ。


 一応ドワーフたちでも鉱山の出入り口を封鎖して魔物が入らないようにもしてきた。


 そしてアリの素材が手に入っただけでなく、アリが鉱山を掘り広げる時に多くの砂利を発生させていたのだけどその中に鉄鉱石も多く、しばらくは掘らなくてもよさそうな量があった。


 結果として見ると大成功。

 ドワーフにはなし得なかったことをリュードたちはなんとかやってみせた。


「貴様また勝手な真似をして!」


「ふん!


 お前らが何もせず話し合いとやらばかりしているからワシがなんとかしてやったんだ」


「なんだと!


 外部の、他種族を引き入れて自分がなんとかしてやったとどの口が言っているんだ!」


 成果を持って帰ってきたデルデに髭を三つ編みにしたドワーフが食ってかかる。


「ドゥルビョ、貴様の口は話し合いにしか使えのだろう?


 ならこっちの口の方がよっぽどマシだ」


「デルデ、貴様ぁ!」


「お前らが話し合いとやらに終始している間に何が進んだ!


 何が変わり、何をした?


 若い奴らの犠牲だけが積み重なってなんの対策も取れずにただ話し合いとやらをすることになんの意味がある!」


 デルデは強くテーブルを叩きつけた。


「幸いにも死者は少ないがゼロではない!


 父親がもう帰ってこないと泣く子にワシらが何をしていたのか胸張って説明できるのか!


 鉱山には入れなくなって久しく、街を閉鎖するなんて馬鹿馬鹿しいことしておらん。

 仕事もなくて明日に不安を抱えるみんなに大丈夫だと言えるのか!


 こんな……こんな話し合いで誰を救えると言うのだ!」


 肩で息をするほど興奮しているデルデの言葉にその場にいる誰も反論ができなかった。

 分かっているのだ。


 安全な部屋であれもダメ、これもダメとただ話し合いを続けるだけでは事態は好転などしないことは。


「ワシらが守るべきはくだらないプライドや他種族を締め出すカビの生えた考え方ではない。


 今を生きる同胞たち、明日を暮らす若者たちこそワシらが守らねばならない存在だろうが!」


「意外と熱いんだな、デルデ」


 実はリュードたちも部屋にいた。

 デルデに呼ばれてきたのだけど部屋に入るなりドゥルビョがデルデにかかっていってしまった。


 突っ立ったままその様子を見ていることしかできないけどとりあえず上の世代の他種族を入れたくないという思いが強いことは分かった。

 あとはデルデがすごい熱い男なのも分かった。


 デルデの方がこの場においては特殊な方のドワーフだけれど言い争いを聞いていて正しい言葉を言っているのはデルデであるとリュードも思った。


「ワシがやったことが気に入らず国を追い出したいなら好きにせえ。


 どうせまた話し合いとやらをして表には出んのだろ?


 ならワシが勝手にやらせてもらう。

 外に助けを求めに行こうではないか。


 みんなを助けるためにそれが必要ならワシはそうする」


「しかし外に助けを求めても……」


「見てみろ!


 お前らが話し合いしている間に鉱山を1つ取り戻した!

 ワシというよりこいつらだが自分たちじゃ出来ないことを他の種族ならできるのだ!


 話し合うなら答えの出ないことではなくいかに助けを求めるか話し合うべきだろうがぁ!」


 熱い演説に思わず拍手したくなる。

 一票を持っていたら投じていただろう。


 この場において誰が1番ドワーフのことを考えているのかは論ずるまでもない。


「しかしだ……やはり他種族を入れることに対して不安がある。


 それにだ、他種族の者を多く雇い入れるほどの外貨はこの国にはないぞ」


 やや風向きが変わった。

 不安がありながらも他種族を受け入れることを考え始めている。


 さらりとした長い髭のドワーフがゆっくりと髭を撫でながら口を開いた。

 お金がない。ない袖は振れない。


 他種族を雇うにはお金がいる。

 ドワーフは他所との交易を多く行っている種族ではない。


 食料などの関係上必要な取引は行うのだけれどその内容としては物々交換のようなものでお金での取引ではなかった。

 いくらかお金はあってもそれほど貯め込んでもいない。


 外部の他種族を雇うのはいいけれど安い金額で雇える者など信頼が置けない。


「普段から閉鎖的で話し合いしかしないからそうなるのだ」


「ならばお主に良い考えがあるのか?」


「もちろん。


 何も考えずにワシがこんなことを言っていると思ったか?」


「ではどうするのだ?」


「ふん、ワシらはドワーフだぞ」


「なんだと?」


「農耕したり金勘定したりする奴もいるがワシらは、ワシらの価値は鉄を叩くことにあるだろう。


 ドゥルビョ、サッテ、ゾドリアズム、お前らの腕も鈍ってはいなかろう?」


 簡単な話だ。

 みんながドワーフに何を求めるのか。


 それは武器や防具、つまるところ鍛冶の腕を求めているのである。

 みんなドワーフに武器を作ってもらうことやドワーフ製の武器を手に入れることを望んでいる。


 別にそのまんまお金でなくてもいいのではないか。

 リュードのところには酒と腕相撲で信頼と、エントリー料としての武器類が多く集まっていた。


 勝負を挑むためにそこそこ良いものを寄越してきたのだけど使ってくれる人がいないので使ってほしい、どこかで誰かが使ってくれるなら売ってくれても構わないというドワーフもいた。

 さらにそれらの武器の質は高くて、欲しがる人は多くいると思った。


 ドワーフ側だってせっかく作ったのなら誰かに使ってほしいものだ。


 そこでデルデが提案する。

 お金ではなく武器、あるいは技術を対価として提供するのだ。


 ドワガルにおける入国権と武器の優先購入権。

 まずはこれが基本報酬となる。


 ドワガルには鍛冶をするドワーフが多く、武器も多く売っていた。

 ドワーフ同士ではあまり買わないけれど他の人たちにとってはとんでもない価値を秘めた市場になる。


 他種族、つまり冒険者たちを雇うことになるだろうから報酬としてドワガルに入って武器を買うことをできる権利を差し出すのだ。


 これだけでもやる気を出してくれるだろうけどさらに冒険者たちのやる気を最大限に引き出すために報酬を上乗せする。

 最も貢献したものについてはデルデを含めたドワガルの中でも指折りの名工たちが特別にオーダーメイドで武器を作るというものだ。


 やる気爆上がり間違いなしだと思うこの提案は実はデルデが考えたものではなく、リュードが考えたものだった。


 アリの巣掃除が終わった後、デルデはこの鉱山を取り戻した事を引っ提げてみんなを説得しようと考えていた。

 もちろんデルデもドワガルの現状を知っている。


 仮に他種族を引き入れることを説得できてもその先が続かないことを悩んでいた。

 外に大きな支払いが出来るほどの貯えがないことも当然分かっている。


 リュードたちのような人は稀だ。

 多くの場合足りない信頼関係は金銭で補うもので足りない信頼関係を補う先立つものがないのではみんなを説得しきれない。


 そんな悩ましそうなデルデの話を聞いて、別に金でなくても良いのではないかとリュードが言ったのだ。

 ドワーフと他種族との繋がりは細く、信頼はない。


 けれど今の世の中においても絶対的な信頼があるのはドワーフの鍛冶の腕だ。

 ドワーフとしてはお金も払うことなく武器も使ってもらえる。


 冒険者としてはドワーフの武器を買える、あるいは上手くやれば作ってもらえる。

 いくらお金を積んでも作ってほしい人までいるドワーフ製の武器はお金で考えると大きな価値を秘めている。


 自分たちの武器の価値をよく分かっていないデルデだったがリュードの言うことならばそうなのだろうと信じた。


 そしてデルデは現実に1つの案としてみんなにそう提案したのだ。

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