ドワーフと絆を深めて2
ラストの方はというと意外と酒に強かった。
リュードの血では一発で酔ってしまったがお酒は別らしい。
リュードがかなり接しやすい雰囲気を作ってくれたのでラストなんかはドワーフ女子と甘めのお酒なんかを嗜んでいた。
最初はリュードたちに悪い印象も少なく、勢いのある若いドワーフたちから始まったのだけどいつしか偏見もある年配のドワーフもリュードたちと交流を始めた。
酒と腕力の強い男は他種族だろうがなんだろうが認めるのもドワーフであった。
「……何をしておった?」
そんな風にしてドワーフと酒に囲まれて過ごしていたリュードは久々にドワーフたちの誘いを断って部屋にいた。
今のリュードは工芸品やら宝石やら武器に囲まれていた。
これらは全てドワーフから勝ち取った物の数々である。
リュードが要求したものではない。
連日宿に押しかけてきて、酒飲み勝負や腕相撲勝負を要求してくるドワーフたち。
リュードだって大人しくのんびりしていたい時もある。
一日中酒を飲んでいたり腕相撲をしているのも大変なのである。
例えドワーフ相手でもハッキリと物言うリュードは今日はやらないとか言うんだけどそこでドワーフたちは賭けの対象というか、勝負に挑むための貢ぎ物みたいなものを持ってくるようになった。
リュードは連戦連勝の無敗のチャンピオンなので優先して挑戦したいドワーフも多くてこれをやるから勝負しろ、勝ったらこれをやると物を押し付けてくる。
ドワーフの間ではこうした物を賭けることも一般的でリュードもちょっとしたものを手にとってジッと見てしまったら承諾と受け取られて、以降受け取らないからやらないとはいかなくなってしまった。
リュードと戦うにはそれなりのものを用意するようになっていったドワーフ。
最初の方はいらないから持って帰ってもいいと言っても置いて帰るからしょうがなく回収もしていた。
気づいたら結構な量のものがリュードの手元に贈られた形になったので一度整理しようと思った。
リュードに献上された物にはドワーフお手製の武器も多かった。
予備の剣どころかメインを張ってもよさそうな剣もチラホラとあったりもした。
ただの剣じゃないものもあるのでそういったことも確認しようと思っているとデルデが訪ねてきた。
「何をしたらこんなことになるのだ……」
工房に籠りリュードの剣を直していたデルデは外の状況を知らなかった。
集中し出すと周りのことを一切見なくなってしまうのだけどまさかこんなことになっているとは思いもしない。
宿の前では今日はリュードがお休みだと知ったドワーフたちが各々好きに酒盛りを始めていたので予感はしていた。
「今では若いドワーフもお前さんに興味を持っているそうじゃないか」
「若いドワーフ……ですか?」
「若い女性のことだよ」
酒が強いとそれだけで尊敬されるのだけど異性関係においても酒が強い相手というのは魅力的な相手であると言うことができる。
今やリュードの酒の強さはドワーフ中に知れ渡っているし、もっさりとしてスマートさのないドワーフと違うリュードに心を掴まれる人まで出てきていた。
何をしていたんだと思うけどドワーフが他者に酒飲み勝負を仕掛けることはあることだし、断って断り切れるものでないこともデルデは知っている。
悪いことじゃないし非難もできない。
酒が飲みたい欲求と暇つぶし、そこにリュードが強いために起こる負けず嫌いのプライド。
ドワーフの性格を考えるとしょうがないことかとデルデはため息をついた。
むしろデルデもリュードがどれほどのものか気になってきた。
「作業中悪いがワシの用事を先でも構わんか?」
「こっちの作業はいつでもいいから大丈夫」
細かい確認作業は後でもいい。
大体大きな分類はできたのでそれでも十分。
「では、ほれ、お前さんの剣だ」
「おおっ!
ありがとう!
結構かかったような、あっという間だったような、どちらとも言えない感じだな」
連日酒とドワーフに飲まれたせいで時間の感覚が結構狂ってしまった。
「どれどれ、ちゃんと直った……」
手にかかる重さの違いを感じながらもリュードは鞘から剣を抜いた。
「オホン。
聞いて驚くなよ?
その剣は芯に普通の鉄を使っておったのだがそれではこの黒重鉄の頑丈さを生かしきれていなかった。
なので今回はなんとワシの好意で芯の部分にミスリルを使ってみた!
これにより魔力の伝導率も上がって……」
「これは……」
リュードは剣を一眼見て息を飲んだ。
見た目は以前と変わらない黒い剣なのに冷たいほどの鋭さを感じさせる雰囲気をまとっていた。
同じ剣なのに全く異なっている。
そしてさらに剣に魔力が吸い上げられるような感覚がある。
いや、吸い上げられてはいるのだけど少し違う。
まるで自分の体の一部であるかのように馴染んで、スッと魔力が通るのだ。
手足に魔力を通すかの如く抵抗なく魔力を剣に通すことができてしまうので吸い上げられるような感覚を覚えたのだ。
見た目はほとんど変わらないのに剣としてのレベルは一段上になっている。
「これは、なんですか?」
「なんだとはなんだ?
お前さんの剣だろう。
話も聞いておらんのか、ミスリルを使ったと言っただろうに」
「ミスリルって……あの?」
「あのがどのを指しているのか知らんが高級な金属ではあるぞ」
この世界にはミスリルという金属がある。
そしてそのミスリルを使った武器というのは憧れの武器である。
ミスリルを使った武器は値段が跳ね上がり、誰もが手にしてみたい代物になる。
そのミスリルを使った武器だとは。
「えっ……」
剣に夢中でミスリルの話を聞いていなかったリュード。
改めてミスリルを使ったと聞いて途端に心配になった。
少量であっても高価なもの。
これだけ体に馴染むような感覚になるほどのミスリルとはどれだけの量を使っただろう。
金額的な心配が胸を占めた。
「心配するな。
これはワシが勝手にやったことだ。
黒重鉄を扱ったのは初めてだが中々面白くてな。
勝手にやったことで金を払えなどと言うつもりはない」
デルデの好意と好奇心でやったこと。
詐欺でもあるまいし勝手にミスリルを使って直したからミスリルの代金を寄越せという気はない。
むしろ黒重鉄について勉強になったぐらいに思っていた。
「そうか……ありがとうございます。
それにしても……」
それを聞いて安心したリュードは剣の具合を確かめる。
触ったことも見たこともなかったので特にミスリルに興味を持ったことがないリュードだったが考えを改めた。
今まで悪かったなどとは言いはしないが魔力の通りが段違いである。
剣先に至るまで魔力が通って繋がっているような感じがする。
「黒重鉄というやつは魔力の伝導率は悪いが定着率はいい」
悪かったとは思わないが悪かったらしい。
「まだどのような作用を及ぼすのか分からないが伝導率のいいミスリルと定着率のいい黒重鉄を合わせると、もしかしたらその剣は将来魔法剣になれる剣かもしれないな」
「魔法剣になれる剣、だって?」
なんだかよく分からない表現。
「魔法剣というと普通は魔力を剣にまとわせて属性化をして戦う技法のことを指す。
しかし武器における魔法剣というものも存在する。
長年使ってきたり、作る際に膨大な魔力を込めることによって剣に魔力が定着して魔力を込めずとも剣が魔力をまとう。
そうするとそれだけで自分で魔力をまとわせたのと同じような効果が得られるし自分でさらに強化もできる」
「はぇ〜」
リュードも知らない話だった。
本来の魔法剣はこの魔力を持った剣のことを魔法剣と言い、それを擬似的に再現する方法として剣に魔力を込める魔法剣の技法が生まれたのである。
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