ドワーフと絆を深めて1
「しゃー!」
「うわぁっ!
また負けたぞ!」
「誰かアイツを止められる奴はいないのか!」
名工とて1日で剣は作れぬ。
むしろ名工であるからこそ時間もかかるのかもしれない。
全員分の武器、特にリュードの剣を直すのにも時間は必要である。
単なるメンテナンスで済まなくなったのだからしょうがないとはいえ、暇を持て余すことになった。
ドワガルを離れてしまえば再入国出来るのか怪しいのでこのままドワガルの中で過ごす。
そしてドワガルに来て分かったのだが、リュードは底なしに酒を飲める体質、いわゆるウワバミやザルと言ったものであった。
前世では一般的なレベルだったのだがこの竜人族の体は異常なまでに酒に強い。
これまでは酔っ払って前世のことでも話してしまうとマズイと思って酔うほど酒を飲んでこなかったので気づかなかった。
そういえば神様と話している時にお酒も強いと良いと言ったような記憶があるような、ないような。
なぜ酒に強いことがわかったのか。
それはドワーフたちに原因がある。
外の人が来ない、かつ鉱山が魔物に占領されて素材も供給されない。
要するにドワーフたちも手持ち無沙汰なのである。
そしてドワーフという種族は往々にして酒が好きな種族なのである。
酒に強く、酒が好きで、暇があるなら水のように酒を飲む。
さらにドワーフは勝負事が好きで負けず嫌いな性格の者が多い。
もちろん個人差はあるけれど多くのドワーフにその傾向が見られることは間違いない。
他種族はあまり好きではないが今このドワガルにおけるホットで唯一の話題といえばリュードたちになる。
デルデが連れてきたという話も広まって好意的かはともかく警戒心はそんなになかった。
酒好き、負けず嫌いで勝負事が好き。
この2つが合わさるとどうなるのか。
まずはドワーフの方から酒を持ってきて交流しないかと声をかけてくるものがいた。
飲みニケーションというやつで、相手を知りたいなら酒を飲めという言葉がドワーフの中にもあるほどでリュードも暇をしていたしドワーフの酒を断りきれずに飲むことになった。
ドワーフとしては仲良くなりたいというよりもリュードを理由に暇つぶしに酒を飲みたかっただけだろう。
宿の前で地べたに座って酒を飲む。
なんともマナーのない話だけど路上で酒を飲み交わすのはよくやることらしく、リュードも相手のマナーに従うことにした。
最初は普通の酒飲みだったのがリュードは酒に強かった。
ドワーフの酒は特にアルコールの強いもので普通の人ならすぐに潰れていただろうがリュードは全く平気だった。
するとドワーフの目の色が変わった。
ただの酒飲みはいつしか酒飲み勝負になった。
周りにドワーフが集まり始め、最初に誘ってくれたドワーフの酒が尽きると周りのやつが酒を持ってきて勝負が続く。
そうしてリュードは1人のドワーフを完全に酔いつぶして勝利した。
その日はそれで終わった。
ドワーフからは拍手が送られてほろ酔いでいい気分になっていた。
ただそれで終わらないのが負けず嫌いのドワーフなのである。
他種族に酒で負けるなどあり得ない、あってはならないこと。
次の日、宿の前にはドワーフたちが集まっていた。
各々酒を抱えて、リュードに酒飲み勝負を要求してきた。
忘れられないあのキラキラした目。
ドワーフ以外の者と酒飲み勝負ができるという期待感が込められた断りきれない雰囲気。
一回でも勝利したリュードにはドワーフたちは敬意を払った。
無理矢理ではないと言っていたけれどあんな風に待っていられたらダメとは言えなかった。
何人かを選抜して全員が同じ量の酒を飲んでいく。
選ばれなかった奴らは周りで酒飲み勝負を酒の肴にして酒を飲む。
あっという間にリュードはドワーフ潰しという異名をいただいた。
その頃からリュードを見るドワーフの目が明らかに変わった。
酒が強いというだけでも尊敬されるドワーフの世界で今のところ負けなしのリュードはドワーフも認めざるを得なかった。
さらにリュードを倒すんだといえば酒を飲む理由にもなるお得感もあってドワーフたちはこぞってリュードのところを訪れた。
ただリュードだって休肝日は欲しい。
そこでドワーフはまた別の勝負を仕掛けてきた。
屈強な肉体を持つドワーフの中で自信がある部位といえばどこだろうか。
それは腕。
鍛冶を生業として生活するものが多いドワーフは腕に覚えのあるものが多い。
この場合の腕に覚えありとは腕力の話である。
毎日のようにハンマーを振るドワーフの腕の力は侮れず、そこで酒飲み勝負だけでなく別の勝負もドワーフの中では一般的であった。
「力を抜いて……振り下ろせ!」
「いけっ!」
「お前のハンマーの方が強いぞ!」
どこからか持ってこられた鉄のテーブル。
リュードと1人の若いドワーフはテーブル越しに向かい合い、腕を1本出して肘をつく。
互いに手首をつけて審判役のドワーフの号令で腕に力を入れて相手の腕を押す。
押し倒して相手の腕をテーブルにつけた方の勝ち。
つまりはアームレスリング、腕相撲である。
ちょっと違うのが手を組まないで手首をつけて押し合うということだけどこれは拳を握った腕を自分のハンマーに見立てているのである。
腕相撲なら手軽ですぐにできながら腕力を見せつける勝負になる。
腕力の強さが鍛冶の腕にも繋がるとドワーフは考えていて、腕相撲も自信があって負けられない勝負であった。
ドワーフから仕掛けてきた勝負だけあってドワーフは確かに強かった。
が、リュードもまた強かった。
幼い頃より鍛錬を重ねてきた。
純粋な腕力勝負でなくても強さが大事な竜人族と人狼族の中でリュードも自分の価値を証明してきた。
「うおおっ!」
「ぐわあああっ!」
「また負けだぁ!」
「くそっ、次は俺だ!」
丸太のように太いドワーフの腕を押し切って、リュードは勝利の喜びに拳を突き上げた。
ドワーフたちは連戦連敗に頭を抱えた。
それもそうだろうリュードは決して体格的にドワーフのような強靭さは感じられない。
がっしりとはしているが小さいドワーフの方がリュードよりも遥かに腕が太いのである。
竜人族であるリュードは体質上筋肉が付きにくい。
だからといって力が強くならないのでもない。
見た目がドワーフより細いからといって腕力が弱いのではないのだ。
重たい黒重鉄の剣を軽々と振り回すだけの腕力があるのである。
酒も負け、腕力も負けた。
ドワーフとリュードの意地のぶつかり合いはリュードの大勝利であった。
腕に覚えありのドワーフにはリュードと均衡を保った者もいたが持続力も勝るリュードが最後には勝利した。
そんなわけでリュードのことはドワーフの間で急速に広まった。
無敗の王者。
アイツが負けた、コイツが負けたと噂になり、リュードの評価はうなぎのぼり。
本来ならリュードたちは鉱山を攻略するなり調べて誰かに依頼するなどして、取り戻してからリュードたちの話を広めて好感を得るつもりだった。
それがいつしかドワーフ中のドワーフなどと言われるほどにリュードの評価は高まっていた。
ちなみにルフォンは酒に弱い。
ドワーフの普通よりも強い酒では匂いだけでもクラクラしてしまうほどに酒に弱かった。
あっという間に酔い潰れてしまうのだけどリュードのネックレスのおかげで解毒されるので割と早めに復活はしたりした。
お酒の許容量も分かってきたのかネックレスの効果も見ながら潰れない程度にお酒を飲むことを覚えてきていた。
ただルフォンは酔うとヘラヘラとしてリュードにやたらとくっつきたがった。
周りのドワーフはその様子を冷やかすがルフォンは非常に力が強くてリュードから一切離れないのでリュードも諦めた。
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