デルデの頼み4

 ドワーフの町は小さい。

 規模の話ではない。


 サイズの話である。

 通常状態のリュードたちの体格も大体真人族と変わらないぐらいである。


 リュードやルフォンは平均よりはやや大きいといえるがそれでも個人差の範疇レベルの大きさである。

 対してドワーフは大きな人でもリュードの腰ぐらいの大きさしかない。


 真人族の基準で見ても異様なレベルで小さい。

 ドワーフみたいだなと身長の低い人を揶揄して言うことがあるが実際のドワーフはそんな人よりも小さい。


 大きい種族もいれば小さい種族もいる。

 なので背の大きさをとやかく言うことはないのだけどやはり背の大きさの違いによる不便さはどうしても出てくる。


 その1つがモノの大きさである。

 文化的にドワーフは自分の体格よりもやや大きめのものを好むのであるがそれでもリュードたちには小さい。


 宿では外の人を対象にしているので家具もリュードたちに合わせたサイズだったけれどドワーフの町に繰り出すとどうしても大きさの違いで合わない場面が出てしまう。


 リュードたちが入ってきた門から見てドワガルの反対側にデルデの工房はあった。

 大きくて立派な工房。


 ドワーフ基準で見れば。

 大きくて立派なことには変わらないしドワーフたちの中でも大きめに作られてはいるのだけどそれでもリュードたちギリギリ入れるぐらいだった。


 デルデの好みから天井は相当高く作ってあるのでドアを通る時みたいに頭をかがめっぱなしではいなくてもすんだ。


 デルデの工房は工房兼自宅である。

 鍛冶を得意とするドワーフの家は普通の家であっても火に強い家である。


 特に工房を兼務している家はかまどに火を入れっぱなしでも大丈夫なように火事などほとんど起きないぐらい熱に強い建物である。

 そのため熱を遮断する効果も高く、中は思いのほか暑かった。


 工房からは鉄を叩く音がしている。

 見るとデルデの弟子であるゲルデパットンが鍛冶仕事に精を出していた。


 最初に会った時は少し情けないぐらいにも見えていたゲルデパットンだが、赤くなった金属を見つめるその顔はとても凛々しい。

 鉄を叩くその姿に鬼気迫るものがあった。


 火花が散り、とても素手では触れないようなものが形を変えていく様は見ていてとても引き込まれてしまいそうだ。


「おい、ゲルデパットン」


「あっ、師匠お帰りですか」


 いかに弟子といえど作業の邪魔をしてはいけない。

 デルデはゲルデパットンの作業がひと段落つくのを待って声をかけた。


「お客さんもいらっしゃいませ」


「アリアドヘンはいるか?」


「アリアですか?


 今彼女なら何かを思いついたようで部屋にこもっていますよ」


「そうか、ならちょうどいい。


 その作業が一区切りついたらお客に何か出してやってくれ」


「分かりました」


 暑い暑いと思っていたが工房の熱く燃える火のそばから離れるといくぶんか涼しく感じられた。

 2階に上がって奥側の部屋のドアをデルデはノックした。


「アリアドヘン、いるか?」


 ゲルデパットンが彼女と言っていたのでアリアドヘンは女性なのだろう。

 弟子であっても女性相手には気を使う。


 これが男弟子なら問答無用で入っていたが女弟子なのでちゃんとノックして声をかける。


「ちょちょ、お待ちください!」


 デルデがノックすると中から慌ただしい音が聞こえてきた。


「……何をしておるんだ」


 別に入るつもりはないからさっさと出てくればいいものをと思うが渋い顔をしてデルデも待つ。


「師匠、おかえりなさいませ!」


 ちょっとドタバタした後に可愛らしい顔をしたドワーフの女性が飛び出してきた。

 聞くところによるとドワーフは種族の特徴として女性も男性も髭が生える。


 女性の方が薄い傾向にはあるが歳を重ねていくと変わりがなくなり、若くても剃りもしなきゃ男性と同じように蓄えることが出来る。

 なので年配のドワーフ女性には見た目に男性と変わらないような立派なお髭をした人も珍しくはない。

 

 ただ今現在の若いドワーフのトレンドは髭なしである。

 例に漏れず若いドワーフ女性であるアリアドヘンも毎日髭を剃っているので顔が分かりやすかった。


「あ……お客様ですか。


 ハハッ、お見苦しいところをお見せしました。


 はじめまして。

 師匠の2番弟子であります、アリアドヘンと申します。


 お見知り置きください」


「こいつは特別手先が器用でな。


 ワシはあまり弓作りは得意じゃないがこいつの作る弓はそこらのドワーフを上回っておる」


「わ、私ですか?


 お褒めに預かり光栄です!」


 ものすごい早さでデルデの褒めの言葉を受け入れた。


「お前もそろそろ誰かのために武器を作っても良い頃だ。


 こちらの客の1人が弓を所望していて、お前に任せたいと思っている」


「わ、わあっ、本当ですか!?」


「本当だ。


 まだ若くて心配はあるかもしれないが腕の良さはワシが保証しよう。


 弓が欲しいと言ってたのはラストだな。

 希望要望があれば伝えるといい」


「たはぁー!

 師匠からまっかされちゃいました!


 どちらがラストさんですか?

 そちらですね。


 ささっ!

 部屋も片付け……てあるので、普段から。


 どうぞ中に!

 どのような弓をご所望ですか?


 私のおすすめはですね……」


 ラストが誘拐されていった。

 ケルタといいドワーフの女性はおしゃべりが好きなのだろうか。


 その後リュードたちもデルデと剣をどうするのかの相談をした。

 形はそのままを再現してもらえればそれでいい。


 形が違っていたら殺されかねないからというリュードの要望。

 しかし完全に折れた剣のために修理というよりは作り直すぐらいのことをしなければならず、100%の再現は厳しいかもしれないと言われた。

 作り手の癖というものがどうしても剣には出てくる。


 なるべく再現してくれるらしいが過度に期待はしないでくれと言われたので多少怒られることは覚悟しておこうと思った。


 ついでと言ってはなんだけどルフォンのナイフのメンテナンスやもちろんラストの弓も新調してもらえることになった。

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