デルデの頼み3

「なんだ……その顔ー!」


 ルフォンはニコニコしてもう引き受け顔、ラストもやれやれと軽く微笑んでいた。


「い、いふぁいよ!」


「なにふんのさ!」


 どうせ引き受けるんでしょ?という心の声が聞こえた気がしたので2人の頬に手を伸ばして引っ張る。

 ルフォンの頬はすべすべっとしていて柔らかく、ラストの頬はモチッとしていて柔らかい。


 あたかもリュードが厄介事を持ち込んできて、引き受けていることを2人が当然のように受け入れているような感じなのが妙にムカついた。

 なぜそんな他人事のようにしているのだ、この2人は。


 リュードだけじゃなく当然2人にも頼んでいるわけで、ちゃんと考えているようにも見えない2人の頬のフニフニで苛立ちを解消する。


「いいか、なんでもかんでも厄介事に首突っ込んでちゃダメだし、俺に常に従いますってのもダメだ。


 ちゃんと自分で考えて、嫌だと思ったら断ることも大事だかんな?」


 困ってる人を見過ごせないのは性分だから仕方ない。

 でもどんなことにでも手を出していくのも良いこととは言い切れない。


 デルデから聞いた話を自分で考えて引き受けてもいいかどうか2人にもしっかり考えてほしい、そうリュードは思った。

 基本的にリュードがやるなら自分もやると言う2人だからちょっと心配になってしまった。


 本来は出来るなら危ないことには関わらないのが1番なんだ。


「分かってるよぅ」


「嫌なことなんてやりませんー!」


 頬をさする2人。


「ふふっ、違うよ、リューちゃん」


「……何かだ?」


「リューちゃんが助けたいって思う人は私にとっても助けたい人だけどそれはリューちゃんが助けたいって思うからもあるんだけど、私も、私自身も助けたいって思ってるんだよ。


 それにリューちゃんの顔を見れば何考えてるかなんてお見通しだからね」


 リュードはお人好しだけどルフォンも大概お人好しだ。

 リュードが頼まれて助けたいと思っている時、同時にルフォンもリュードと同じく助けたいと思っていることがほとんどなのである。


 リュードが助けたいから助けるのもあるがリュードが助けたいと思う事情がある時、ルフォンもそれを聞くと助けたいと同じく思うお人好しなのである。


 だから賛成する。

 リュードがその人を助けるのにルフォンも助けたいと思うから従うのだ。


 嫌だったらこっそりリュードに嫌って伝える。

 たぶんその時は言わずとも顔を見ればリュードに伝わっていると思うけど。


「私だって!」


 ラストも大きく見れば似たようなものであるが少し違っている。

 ルフォンは純粋にお人好しであるがラストはこれまでの環境や経験からルフォンよりも警戒心は強い。


 誰でも彼でも助けると言えるほどのお人好しではない。

 でも自分は色んな人に助けられてきた。


 助けてくれる人がいることのありがたさやその感謝を知っている。

 だから誰かを助けられるなら助けてあげたいという気持ちがラストにはあった。


 でも多分ラスト1人が頼まれていたら断っていた。

 助けたいと思うけど手にあまりそうな話で安請け合いはできない。


 故にリュードが受けるからラストも受ける。

 リュードやルフォンとならどんなことでも乗り越えられるという自信があった。


「わーたよ。


 ただ何でも引き受けると思うなよ?」


「そうは言うけどどうせ真面目な顔して困ってたら引き受けるんでしょ?」


「……そんなことは」


 ないと言い切れない。


 結局助けるんだろうし、リュードは悪人じゃない限り人を見捨てない。

 分かってるのだ。


 そしてルフォンもラストもリュードのそんなところも好きである。

 さらにそんなリュードを手助けしたいという気持ちも大いにあるのであった。


「だそうだ」


 呆れ半分、嬉しさと恥ずかしさが混じったような感情半分。

 リュードもそんな優しさや考えを持つ2人のことが好きなのでそんな考え捨てろとも言えない。


「では……」


「俺たちに出来ることなら引き受けるさ」


「感謝する!」


 ゴンと音がするほど勢いよく床に向かって頭を下げたデルデ。


「ただ1つ問題があってだな」


「むっ、何が問題なんだ?」


「そもそもそれがここに来た目的なんだけどさ。


 俺は剣を直してもらおうと思ってきたんだ」


 予備の剣があるので戦えないことはない。

 けれども予備は予備だし、予備の剣を失えば後は武器もない。


 予備の剣の方はちゃんと作られた剣だけどあくまでも普通の剣である。

 リュードの激しい戦闘に耐え続けられるかは不安が残ってしまう。


 デルデの話を聞くと簡単にはいかないそうな話。

 いつまで経っても予備の剣で戦うわけにはいかないので先に剣を直してもらうことが必要である。


「剣……剣か。


 ちとワシに見せてくれ」


「これだけど……」


「ぬっ?


 見た目の大きさにしては重いな」


 リュードから受け取った剣の重さにデルデは驚く。

 まだ抜いていないので剣は見えていないがただの剣の重さでないことはドワーフでなくても分かるだろう。


 デルデが剣を抜くと半分ほどのところで剣身が無くなる。

 鞘を逆さにして振ってみると残りの先の方が出てくる。


「黒い剣か……こりゃ珍しいな」


 軽く振ったり、剣の断面を注意深く観察するデルデ。

 話の時の真面目さとはまた違う、職人の目をしている。


「こりゃ相手が相当無茶なやり方をしたな」


「分かりますか?」


「分かるさ。


 お前さんは悪くない。

 剣をダメにしたというから叱りつけるぐらいのつもりでいたが見れば相手が無理矢理剣を叩き折ってきたようだ。


 むしろお主はどうにかしようとしたし、剣も良く主人を守ったもんだ」


 リュードの力量は見たし、剣の断面からうかがえる戦いの後もリュードの力量不足が原因ではない。

 剣のコンディションは悪くないしよく手入れもされている。


 どんな相手から知らないが化け物みたいな相手が化け物みたいな力で剣をいじめたのだろう。

 リュードの悪い点を挙げるとしたらそんな相手と戦ったことである。


「いえ、俺の技術が足りなかったんです」


 受け流しきれなかった。

 剣の丈夫さをやや過信していたことや咄嗟の行動だったこともあるがデルゼウズの力を上手く逃せずに剣が受ける形になってしまった。


 例えデルゼウズが異常であってもそれ以上の技量を持って対処できれば剣は折れなかったのなと思わざるを得ない。


「ムチャを言うな。


 こんな力がかかるもん、剣が折れんかったら腕が飛んでいくわい」


 剣が折れていなければ腕や肩をひどく痛める事態になっていただろう。

 折れることによってリュードは剣に救われたとも言えるのだ。


「そうだな、頼みの礼というのには及ばんかもしれんがワシならこの剣を直してやることが出来る。


 手付金ということでどうだ?」


 聞き流していた話を思い出す。

 三鎚の1人であるデルデ優れた剣の職人であると言われていた。


「それは願ってもないですね」


「ついでにどうだ、ルフォンとラストの分も見てやろう。


 こう見えて腕はいいんだ」


「はいはーい!


 リュードは剣を修理に来たんですけど私は弓を作ってほしいです!」


「弓?


 弓はワシの専門外だが弟子の方が作れる。


 紹介してやろう」


「えーと、私はナイフのお手入れをお願いします」


「ナイフならワシの領域だ。


 まあここでは何だ、ワシの工房に来てみないか?


 ラストの弓を作れる弟子も紹介したいしな」


 思いもよらない奇縁とでもいうのだろうか、実はドワーフの名工であるデルデに剣を直してもらえることになりそうだ。

 デルデの招待に預かってデルデの工房にリュードたちは向かった。


「すまんな、ワシらの大きさに合わせて作られているから低かろう?」

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