デルデの頼み2

 他種族に排他的ではあるが土壌的には農業に向いているとは言いがたく、どうしても食料に関しては周りと交易する必要があった。

 そのために自分で鉱山を掘って自分で金属製品を作り、それを売って外貨を獲得して食料などを買っている。


 その基本ともなる鉱山が魔物に奪われてしまった。

 正確には鉱山の中に魔物が住み着いた。


 もちろんドワーフも鉱山を取り戻そうとした。

 指をくわえて見ていただけでなく何回か魔物の討伐に挑みはしたのであった。


 ただ今の現状を見れば結果は言うまでもない。

 ドワーフは屈強な肉体を持つ優れた戦士であった、のは過去の話となってしまっていた。


「もはやドワーフは過去とは比べ物にならなくなってしまったのだ」


 デルデは悲しそうに首を振った。


 世に名高いドワーフ製の装備を身にまとい、自慢の力を活かしたドワーフの戦士たちは非常に強い戦士なのであった。

 真魔大戦が起きて魔人族の一員と見られたドワーフがすぐに滅ぼされなかったのには鍛冶技術が優れていただけでなく、孤立無縁でありながらも真人族の侵略を押し止められるだけの力があったのだ。


 しかし今のドワーフはどうか。

 およそその当時のドワーフの戦士の姿など見る影もない。


 長い平和な時間がドワーフを軟弱にした。


 ドワガル周辺は徹底してドワーフの先祖たちが魔物を片付けた。

 安心して安全な場所にしようとしたのであるがその結果植物もあまりなく、魔物がいなくなった土地になった。


 食料となる他の魔物もいないので魔物が住み着くこともなく平和な土地となったことでドワーフは戦い方を忘れてしまった。

 自国から出ないドワーフは魔物と戦うことがなく引きこもった世界でしか強さを知らず、優れた装備であることにかまけて余計に戦いの腕を磨かなくなった。


 かつてがどうだったのかもう知らないが今は手足が短く相手に接近しなければいけないのに筋肉質で速さが遅くてひどく劣った戦士になったのである。

 魔法もドワーフは得意でないので鉱山の魔物に全く歯が立たなかったのだ。


「せめて火山の活動が活発だったら……いや、それでも変わらないか」


 防具も物は優秀であるがために死者こそ少なかったが多くのケガ人を出してしまった。

 火山が活発であればドワーフの力が増していて少しはマシだったろうがそれでも厳しいことに変わりはない。


「事情は分かりました。


 ですがその話について知恵を借りたいとはどういうことですか?」


 ドワーフの窮地とも言える状況。

 いくつかあった鉱山は気付けば全て魔物が住処としていた。

 

 このまま魔物を放置しておけばいつかドワガルの方にまで魔物がくるかもしれない。


 なのにドワガルの門は固く閉ざされ、このような現状にあることの情報は一切漏れ伝わってこない。

 ドワーフが助けを求めていないことは一目瞭然である。


「ドワーフの年長者どもはどいつもこいつも頭が固くていかん。


 皆ものごとの一側面しか見ておんのだ。

 時間が経ち、強い恨み言ばかり聞かされて忘れてしまっているがドワーフやこのドワガルの再建は何もドワーフの力のみでなし得たことではない。


 確かにご先祖様の努力あってのことだろうが再建を手助けしてくれたもの、捕われた同胞を助けてくれたものなんかがいる。

 そのことを忘れてはならんのだ。


 必要ならば助けを求めて何が悪い。

 対価も用意するつもりだしその身を差し出せと言っているわけでもないのに……」


 みな心のどこかでドワーフだけで解決できないことは分かっている。

 いたずらにケガ人を増やし、魔物に敵わないと分かっているなら敵う相手や知識がある人に助けを求めて然るべきなのだ。


「ただこれは国の問題。


 ワシが個人で助けを求めては後々問題が起こることもあるだろう。

 謝礼も1人では出せるか分からんし、勝手に問題を他種族の力を借りて解決したとなれば余計に頑なになってしまうかもしれん。


 どうにかあやつらを説得したいのだが何か良い考えないか?」


「……話は分かりました」


 難しい話である。

 他種族の力を借りることを嫌がっているドワーフに他種族の力を借りることを認めさせる方法はあるか。


 リュードもルフォンもラストも考える。

 あれだけ明るく笑っていたデルデが憔悴したようにしょぼくれている。


 他種族の力を借りたくないというのもドワーフを思うがためだがデルデもまたドワーフを思うがためになんとかしたいと思っている。


「1つ……」


「1つ、なんだ?


 1つ方法があるのか?」


「1つ解決してみてはどうですか?」


 時間だけが過ぎ、歳を取ってくように落ち込んでいくデルデ。

 そんな中でじっくりと考えていたリュードが口を開いた。


「解決とは……何をだ?」


「鉱山を1つ取り戻すんです」


「なんだと?」


 信頼とは常に行動である。

 口先だけではなんとでも言えるので行動で示すことが信頼を得るためには必要だ。


 助けを借りることを嫌がっている相手に何と言っても受け入れるつもりが相手になければ頑なになるだけ。

 相手を信じられず、相手の力も信じられないなら見せるしかない。


 少なくとも力はあることを証明する手立てがある。

 いくつか住処にされた鉱山があるならそれを1つ取り戻してしまうのだ。


 鉱山を取り戻す力が他種族にはある。

 だからプライドを捨ててでも助けを求める必要があると説得するのである。


 鉱山1つ分ぐらいならデルデ個人でも対価を捻出出来るだろう。

 そこから無理矢理活路を開いて国の方の契約に持っていければ禍根も残らない。


 ドワガルに恩を売れるなら喜んでタダ働きでもする連中もいるだろうけど報酬を出して、その対価として働くことが1つの安心に繋がる。


「……頼む」


「んっ?」


「頼む!


 この年寄りを助けてはくれないか!」


「デ、デルデ!?」


 デルデは腰につけていたハンマーをリュードの前に置いて両膝をついて頭を下げた。

 命の次に大事なハンマーを差し出した。


 どんな時にも肌身離さず持ち、床になんか置くことのないハンマーを差し出すことはドワーフにとっては大きな意味を持つ。


「ワシに出来ることならなんでもする。


 1つ……助けてくれ」


 デルデにも頼れる人はいない。

 ケルタが言っていたように旅をしていたことはあるので知り合いはいるけれどすぐに駆けつけてくれるほど近くにいる友人はいない。


 ならば隣の真人族の国に行って冒険者を雇うか。

 悪くない考えだけど問題がある。


 デルデもさほど賢い方じゃない。

 依頼するとして報酬は、どれぐらいの人数、ランクの冒険者を雇えばいい、どこに泊まってもらう、どの鉱山を攻略してもらう、そして本当にその冒険者が信用できるのか。


 個人で貯めているお金など高が知れている。

 1つ鉱山を取り戻すことは悪くない考えであるけれどデルデが冷静な目で自分を見た時に全てを上手くやる自信がなかった。


 それに対してリュードたちならどうだ。

 見知らぬドワーフを何の対価も要求せずに助けて、ドワガルまで同行させてくれた。


 実力の高さは見た通りで人間性も申し分なく信頼できる。

 リュードは自分を推薦するつもりなど全くなかったがデルデから見るとリュードたちはリュードのした提案に最も適した人物であるように思えた。


「鉱山を取り戻してはくれんか?」


 しかも冒険者を雇う交渉役ではなく、鉱山を取り戻す冒険者としてリュードたちをデルデは考えていた。


「顔を上げてください……


 そんないきなり」


「受けてくれるまでワシはここを動かんぞ!」


「いやいや、そんな……」


「この年寄りを助けると思って、どうか……どうか!」


 お願いの形であるが断らせるつもりの一切ないデルデ。

 ここでくだらない体面を考えるなら最初から相談などしない。


 強情なジイさんに捕まったものだとルフォンたちの方を見る。

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