デルデの頼み1

「それでアンタたちは何の用事でここに来たんだい?」


 リュードもその用事について聞きたかった。

 ドワーフの国ドワガルに来たのはリュードの折れた剣を修理してもらうためである。


 部屋に荷物を置いてケルタにどこの誰が良いか聞いてみようと思っていたらケルタに捕まった。

 一度口を開いたケルタのマシンガントークにリュードはただただ曖昧な笑顔を浮かべて相槌を打っていた。


 質問されたり、色々と話をされたりとリュードにはケルタの会話を押し返す話術はなかった。

 他にお客もいないので狙われてしまってはもはや逃れる術はない。


 全然戻ってこないリュードの様子を見に来たルフォンとラストは階段の途中からリュードを見て、こっそりと部屋に戻っていった。


 長いことを話に付き合ってようやく訪れたチャンス。


「俺は剣を直してもらいたくて来たんです。


 黒重鉄っていう金属を扱える職人さんはいらっしゃいますかね?」


「剣かい?


 剣と言ったらまず思いつくのはね……」


 分かっていたさ、こうなるって。

 普通に職人なりを何人か挙げてもらえれば良いのだけどそうは問屋が卸さないのがケルタである。


 答えが10にも100にもなって返ってくる。

 リュードが聞いていようが聞いていまいがお構いなしなので半ば聞き流して聞いている。


 サラサラとエピソードを出しながら10名ほどの職人の名前が飛び出してくる。

 あんなことをしたこんなことをした、こんな剣を作ったなんて話てくれているけれど頭に入ってこない。


 もっと他にお客さんがいればこのパワフルさも分散するのだろうけれど何せ今はリュードしかいない。

 しばらく暇を持て余していたケルタの全パワーがリュードに集中してしまっていた。


「やっぱり、1番腕がいいとなったらビューランデルデ様かね。

 この国の三鎚なんて呼ばれていて偉い人なんだけど今でも現役を続けてるのさ。


 剣のことならあの人を置いて右に出る者がいないなんて言われてもいるし弟子入りしたいドワーフも掃いて捨てるほどいるんだけど中々弟子も取らずにゲルデパットンともう1人ぐらいしかいないんだ。


 ビューランデルデ様に剣を打ってもらいたい人も山のようにいるんだけど気に入った人にしか作らなくて、あのお方に剣を作ってもらった人なんか数えるほどしかいないんじゃないかね?」


「デ……ビューランデルデって凄い人なんですか?」


「なんだい、知り合いかい?」


 聞き流していたのでそのままスルーしてしまうところだったデルデの名前。

 なんだか三鎚とかいう凄そうな呼び名まで出てきた。


「まあゲルデパットンが案内してきたし不思議もないかもね。


 ビューランデルデ様はすごいお方だよ。

 その腕もさることながら若い時にはこの国を飛び出して世界を旅していてね。


 ここに帰ってきてからも知識と経験を活かして素晴らしい作品を生み出しているのさ。

 今のこの国でも三鎚で3本指に入るほどの人だけどドワーフの過去を見ても5本指に入ってもおかしくないと私は思うね。


 ビューランデルデ様といえば……」


「失礼するよ」


「あっと、いらっしゃ……ビュ、ビューランデルデ様!?」


 不意に宿のドアが開いて今まさに話していたデルデが入ってきた。

 知り合いかもしれないとは思いつつ本人が目の前に現れて流石のケルタも驚いている。


 デルデのこと話していたの聞かれてはいないだろうかと営業スマイルが凍りついている。

 悪いことを話していたのでないので怒りゃしないだろうけど人のことをベラベラ話しているのもそんなに良いことでもない。


 自覚はあるけど止められないのだ。


「急に客を連れてきて悪かったな。


 部屋は大丈夫だったか?」


「も、もちろんです!


 暇していたのでとてもありがたかったです!」


 ケルタの態度が明らかに違う。

 気さくなドワーフぐらいにしか思っていなかったのに急にデルデの奔放な態度が大物に見えてきた。


「リュード、少し時間はよいか?」


「何ですか?」


「ここではなんだ、お前さんの部屋で話をしたいんだが構わないか?」


「ええ、いいですよ」


 真面目な顔をするデルデに軽い話じゃなさそうな気配はしているがケルタにこのまま捕まってもいられない。

 それにデルデのおかげでドワガルに入れたのだし、特に親しくなくても丁寧に接してくる相手ならリュードも無下にはしない。


 例え王様でもリュードは臣民でない以上雑なら雑に、丁寧なら丁寧に接する。

 今はデルデも真面目に丁寧に、なのでリュードも真面目に丁寧に対応する。


 耳が疲れたリュードはルフォンとラストも部屋に呼んで集まる。


「悪いな、くつろいでおるところに」


「大丈夫ですよ、ここに入れたのもデルデのおかげですし」


「お前さんたちに会いに来たのは少し知恵を借りたくてな。


 ドワーフの恥のような話にはなってしまうのだがもうワシらだけではどうにもならんのだ」


 落ち込んだ様子のデルデ。

 魔物に追われている時だって悲壮感のかけらもなかったような人なのに、深いため息をついて真剣な眼差しをリュードに向けた。


「お前さん方も薄々感じているだろ?


 このドワガルの異様な雰囲気を」


 門が封鎖されてラストですら入ることを許されないということは気になっていた。

 他種族に対して排他的であることは知っているので話で聞いていたよりも他種族に厳しくて中に入れないのかととりあえず納得はしていた。


 噂の方が誇張されている場合も有れば逆もまた然りであることがある。

 ただ実際にドワガルに入ってみると全員が全員リュードたちに嫌悪感のこもった目を向けてくることもなかった。


 中の雰囲気が異様かどうかは普段の雰囲気を知り得ないリュードにはあまり分からなかったけど。


「今この国は2つの問題を抱えておる。


 それは火山の休止とドワガルが所有する鉱山が魔物の巣窟になってしまったことだ」


 このドワガルが収まっている巨大な山は実は火山である。

 噴火こそしないが未だに活火山であって、ドワガルの奥には溶岩の川があったりもする。


 ドワーフは鍛冶の神の祝福を受けし子などと言われることがあるが同様に火の神からも祝福を受けているとされている。

 それはドワーフが熱や火にとても強く、燃え盛る火の前で鍛冶仕事をしても全く苦にならないからそう言われているのである。


 むしろ熱ければ熱いほど、火に近ければ近いほどドワーフは調子が良く力が増す。

 だから鍛冶を仕事にしているドワーフも多いのだけど、同じく活火山もドワーフに力を与えてくれる存在であった。


 けれどこの火山カファデラは段々と活動が落ちてきていて、最終的に休止状態になってしまった。

 それでドワーフが死ぬこともないがドワーフに力を与えていてくれた火山が休止状態になってしまったのでドワーフの力が落ちてしまった。


「まあ火山の方は自然の活動だから仕方がない。


 過去に休止状態になったこともあるから活動に波があるのだろう」


 勝手に火山に身を寄せているので文句を言える立場にもない。

 言っても何も変わらないし、問題ではあるが時間が解決してくれることを待つしかない問題である。


 火山の活動周期があって活発な時は非常に危ういほどに活発になることもあった。

 休止状態までなることは稀なので問題と言っているがそこはリュードに相談するものじゃない。


「目下の問題は鉱山が魔物に奪われちまったことだ。


 魔物の巣窟になっちまった……」


 デルデは深いため息をついた。

 ドワガルの周辺には巨大な火山の影響なのか多くの鉱山が存在している。


 火山に身を置いているのはただ力を得られるだけでなく、周辺に良質の鉱石が取れる鉱山があることも大きな要因であった。

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