封鎖された国3

「ちょっとよいか?」


「はっ……ビューランデルデ様ではございませんか!


 皆さまお探しでしたよ!」


「ふん、どうせ時間を浪費するだけの話し合いのためにだろう?


 ならワシなぞ必要ないわい。


 そんなことよりこやつらはワシの客じゃ。

 中に入れてやってくれ」


「ビューランデルデ様のお客様ですか?


 ……少々お待ちください」


 若いドワーフでは中に入れてよいかの判断がつかない。

 上の者に判断を仰ぎにドワーフが中に入っていった。


「お待たせいたしました。


 ビューランデルデ様がご責任を持たれるというのであらばお入れになっても構わないとのことでした」


「ワシの客だ、ワシが当然責任を持つに決まっている!


 またくだらんことで時間を使いおってに」


「分かりました。


 それでは中にお入りください」


 若いドワーフは巨大な門ではなく、その横にある小さい門を開く。


「ほれ、中に入るぞ……ドゥン!」


 少しは見直してカッコいいとこあるじゃんと思ったのも束の間、鉱石でパンパンになったリュックが引っかかり、勢いでリュックが転がる。


「た、助けてくれ!」


 リュックが下になり、デルデはリュックにぶら下がった形で吊り下げられている。


「締まらないな」


 どうにかデルデを救出して、ドワガルに入国することができた。

 外で困っている人たちのどうしてあいつらは入れるのだという視線が痛かったけれどこれもまたツテというやつだ。


「デルデってすごいドワーフなのか?」


「ふん、周りが勝手に持ち上げとるだけだ。


 ワシはワシだ」


「そっか」


「ビューランデルデ様!」


 リュードは不思議な感覚がしていた。

 まるで自分が巨人になって小人の国に迷い込んでしまったような、そんな感覚。


 中に入ってみるといるのは皆ドワーフ。

 ドワーフによる単一国家なので当然だが、ドワーフはリュードたちよりもはるかに背が低いのでリュードたちはよく目立ち、周りとの差にリュードたちがおかしいもののように思えてくる。


 デルデを見て1人のドワーフが走ってきた。

 毛質だったり、長さや編み込みなどの違いはあるけれど髭面のドワーフは皆同じように見えて分かりにくい。


 門番をしていたドワーフしかり、若そうなドワーフには髭を剃っている者もいるようで若者特有の進んだ価値観、世代の異なる価値観というものがあるのかもしれない。

 でも町中を見ると8割ほどは同じようにリュードには見えていた。


「ゲルデパットン、何をそう焦っている?」


「いやいや、首長会議すっ飛ばしておいて何をやっているんですか!」


「ふんっ!


 ワシが出たところで何が変わるものか!


 延々と何も決められない、答えも出ない会議をするだけ時間の無駄ではないか!」


「そうだとしてでもですよ……


 他の方も待ってらっしゃいますので早く向かってくださいよ」


「嫌だ」


「もうお願いしますよ。


 ガダキュール様にせっつかれるのは私なのですよ」


「ガダキュールにはそんな奴知らんとでも言っておけばよい。


 ……分かった。

 そんな目をするな!


 行けばよいのだろう。


 ……代わりにコイツらを頼む。

 ワシの客人だ。


 宿でも取ってやってくれ。

 どうせ宿も暇してるだろうから連れていけば喜ぶだろう」


「ああ、そういえば珍しくお客さま連れていますね」


「普通は逆が優先だろうにお前が用件押し付けてくるから立たせてしまっていることになったではないか」


「うっ!


 そ、それは申し訳ありません……」


「大事な客だから丁重にもてなせよ!


 済まないがワシはいかなきゃいけなくなった。

 こやつに案内させるからワシらの街を楽しんでくれ!」


 大きなリュックを揺らしてデルデは走り去ってしまった。


「……申し訳ございません。


 私はゲルデパットンと申します。

 ビューランデルデ様の弟子であります。


 ビューランデルデ様のお客さまということでご案内させていただきます。

 お宿に向かうことでよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします」


 弟子というからにはデルデよりも幾分か若いのだろうけれど声からも見た目からも年齢の若さが分からない。

 それほど大きな年齢の違いがあるように見えない。


 ドワーフ同士ではなんとなく年齢的な違い分かるのだけど他種族であるリュードには全く違いは分からなかった。


 歩いていくゲルデパットンについていく。


「こちらがお宿です。


 今は町も封鎖されているのでお宿の部屋も空いていると思います」


 他種族に対して閉鎖的なドワーフの町で宿をやっているドワーフはほとんどいない。

 大きな町にある限られた宿の中でも一番良い宿をリュードたちに紹介する。


「んーいらっしゃい……あれ、本当に客かい!?」


 フロント用の机に突っ伏していたドワーフの女性が気だるそうに視線をゲルデパットンに向けた。

 そしてその後ろにいるリュードたちを見てバッと立ち上がる。


 先頭がゲルデパットンだったので暇を持て余した知り合いが遊びに来たのかと思っていた。

 現在のところドワーフの町にドワーフ以外はいないからドワーフよりも大きなリュードが目に入った瞬間これは客だと自然と察した。


 髭のない中年のドワーフの女性は嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「どうやってこの町に……いや、そんなことどうでも良いわね!


 お泊まりのお客様でしょ?

 部屋なら選び放題よ。


 なんなら4人部屋1人1部屋使ってもいいわよ!


 もうなんなら宿貸切で毎日違う部屋使ったって怒りゃしないわよ!


 よくウチに連れてきたわね!

 あんたビューランデルデんとこの子だろう?


 ありがとうね、後でなんか差し入れてあげるよ!」


 久々の客にテンションが上がる。

 客もこなさそうだしどっか飲みにでもいこうと思っていですらいたところだった。


 ゲルデパットンの背中をバンバンと叩いて笑うおばちゃん。

 グイグイ来るのを嫌う人もいるけれどこうした気のいいおばちゃんタイプの店主がいる宿は割と当たりなことが多い。


 リュードはそんなに嫌いじゃないので良さそうだなと思っていた。


「飯はどうする?


 ドワーフは肉料理が好きだから肉料理が多いけど野菜なんかも美味いのが多いよ!


 魚は取れないからちょっとイマイチだからオススメはしないね。

 肉料理ならそうだね……」


「……元気な人だな」


「これが気にならないならドワーフの町1番の宿ですよ」


 宿の名前はケルタの金床。

 おばちゃんの名前はケルタ。


 わざわざこんな町で宿屋をやっているケルタさんはとてもおしゃべりな人であった。

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