封鎖された国2

 ドワーフだと悩むこともなくリュードは分かった。

 ザ・ドワーフ。


 イメージ通りのドワーフが目の前にいる。

 誰にも気づかれず、ほんのりと感動する。


「どういたしまして。


 どうしてこんな時間に魔物に追われていたんですか?」


「ハッハッハッ、これには深〜いわけがあってな」


「まあ、なんでもいいですけど他に追ってきている魔物なんていませんよね?」


「多分いない。


 あいつにだけ見つかって執拗に追いかけてきたんだ」


 トカゲとかそんな感じの魔物はそこら辺にいてもおかしくないタイプの魔物である。

 けれどこのトカゲはそこらにいるタイプのトカゲではない。


 どう見ても森や草原に出てくるものではなくやや特殊なタイプのトカゲ。

 ドワーフがどこからか連れてきてしまったのだろう。


 他にトカゲは見えないし、いないと断言しても大丈夫そうだ。

 

「お、おいおいおい!


 これを放っておくつもりか!?」


「えっ?


 いや、埋めてしまおうかと」


 トカゲの死体は野営地に呼び込むようにして戦ったので寝る場所に近いところにある。

 魔物の死体を放置しておくのは他の魔物を呼び寄せてしまう危険があるし、衛生上もよろしくない。


 1番手っ取り早いのは燃やしてしまうことだけど表面が非常に硬いこのトカゲが火で燃えるのか不安がある。

 中途半端に燃え残ってしまうくらいなら最初から埋めてしまった方が早い。


 土魔法でサッと埋めるつもりだがどうしても埋め戻した後がいびつになるので土をならす必要がある。

 そのために道具を取りに行こうとしていた。


「う、埋めるって……こんなに見た目綺麗にミスリルリザードを倒したんだぞ!?


 それを埋めるだと?


 お前さんたち頭どうかしてるんじゃないのか!」


 初対面の相手に頭どうにかしてるなんていう方がどうにかしている。

 怒ったような、驚いたような表情を浮かべるドワーフ。


「これ、ミスリルリザードなんですか?」


「そうだ!


 リザードそのものの質も良く、皮もほとんど傷ついていない倒し方をしておる。

 持っていくところによっては非常に高価に買い取ってくれるはずだ!


 ワシも欲しいぐらいにな……」


 ドワーフは追いかけられて逃げただけでミスリルリザードを倒してはいない。

 倒したのはリュードたちなので助けを求めた身でもあるしミスリルリザードを要求する権利なんてない。


「ふーん……」


 トカゲは結構デカい。

 人のサイズくらいは余裕であって持って歩くには困るぐらいの大きさである。


 リュードたち以外なら。


 騙してトカゲを持っていかせるメリットなどない。

 純粋な文句というかアドバイスには従っておくのがよいだろう。


 しょうがないのでリュードは近くの木のそばまでミスリルリザードを引きずっていく。

 硬いので引きずるくらいでは皮も傷つかない。


 ロープを使って尻尾に括り付けて木に吊るす。

 魔物の血も買取対象であることが多いがこうした血は魔物を早く傷ませる原因にもなる。


 この場合では皮が1番大事なのでしっかり血を抜いておけば腐りにくく、皮も品質を保てる。


 ある程度血が出なくなったら今度は使わない布で包んで、後はマジックボックスの魔法がかけられない袋に入れておく。


「やれやれ、この年でこんなに走らされる事になるとは思いもせんかったわい」


 当然の如く焚き火のそばに腰を下ろしたドワーフはビューランデルデと名乗った。

 背負った自分の身の丈ほどもありそうなリュックを下ろして足を揉む。


 ルフォンが水を渡してやると一気に飲み干してしまい、リュードの呆れたような視線を乾いた笑いでごまかした。


「酒はないのか?」


「残念ながら」


「ハッハッハッ、冗談だよ!」


 あるなら本当に要求するつもりだった。

 ないなら出しようもないので冗談だったと笑って終わりにする。


 帰りの分の酒を残しておくんだったとビューランデルデは後悔した。

 大変だろうからと高い酒を持ってきてしまったがばかりにあっという間に飲み干してしまった。


「本当に助かった。


 お前さんたちはこんなところで何を?


 どこかへ行く途中か?」


 この中で1番焚き火が似合っているビューランデルデだけど、お座りくださいとも一言も言っていない。

 夜に魔物に追われていた人を追い出すことはしないけどいささか気さくが過ぎる。


「俺たちはドワーフの国に向かっていたんだ」


 今更文句を言っても仕方がない。

 相手が気さくに接してくるならリュードも相応に対応する。


「なに?


 ドワガルに行くつもりなのか?


 あそこは魔人族であっても簡単に入れるところではないぞ」


「分かっています。


 けど今回はちょっとツテがありまして」


 チラリとラストを見る。

 ドワーフと交流がある血人族の紹介状があれば中に入れるはず。


 今はなんと紹介状どころか王様の娘、いわゆる王女様が直接来ているのだ。

 入れる事にあまり疑いは持っていない。


「そうか……ワシもドワガルに帰るところなんだが一緒に行かせてもらってもいいか?


 道案内ぐらいはできる……と言ってもほとんど一本道だかな」


 行き先と進む道が同じなら特に断ることもない。

 拒否したところで同じ道を行くのに距離でも空けて歩くことになるだけだ。


 命の恩人だから是非デルデと呼んでくれというデルデと共にドワーフの国であるドワガルに向かう事になった。

 見れば見るほどデルデはドワーフだった。


 ややずんぐりむっくりした体型だが太っているのではなく筋肉質。

 髭も含めて毛量が多くて、固そうな毛質をしている。


 性格は明るく気さくで細かいことを気にしない。

 少し無遠慮だと思えるところもあるがどこか憎めず、一緒にいて楽しいオッサンである。


 体と同じくらいの大きなリュックを背負っていて中身が気になっていた。

 野営の時に退かそうとしてひどく重たく、何が入っているのか聞いてみたら自分で掘ってきた鉱石が入っているのだと言った。


 あれをずっと背負っているのだと考えるとドワーフの力は結構強い。


 1人で鉱石を掘りに行って、帰ってくる時にミスリルリザードに見つかって追いかけられてしまったらしい。

 執念深くてどれほど逃げても追いかけてくるので限界が近かったところにリュードたちが現れた。


 道は一本だがドワーフしか知らないような抜け道なんかを教えてもらってドワガルまで予想よりも早く到着することができた。


「申し訳ございません。


 それでもお通しできません」


「なんでぇ!」


 ドワガルは巨大な山の麓にあり、山の中の一部をくり抜いてそこに都市がある。

 そしてドワガルの特殊なところはその立地もそうなのであるが都市が1つしかないというところである。


 つまりドワガルとはドワガルという国であり、ドワガルという都市である。

 山周辺もドワガルの領土となっているが他にドワガルの居住地はないのだ。


 そんなドワガルは入るのに巨大な門を通らなければならないのだけれど、その門は今固く閉ざされていた。

 門の前にはリュードたちも含めた、困り果てたような表情の人がたくさんいた。


 なんのツテもなく武器を求めて訪ねてきた冒険者が入れないのはもちろんのこと、交流のある商人や紹介状を持つ王女様まで入ることを断られた。

 誰も入れられないのですと髭のない若いドワーフが困ったように繰り返している。


 これがリュードたちに対するお礼であるのに入れてもらわねば困る王女様は食い下がるが相手は申し訳なさそうに謝罪を繰り返す。

 王女様アピールも紹介状も効果がなく、これじゃラストがドワーフをいじめているみたいではないか。


「やはりな……」


 デルデがため息をついた。

 ツテがあっても入れないだろうことはデルデには分かっていた。

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