自由を取り戻し3
何回も死んだと思った場面があったが生き延びることができた。
どれもこれもリュードたちのおかげ。
「俺、一からやり直します。
もう一度初めから頑張ってみることにします!」
初心を見失っていた。
実力が上がらないことを周りのせいにして、どうにかできたかもしれない失敗を最後まであがかずに甘んじて受け入れた。
冒険者になった頃のがむしゃらに挑み続ける自分の姿はそこになかった。
だけどリュードたちの姿を見て考えを改めた。
強大な敵にも、過酷な環境にも、そして隣にいない相手がどうなっているかも分からない大きな不安にも、リュードたちは諦めずに立ち向かった。
ウロダはそんな姿を見て目を覚ました。
もう冒険者としては若くなく、大きな失敗をしたレッテルも貼られているだろう。
けれどもう一度立ち上がって努力してみようと思った。
それが助けられなかった仲間たちに対する弔い、償いにもなる。
リュードたちは強い。
実力もさることながら、その精神も強い。
諦めないことがリュードたちを強くしている。
リュードの諦めない姿勢を見習いたくて、ウロダは心の中でひっそりと焼き付けたリュードの姿を師匠と呼ぶことにした。
リュードにはいらんと一蹴されたけれどこの国を出るまではどうか身の回りの世話をさせてほしいとまでウロダは申し出た。
少しでも恩返ししたいと勝手にリュードのお世話をしていて、リュードもウロダの熱意を買ったのか何も言わなかった。
「準備ができました」
顔の右半分をひどく腫らした女性兵士。
リュードを丁寧でない態度で扱った女性兵士のことはリュードからグチとして聞いていた。
リュードが圧倒的な力を見せて勝ったので女性兵士は起きた時に何が何だか分からずにまたリュードにかかっていってしまった。
当然周りは止めようとしたのだけど先に動いたのはルフォンだった。
お怒りのルフォンは強かった。
女性兵士の顔の右だけを狙うという離れ技で女性兵士はボッコボコにされた。
ウバにも怒られて女性兵士はとてもしおらしい態度になった。
起きたタイミングでたまたまリュードがそばにいて、たまたま素手でかかってきてよかったと思う。
剣でも持っていたら今頃女性兵士は顔の腫れじゃ済まなくて、ここにいなかったかもしれない。
リュードたちは女性兵士に呼ばれてウバの妹の部屋に行った。
全身に石化が進み、服も着替えさせられないので布で隠してあるだけのウバの妹。
もはや耳も石化して聞こえなくなって筆談で治療の了承を得た。
「聞こえちゃいないと思うが始めるぞ?」
「よろしくお願いします……」
聞こえてはいないが口を動かして何かを言っている。
治療を開始することは知っているので言っていることは大体予想できた。
リュードは薬とハケを取り出した。
針はまだ使わない。
なぜなら全身が石化していて針が通らないのでまずは表面の石化を治療していく必要があるからだ。
正直リュードはいなくてもよい。
今のところやるのは全身に薬を塗る作業なのでむしろいない方がいいのだけど何か緊急事態があった時にとリュードも部屋にいることになった。
医者でもないのだからいたところで何が出来るのでもないが薬を作ったのはリュードだから責任は取らなきゃいけない。
女性兵士や侍従の女性を含めてルフォンたちでハケで全身に薬を塗っていく。
「グッ……グアアアア!」
すぐに効果は出始めて、ウバの妹が苦痛の声をあげる。
クゼナよりも病状が進んでいるので相当な苦痛が全身苛んでいた。
薬を塗ったら後できることはない。
触れるわけにもいかず祈るようなウバはハラハラと涙を流し、代われるなら代わってあげたいと何度も呟いていた。
しばらくなんの感覚もなかった全身が燃えているように熱い。
しかし石化した体を動かすこともできずにただ苦痛の声を出すしかない。
「妹は……大丈夫なんですか?」
苦しむウバの妹。
ウバが心配そうにリュードに話しかける。
「苦しんでいるのは良い兆候というのは表現としてどうかと思うが苦しいということは薬が効いているということなので、辛いかもしれないが後は本人が頑張るしかない」
せめて手でも握れたらと思うけれど、手にも薬は塗ってある。
ただ祈る、それしか今はできないのである。
しばらくして石化した灰色の肌の上に灰色の水滴が浮かび始める。
下に敷いてもらったシーツに灰色の汗が滲んでシミを作る。
ここまで来ると少しやることもできる。
優しく押し当てるようにして体の汗を吸い取っていく。
息が荒く、次々と灰色の汗が噴き出してきて、みんなでそれを布で吸い取っていく。
何枚もの清潔な布が灰色で染まり、クゼナの時よりもは長い時間がかかってようやく灰色が薄まってきた。
一回でウバの妹の肌は戻りきらず、時間をおくとまた灰色になった。
日を跨ぎ、ウバの妹の体力と相談しながら3回目、ようやく針で刺せるほどウバの妹の体は柔らかさを取り戻した。
そこまでいくと表面の大部分は肌色を取り戻し、体が動くようになっていた。
ウバは泣きながらリュードに頭を下げたがまだ終わりではない。
このまま放っておけばまた石化は始まってしまう。
体内に残る全ての石化の原因を取り除くためにリュードは針での治療を行った。
一体どれだけの布やシーツがダメになったことだろうか。
灰色の汗が出なくなり、そこからさらに数日様子を見てもウバの妹に石化病の再発の兆候は見られなかった。
もう大丈夫だろうと告げると姉妹は抱き合って泣いていた。
「ありがとうございます。
なんとお礼をしたらよいのか……妹がまた元気でいられるのとリュード様のおかげです」
「いいさ、治せるなら治してやるのが人情ってもんだからな」
「その……厚かましいお願いなのですが1つお願いしたいことがあるのです」
「……なに?」
「石化病の治療法を探す中でわかったのですがこの国には今何人か石化病患者がいるのです」
「この珍しい奇病の?」
「はい……理由は分からないのですが貴族の子供ばかり何人かがこの病気を発症しているようで、私の友人の娘さんもこの病気に冒されているのです。
どうか、お救いくださいませんか?」
「なぜそんなに石化病が……」
「分かりません……うつる病気ではありませんし、そもそも調べるまで石化病患者がいるなんて知りませんでした。
石化病繋がりで今は交流を持たせていただいてますがそれまで娘さんと妹も会ったこともありませんでした」
「まさか、誰かがこの病気を広めている……のか?」
「……今回の事件には悪魔が関わっていました。
もしかしたらその可能性も……」
まことしやかに囁かれる天才的な医者の存在。
誰にも治せなかった石化病を突然現れた黒い男が治していったという。
対価も求めず静かに治療だけをして去っていくその医者のことを黒角の医師と誰かが呼び始めた。
ただ本人はそんなこと知らず、さっさといかなきゃ石化病に冒された人が手遅れになると思って治療をしていた。
原因の分からぬ奇病、石化病が同時期に2人もいれば珍しく、3人もいれば奇跡と言える。
リュードはトゥジューム中を回って何人もの石化病患者を治療した。
なぜまでこの奇病がいきなりほとんど同時期に複数人に発症したのか。
そして発症したほとんどが貴族の関係者。
娘、息子、夫だったりと家長に近い人物が石化病になっていた。
そしてさらにみんな石化病の治療法を探す中で大会の優勝賞品にエリクサーがあることを聞いて、大会へ奴隷を参加させていた。
偶然で片付けるには何がおかしい。
しかし証拠もなく、結局石化病の原因は分からなかった。
妙な引っ掛かりを覚えながらも、石化病を治療し終えたリュードたちはトゥジュームを出発することなった。
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