閑話・末長くお幸せに
リュードたちが石化病を治療して回る前のこと。
ウロダのもの以外の首輪の鍵を持ったリュードたちはトゥジュームの首都に向かった。
こんな良い思い出のない国なんてさっさと出て行ってしまいたい気分であったがやることがある。
「リュードさぁん……」
「久しぶり。
元気そうで何よりだよ」
首都にある大きな教会にわざわざ訪れたのには理由があった。
石化病を治しにきた、のではない。
この教会にはトーイがいるのであった。
半ば軟禁状態のような感じで教会内部に留め置かれている。
悪魔は何をしてくるものかわからない。
デルゼウズはトーイの体から抜けたと思われるが本当に抜けたのか、または何かの悪影響や後遺症を残してはいないかと警戒をされていた。
そのために聖職者たちの監視下に置かれていたのだ。
教会の外に出ない限りは自由の身とはなっていて不自由なことはそんなにないがやはり悪魔に取り憑かれたものとして周りから距離を置かれているので気分は良くない。
それに教会の中に娯楽があるかというとあまりそんなものが多くはない。
だけどトーイの側にはミュリウォがいた。
最後まで互いを強く思い合った人が近くにいてくれるならそれで十分だろう。
デルゼウズでなくなったトーイは相変わらず性格はナヨっとした感じであるのだが大きな変化があった。
魔力が強くなったとか特殊な能力を手に入れたとかそういったことではない。
見た目が大きく変化したのである。
ひょろっとして貧弱だったトーイはなんとムキムキになっていた。
元が細いのでゴリマッチョではなく細マッチョ的なムキムキなのだけど、とりあえずムキムキになったのである。
一回り体が大きくなりがっしりとした体型になっていた。
これは思わぬ副作用だった。
デルゼウズはトーイの体の限界を超えて無理矢理魔力で強化し、無理矢理魔力で再生してを繰り返して戦っていた。
最後も神聖力で治してもらったのだがしばらく動けなくなったほどにトーイの体は疲弊していた。
そして気づいてみるとトーイの体は引き締まった細マッチョになっていたのであった。
魔力による筋肉の超回復が繰り返されて鍛え抜いたみたいな体つきに作り変えられたのである。
監視されるような生活が続いて精神的にも疲れて、全てを知っているリュードに会って多少ナヨナヨしているが内面的にもトーイは変わっていた。
普通に生きていたら経験しえない出来事を乗り越え、体つきが変わって力も強くなってトーイの自信に繋がった。
オドついていたようなトーイはなりをひそめて、背筋を伸ばしてキリッとした顔つきをするようになっていた。
「ほれ、これが鍵だ」
リュードはトーイに首輪の鍵を渡した。
このためにリュードはウバの屋敷に乗り込んで、わざわざ教会まで戻ってきたのである。
リュードはトーイにとって恩人であるが、トーイはリュードにとっても恩人であった。
教会から出られないトーイのために首輪を外すための鍵を取りに行った。
「ああ!
ありがとうございます!」
魔力の少ないトーイにとって首輪の効果は薄くて日常生活で邪魔なぐらいの不便しかなかった。
魔力云々よりも首回りに違和感があることの方が問題で早く外したかった。
念のためと何人かの聖職者に見守れながらトーイは首輪を外して晴れて自由の身になった。
「やった……自由だ!」
奴隷としての証でもあった首輪が外れてトーイは見た目にも完全に一般市民としての身分を取り戻した。
「ミュリウォ!」
「トーイ!」
もう長いこと聖職者たちに監視されているのですっかり抵抗もなくなった。
トーイとミュリウォは感極まって強く抱き合う。
「リュードさん!
僕は、リュードさんにも負けないぐらいミュリウォを大切にしていきたいと思います」
「お、おう……」
うっすらと涙を浮かべてトーイはリュードに向き直った。
自信がついたせいか声もでかい。
「リュードさんもお2人と幸せになられるように僕は願っています!」
「あ、ありがとう……」
若干の暑苦しさも得たトーイの圧に押され気味のリュード。
差し出されたトーイの手を取って握手に応じる。
「ルフォンさんとラストさんもありがとうございます。
お二方がいらっしゃらなかったら私は途方に暮れて、今でもどうしたらいいかわからなかったことでしょう。
トーイを探すことができたのは2人のおかげです!」
固く握手を交わすリュードとトーイの横でミュリウォも感謝を述べる。
トーイを探すことは1人では無理だった。
金も知恵もなく、考えを実行できる力もなかったミュリウォは泣く泣くトーイを諦めるところだった。
ルフォンとラストに出会えて、金も力もありながらリュードを決して諦めない2人がいたからミュリウォも諦めず、危ないところまで行く勇気を持てた。
絶対に見つけるという強い意志がリュードへと導いた。
「トーイさんも見つかって……最後にはこうして無事でよかったね」
「これから2人は夫婦になるんだよね。
末永くお幸せにね」
「へへへっ、ありがとうございます。
ルフォンさんとラストさんもリュードさんとお幸せになってくださいね」
魔人族では一夫多妻であることも珍しいことではない。
どう見ても2人はリュードのことを想っている。
どちらも美人だし、ルフォンがあっさりとお金を出したところを見るとリュードにはそれを支えるだけの甲斐性もありそうだ。
仮にお金がなくてもこれだけ強い絆で結ばれた3人ならどうとでも生きていけるだろう。
最後にはリュードの戦いぶりも見た。
短い間であるが縁を繋いだルフォンとラストを任せるに足るに人物であるとミュリウォは思った。
これでリュードがろくでもないクソ野郎だったら2人に嫌われる覚悟で止めていたかもしれない。
旅をするリュードたちと定住するつもりのトーイたち。
何か会いにでもいかない限り再び人生の道が交わることはないだろう。
世界は広いので偶然でも会う可能性はとても低い。
別れを思ってミュリウォの目に涙が浮かぶ。
「ルフォンさん!
ラストさん!」
感極まったミュリウォが2人にバッと抱きついた。
ラストもウルっときて、ルフォンも優しい顔をしてミュリウォを抱きしめ返す。
「お元気で、リュードさん」
「お前もな、トーイ」
決して混じり合うこともなかった3人と2人。
しかし奇妙な縁と奇妙な冒険によって友情が生まれた。
悪魔という暗い影を落とす存在よりも悪魔と共に戦った優しくて逞しい3人のことをトーイとミュリウォは決して忘れないだろう。
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