孤独、ではない4
ズンッ。
低くて響くような音がした。
デルゼウズにも予想外の音で敵襲かと警戒して振り返るがルフォンやラストはまだシャドードールと戦っていた。
今の音はどこからだ。
もう一度音がして、デルゼウズは天井を見上げた。
天井にメキリと大きなヒビが走った。
「ここかぁーーーー!」
「な、なん」
「食らえ!
ルフォン、ラスト!」
天井が崩壊した。
驚くデルゼウズをリュードが殴り飛ばす。
デルゼウズがコントロールしていたシャドードールの動きが悪くなった隙をついて2人がシャドードールを倒してリュードのところに駆けつけた。
「伏せろ!」
窪みのあるところ、部屋の真ん中ら辺からドンドンと天井が崩れ落ちてきて轟音と土埃が舞う。
「リューちゃん……!」
「いいから頭下げてろ!」
リュードは真上に手を伸ばし、魔力を集める。
下から上に、巨大な雷の柱が打ち上がって崩れて落ちてくる岩を飲み込んでいく。
崩落の音とリュードの魔法の轟音と光で一切の状況が見えなくなる。
「ぐぅ……」
「リュード、大丈夫!?」
リュードが魔法を使って消滅させたのでリュードの周り円形に岩のない空間が出来上がる。
どうにか岩に潰されることなく済んだ。
リュードの体がぐらりと揺れてラストが抱きかかえるように支える。
命の危機は脱したが貫かれた肩の傷は重傷と言ってよく、出血は激しかった。
無茶して動き、魔力もゴッソリと使ったために一瞬意識が遠のいた。
「待ってて!
えっと、えっと……あった!
はい、これ!」
ルフォンが慌てて荷物を漁る。
その中からポーションの入ったビンを取り出してリュードに渡す。
「悪いな……プハッ。
何が起きたんだ?」
「分かんない……いきなり天井が崩れて……」
ポーションが早速効き始めて肩の痛みがほんの少しだけ楽になる。
魔人化を維持できなくて真人族の姿に戻ったリュードは顔色が悪い。
崩れた天井の上は外で日の光が差し込んできてリュードは光に目を細めた。
「よく、見つけられたな」
「どこに居たって、どんなところだって絶対に見つけるよ」
「私だってリュードを諦めるつもりなんてないからね!」
「ふふっ、ありがとう」
「とりあえず少し休んで」
ラストに支えられて地面に腰を下ろすリュード。
とりあえずデルゼウズの姿は見えず、状況も分からないがリュードも立っているのが辛かった。
「なんと!
人がいたのか!」
「だから言ったではありませんか!
もっと慎重になるべきだと……」
「そうは言っても入り口を探している暇などなかったではないか!」
そして天井の崩落と共に上から降りてきた2人の人がいた。
盾とメイスを持ったガタイのいい男性と白い鎧に身を包んだ精悍な顔つきをした女性が言い争っている。
「あれは……今はあなたと言い争っている時間はありません!」
ハッとした顔をした女性の視線の先にはリュードがいた。
肩から血を流して、非常に顔色が悪い。
キッと男性の方を睨みつけて女性はリュードの方に駆け寄ってきた。
「遅くなってしまい、申し訳ありません」
「……アンタは?」
「私、主神ケーフィス様にお仕えしております聖騎士のブレアと申します。
よろしければケガの治療をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、治してくれるならお願いするよ」
聖騎士のブレアと名乗る女性はリュードの肩に手をかざす。
淡い光に肩が包まれて、少しむず痒いような感覚がある。
時には宗教の違いやその宗教の教えのために他宗教の治療を拒むことがある。
なので相手に意識がないやよほど緊急でなければ一言治療してよいか聞くのはマナーである。
今ブレアがやっているのは神聖力による治療。
血が止まり、肩の肉が再生し始めて、リュードの呼吸が安定してくる。
ポーションの効果もあって治療中の肩の痛みはほとんどないけれど穴が空いた肩は簡単には治らない。
「どうして聖職者がここに?」
マヤノブッカは荒廃した都市。
教会や神殿と言った宗教関係は撤退していてほとんどいない。
まして聖騎士なんてものがこんなところにいるはずもない。
「黒いツノの若い男性……」
1人が聖騎士ということはもう1人も聖職者の関係であるのだろう。
男性の方が治療を受けるリュードをじっと見る。
「私たちがここにいるのは……ダリルさん、後ろです!」
「ムッ!」
ダリルと呼ばれた男性が振り向き様に盾を振った。
黒い魔力の球が飛んできていて、盾でそれを殴り飛ばした。
後ろにはデルゼウズがそこに立っていた。
リュードに殴り飛ばされて完全に崩壊に巻き込まれていたはずなのに全くの無傷であった。
「その不吉な魔力……貴様が悪魔だな」
「いかにも。
そういう貴様は神の犬か」
流石に分が悪すぎるとデルゼウズは思った。
何者かは分からないが強い神聖力を持った真人族が2人。
結局リュードにトドメを刺すことも出来ず、少し見ない間に治療までされてしまっている。
何もかも上手くいかずにイライラする。
ガマガエルのくだらない欲望に付き合わされてこんなことになるなんて思いもしなかった。
せめて最初から本気でやっておけばよかった。
リュードを倒して血と肉を吸収でもできればもっと力をつけられたのに。
けれどそれにしてもおかしい。
聖職者が来るのが早すぎるとデルゼウズは思った。
事前に放たれた低級の悪魔も狩りとられつつあることも感じている。
しかしそんなことを考えている時間も、大悪魔たる自分が焦ったり遅れをとったような態度を見せるわけにはいかない。
悪魔には悪魔のプライドがある。
「悪いが時間がないんだ」
聖職者は愚かである。
そうなることなど絶対にあり得ないのに悪魔相手にすら改心を一度促してみせる連中である。
無駄に終わる説得なぞする意味もないのに毎回毎回神の懐の深さを説いてくる。
面白いのは少し聞いてやるフリをするとすぐに調子に乗ってきてバカのように大きな隙を見せるのだ。
その間に攻撃を加えてやると1人ぐらいは簡単に倒せる。
どうせこいつらもくだらない説教を始める。
そう思っていた。
攻撃や回復、どう逃げるかはその時に考えようと目論んでいたのにダリルは説教くさい言葉を吐き出す前にメイスを振り上げてデルゼウズに接近した。
ためらいなく振り下ろされたメイス。
デルゼウズは驚きながら間一髪のところでメイスをかわし、地面に当たった。
土埃が舞い、地面が軽く陥没して一切の手加減がなかったことが伝わってくる。
体に当たっていたらと考えるとゾクリとする。
「その人の体は悪魔に取り憑かれているだけなんです!
殺さないでください!」
リュードがダリルに叫ぶ。
デルゼウズは本体ではなくトーイの体を借りてここにいるにすぎない。
「な、なんだと。
それはやっか……」
「よそ見とは余裕だな!」
うっかり全力で殺しにかかっていた。
リュードの話を聞いて動揺を見せたダリルの頭にデルゼウズの蹴りが入る。
「卑怯だな」
リュードですら重いと感じていたデルゼウズの蹴りをダリルはぶっ飛ぶこともなく首の力で受け止めていた。
「俺はもう大丈夫なのであちらをお願いできますか」
肩の傷もあらかた治った。
トーイの体からデルゼウズを追い出す方法をリュードは持ち得ていないが聖職者ならと思う。
「どうかトーイを助けてください!」
ああなっていたのはリュードだったかもしれない。
トーイが勇気を振り絞って助けてくれたおかげでリュードはデルゼウズに体を乗っ取られずに済んだ。
「分かりました。
私たちにお任せください」
ダリルとデルゼウズは激しい戦いを繰り広げている。
リュードと戦っている時と同様に魔法と剣を駆使して戦うデルゼウズにダリルは苦戦している。
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