孤独、ではない3

 しかしいざトーイと再び会ってみるとウロダもトーイいうのが同名の別人のことを言っているのではないかと疑いを持った。

 ウロダの持つトーイの印象は虫も殺せなさそうな気弱な男であった。


 あんな魔法を使える感じもなければリュードと対等に渡り合うことなんてとても出来ないと思っていた。

 顔だけはウロダの記憶にあるトーイなのに中身が全然違っている。


「リューちゃん!」


 リュードは咄嗟に後ろに飛んで大きなダメージはなかった。

 ルフォンはマジックボックスの袋の中からリュードの黒い剣を取り出して両手で思いっきり投げた。


「ルフォン、ナイス!」


 お前にも会いたかったぜとリュードは手を伸ばして剣を受け取る。


「クッ!」


 デルゼウズは飛んでいった剣に手を向けた。

 黒い魔力が手から伸びて剣に絡みつくと剣をそのまま手まで引き寄せる。


 リュードとデルゼウズの剣がぶつかり、甲高い音が鳴る。


「食らえ!」


 リュードがそのまま派手に雷属性の魔法を発動させる。

 電撃がリュードの剣を伝い、デルゼウズの剣に伝わり、全身が震える。


「ト、トーイ!」


 怯んだデルゼウズをリュードは思い切り殴りつける。


「これどーいう状況なのさ!?」


「リューちゃん探したよ!」


「ははっ、2人とも久しぶりだな!


 だけど今はあまり話してる時間もないんだ。


 トーイという奴に悪魔が取り憑いてしまっていて、どうにかしなきゃいけないんだけどアイツ強いんだ」


 デルゼウズが転がっていき、その隙にルフォンとラストがリュードのそばに寄る。

 感動の再会といきたいところであるがそうもいかない。


 トーイを取り戻したいのでデルゼウズを殺さないように制圧したい。

 けれど単純に制圧するにはデルゼウズが強すぎる。


 無傷での制圧はとっくに諦めたが多少のケガは覚悟で止めるつもりである。

 ケガをさせない制約を課して戦うのは厳しいがルフォンとラストもいればデルゼウズの制圧は可能だろうと思った。


「2人とも手伝ってくれるか?」


「分かった」


「オッケー」


 事情は飲み込みきれていないが悠長に説明していられる状況でもないことは分かる。

 まずはデルゼウズを倒してから再会を喜ぶ。


「……厄介だな」


 1人見れば仲間の程度も知れるというもの。

 たまに場違いな実力で組んでいるものもいるが普通は実力の近いものが集まっていることがほとんどである。


 中でもリュードは高い実力を持っているだろうがルフォンとラストもただものではないことは見ていて分かる。


 デルゼウズが立ち上がるまでに話終えた3人は動き出した。

 リュードが正面を切って接近して、ラストが後ろから弓矢で狙い、ルフォンは機動力を生かして回り込む。


 デルゼウズも内心焦っていた。

 遊びすぎたと反省する。


 さっさとリュードを殺していれば惜しさを感じることもこんな状況になることもなかった。

 そもそも、半ば遊びのつもりで真人族の醜い欲望を持つ愚かな女をそそのかして供物を捧げさせて召喚させたはいいものの、供物の質は悪く実体での召喚まで至らなかった。


 さらに奪った体は最低品質。

 デルゼウズの状況も最悪と言ってよかった。


 それでも戦えているのは高い実力を持っているデルゼウズだからであった。


 遊びが故に負けて帰ってもいいのだが、召喚されたのにこんなに短い時間で人目にも触れず何も成せずにおめおめと帰らされてはプライドに傷がつく。

 これが他の悪魔にバレて笑いものにでもなってしまった日には怒りで狂ってしまうかもしれない。


 デルゼウズはシャドードールを10体出現させる。

 やはり1番厄介な相手はリュードなのでリュードを片付ける必要があるとデルゼウズは考えた。


 ルフォンとラストに5体ずつシャドードールを向かわせて、デルゼウズ自身がリュードを相手取る。

 抜けた肩やリュードに殴られた顔は魔力で無理矢理治して、貧弱な体も魔力で無理矢理強化する。


「ダークニードル」


 剣を振り下ろしながら魔法を使う。

 リュードの後ろから黒い魔力で作られた針がリュードを串刺しにしようと飛び出してくる。


 前からは剣が、後ろから魔法が。

 両方を同時に対処はできない。


 リュードは前に出る。

 剣の使い方を忘れたのかというぐらいに強く叩きつけるように剣を振るったリュード。


 荒々しいリュードの攻めにデルゼウズが後退してなんとか魔法から逃れた。


 魔法を使いながら同時に体を動かして攻撃してくるデルゼウズ。

 実はとんでもないことをやっている。


 魔法を使いながら剣でも攻撃することは全く異なることを同時にやっているのと同じで、かなり高等なことであった。

 リュードでも連続した行為としては魔法を扱えはするが剣を振りながら魔法を使うことは負担がかかるのでそうそうできることでない。


 単に剣を振り、弱い魔法を使うだけなら出来るけれど戦いとなるとレベルは違う。

 デルゼウズは左手で魔法を使いながら、右手で剣を振る。


 2人を同時に相手しているようで、剣を手にして出来た余裕が吹き飛んでしまった。

 しかもデルゼウズはルフォンとラストが戦っているシャドードールまで維持しながら戦っている。


 若干魔法の威力は落ちているけれどそれでも当たれば大きなダメージになる威力はある。

 リュードにも真似できないような魔法を扱う卓越した技術と能力の高さを見せつけられている。


 黒い魔力の槍や球、針がリュードを襲い、同時にデルゼウズは激しく剣で切りかかる。


 技量では格上の相手。

 不利な戦いにリュードはあくまでも冷静に戦った。


 魔法が体をかすめ、剣を首筋ギリギリで受け止める。

 ドンドンとリュードの動きが研ぎ澄まされていき、デルゼウズの動きに追いついていく。


「くっ……なんだ…………」


 ムチャクチャな戦い。

 デルゼウズが一方的に攻めて、リュードがなんとかそれを防ぎ続けていた。


 終わりの見えない戦い。

 先に限界を迎えたのはデルゼウズだった。


 いや、デルゼウズというよりもトーイの体が限界を迎えたのだ。

 無理矢理魔力で強化して、魔法と剣の同時使用という負担のかかる戦いを続けたトーイの体は悲鳴を上げていた。


 突然体が動かなくなり、頭がぼんやりとしてぐらつくデルゼウズ。


「ダメー!」


 回避と防御に集中していたリュードはデルゼウズの異変を見逃さず、すかさず反撃に出ようとした。

 激しい戦闘の中、あまりの相手にトーイの体を傷つけていけないとか制圧するとかすっかり頭から抜け落ちていた。


 ミュリウォの悲鳴のような声に我にかえったリュードは剣を止めた。


「ふふっ、そこが甘いのだ」


 今度はリュードが隙を作ることになってしまった。

 できたのはほんの僅かに身をよじること。


「リューちゃん!」


 デルゼウズが手を突き出して黒い魔力の槍を打ち出した。

 かわしきることができずにリュードの肩を槍が貫いた。


 ルフォンが悲鳴を上げる。

 リュードのところに行きたいがシャドードールは防御に徹するように動いていて、粘り強く戦うためになかなか倒しきれない。


「手間をかけさせおって……」


 倒れたリュードにトドメを刺そうと迫るデルゼウズを止められる人はいない。


「あ……あ……」


 なんてことをしてしまったのだとミュリウォの目から涙が溢れ出す。


「リューちゃん!」


「リュード!」


「この私をここまで追い詰めたことは評価してあげましょう。


 しかしあなたの敗因はその反吐が出るような、甘さだ」


「クソッ……」


「この期に及んでそんな目ができるあなたを殺すのは惜しいですがもはや遊んでもいられない。


 終わりだ」


 デルゼウズがゆっくりと剣を持ち上げ、そして振り下ろそうとした。

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