孤独、ではない2

 剣を囮に使われている。

 対抗できる武器がないから打撃よりも剣を警戒していることを見抜かれている。


 かわさなきゃ普通に切られるのだろうがデルゼウズはかわすことを織り込んで攻撃を繰り出している。

 本気で切るというよりもややずらした感じでかわす方向を思い通りにコントロールされていた。


 どちらに回避するのか分かられているので先回りした魔法なり蹴りやパンチなりがリュードを襲う。


 上手いし速い。

 やられながらもリュードは感心した。


 狡猾ながら相手を巧みに操り、自分の思い通りに動かす戦い方。

 危機的状況なのに戦いを面白いと思ってしまう魔人的な側面がチラリと顔を覗かせる。


「あまり調子に乗るなよ!」


 それでも殴られながらも冷静にデルゼウズのやり方を観察していたリュード。

 攻撃のリズムやずらし方が分かってきて段々と攻撃を食らわなくなってきた。


 そのことに気づいたデルゼウズは単調になっていた攻撃パターンを変えてさらにたたみかけた。


「うむ、かなり頑丈だな」


 トーイの拳が砕けるほどの力で殴ったり蹴ったりしているのにリュードはまだピンピンしている。

 頑丈で打たれ強い。


 目の闘志はまだ消えていないし、冷静に戦い方をみている。


 殺すのがもったいないとデルゼウズは思った。

 見た目も悪くなく、性格も美しい。


 あのガマガエルのような真人族とは大違いで惜しく感じてしまう。

 

「グゥッ!」


 首をかすめる剣をよけ、脇腹をかすめる魔法をかわし、胸を蹴られて後ろに押し倒される。

 変に抵抗せず逆に後ろに転がって、跳躍して距離を取る。


「……どうだ、貴様、私の部下になるつもりはないか?」


 なかなかに楽しい戦いだがデルゼウズもあまり遊んでいられるほどの時間もない。

 頑丈で致命的になりそうな攻撃を回避しているリュードを倒すのには時間がかかる。


 このまま時間をかけてリュードの体力を削っていっても倒せるがリュードも時間も惜しい。


 リュードの体を手に入れることは失敗したがリュードを手に入れるチャンスはまだあった。

 ほんの気まぐれにだが戦いの手を止めてデルゼウズは提案をぶつけた。


「なんだと?」


「私のものになるつもりはないかと聞いているんだ。


 私の部下になればお前の望むものを与えよう。


 力でも、金でも、領地でも、女でもだ」


 悪魔にも有能なものはいるが有能なものは部下にするには我が強すぎる。

 自分が頂点になる野心を持ち、いつまでも下にいることを良しとしない。


 その点他の種族なら望むものを与えておけば喜んで下に付く。


「普段は別に好きにしていてくれても構わない。


 必要な時には私の命に従ってもらうがそれだけだ。


 国の1つや2つも望むならくれてやってもいい」


 まるで世界を半分くれてやるみたいな提案。


「見返りは命令に従うだけでいいのか?」


 聞けば聞くほど破格の条件。

 力も国もくれるというなんて、そんなことを提案してくれる者が他にいるだろうか。


 ただし美味しい話には裏があると思う。

 悪魔のする提案に善意なんてあるはずもない。


「ふふふっ、愚かな者ならそんなことを気にせず飛びついてくるものなのにな。


 この大会に関わっていた者でも軽く力をやると言ったら喜んで手を血に染めていた。

 ただ少し体を変えてやっただけで大喜びあった……」


 それがルフォンたちが戦ったものであるとはリュードは知らない。


「ちゃんと教えてやろう。


 見返りは魂の服従だ。

 私に絶対の忠誠を誓い、裏切ることは許さず、死ねと言われたら死ぬ。


 一度交わしたら逆らえない契約ではあるがお前の能力なら必要な時以外は好きにするといい」


「…………少し考えさせてくれ」


「よかろう。


 上に立つものとして少しの忍耐力を見せることも時には必要だ」


 顎に手を当てて分かりやすくポーズをとってどこかを見つめて考える。

 わざとらしい考え方だとデルゼウズは思うけれど各々の癖など様々ある。


 それだけ真剣に考えているのだと好意的に考える。


「……何者だ!」


 わずかに感じた魔力。

 デルゼウズは振り返りざまに剣を振り上げた。


 振り向くとデルゼウズ目がけて飛んできている矢。

 剣で矢を叩き切って防ごうとしたのだがそれが出来る能力の高さが仇となった。


 矢尻から真っ二つに矢を切り裂こうとした。

 剣が矢尻を切り裂いて2つに切れ始めた瞬間矢が粉々になるほどの威力で矢が爆発した。


 予想もしなかった爆発に剣が飛んでいく。

 肩が外れかけて多く痛みが走り、デルゼウズが顔を歪めた。


 爆発の向こう、矢を放ったのはラストであった。


「あの方向は……」


 どこかを見つめていたリュード。

 適当に虚空を見つめているのかと思っていたがリュードの視線の方向とラストがいる方向は一緒であった。


 ぼんやりとどこかを見つめるのがリュードの考える癖なのだと思い込んで確認もしなかった。

 と、いうことは。


 再びリュードの方に振り返るデルゼウズ。

 目の前には拳が迫っていた。


 まともに顔に拳がめり込んで、デルゼウズが後ろに倒れそうになる。

 しかしリュードはそのままデルゼウズの首を掴んで体を当てて壁までタックルする。


「提案は断らせてもらう。


 俺の魂は俺のものだ。


 そしてその体はお前のものじゃない!」


「貴様、俺を騙したのか!」


 デルゼウズの提案を受けて悩むようなそぶりを見せたリュード。

 実はその時ちょうど状況を覗き込むルフォンやラストと目があったのであった。


 体力の回復と2人の行動を待つためにあえて話に乗るふりをした。

 何がデルゼウズにとって不自然に見えるのか判断に迷ったけれど目があって動揺してしまったリュードは咄嗟に考えるふりをしたのであった。


 久々に会えた、無事だった。

 リュードらしくもなく2人の方をそのまんま見つめてしまったが結果オーライでデルゼウズは疑わなかった。


 少し前から状況を見ていたルフォンとラスト。

 リュードが戦っているのでデルゼウズが何者かは確認できていないが敵だと認識して、機会をうかがっていた。


 多くの兵士はデルゼウズに倒され、残った兵士や奴隷は逃げてしまっていた。

 状況的にはリュードとデルゼウズが2人きりで周りに敵はいなかったのでデルゼウズもさほど警戒していなかった。


 リュードと目があってしまって2人も行動に移すことを決めた。

 まだラストとは旅してきた歴史は短いがリュードとラストの考えは一致した。


 ラストは矢を引き絞り、魔力を込めた矢を放ったのであった。

 よくその魔力を感知出来たものだが、軸を切るか避けるべきであった。


「ト、トーイ!?」


 当然2人の後ろにはミュリウォとウロダもいた。

 状況を除いてミュリウォが驚きに目を見開いた。


 リュードがデルゼウズを壁に押さえつけている姿が見えた。

 押さえつけられているデルゼウズの顔はトーイの顔であった。


 当然トーイの体なのだからトーイの顔であるのは当然である。


「ふふっ、悪魔を騙すとはやるな。


 しかし、甘いな」


 デルゼウズは手のひらをリュードに向けた。

 リュードとデルゼウズの間に黒い魔力の球が生み出されて爆発する。


「リューちゃん!」


「リュード!」


「ど、どういうことなの……」


 なぜトーイがルフォンとラストが探していたリュードという人と戦っているのか。

 魔法を使えなかったはずのトーイがどうやって魔法を使ってみせたのか。


 自爆覚悟で魔法を使うほどの気概だってトーイにはない。

 訳がわからず戦いに参加するルフォンとラストの背中をただ見送る。


「あれが……本当にあんたの婚約者か?」


 移動をしながら軽く話を聞いた。

 トーイと名前を聞いた時にはウロダも驚いた。


 まさか探している側と探される側がそれぞれ一緒にいるなんて奇跡のような話である。

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