孤独、ではない1
「自分でこれを外すとはやるではないか」
トントンと指先で自分の首輪を叩いてみせるデルゼウズ。
魔力を封じるはずの首輪。
それをしたままなのにデルゼウズはなぜか魔力を扱えている。
実はこの首輪は悪魔が特別に用意したものであった。
かけられている魔法は悪魔が用意したもの。
ゆえにデルゼウズは首輪に影響されずに魔力を使うことができていたのであった。
「その体……返してもらうぞ」
「ハハハッ、一度入ってしまえばもう元には戻らん。
それに大人しくやられるつもりもない」
「方法がないかどうかは、やってみてから決める……
まずはトーイには悪いがあんたを倒して拘束させてもらうぞ!」
リュードが手を伸ばして雷を放つ。
「やるな!」
デルゼウズもそれに対抗して魔法を放った。
黒色の黒い稲妻。
リュードの雷とデルゼウズの黒い雷がぶつかり相殺される。
魔法を放った直後に走り出していたリュードは雷の影響が残り、ほんのりとビリつく空気を切り裂くように一直線にデルゼウズと距離を詰めた。
リュードが拳をデルゼウズに突き出す。
殺してしまわないように爪は使わないがトーイだったなら致命傷になってしまいそうな勢いで殴りかかる。
「グアっ……チッ!」
速いがこれぐらいなら避けられる。
そのつもりで回避しようとしたデルゼウズであったがリュードの攻撃を避けきれずに腹に一発もらってしまう。
続いて顔にも一発食らってデルゼウズは悟った。
全てこの体が悪いと。
分かっていても避けきれない。
デルゼウズが持つ反射神経に体がついてこれていない。
目は悪くないので見えているがただ見えているだけである。
けれどもあまり無理に体を動かすと対応しきれない速さに負担がかかってしまう。
それはそれで脆い体では長く持たなくなる。
ただ少し健康体なだけで全く鍛えられていない軟弱で使えない体にデルゼウズは苛立ち始めていた。
「舐めるなよ!」
どうにかリュードの拳をかわしてデルゼウズが指先をクイっと上に向ける。
それだけで腕ほどの太さがある黒い針が地面から突き出してリュードを串刺しにしようとする。
相手がトーイの体なので魔法を使うなんてこと頭から抜け落ちていた。
体をねじって回避しようとするけれど黒い針の1本がリュードの脇腹の鱗を砕いて血をにじませた。
「シャドードール」
まだトーイの体に馴染んでいないこともあり、身体能力で勝負をつけることは不利だと感じたデルゼウズは魔法を使う。
デルゼウズの影が起き上がり、分裂していく。
トーイの体を大雑把に縁取ったような影の人形が5体出来上がった。
悪魔が得意なのは魔法。
魔法でリュードを殺してしまえばいい。
ただそれでは接近戦で負けた気にさせられるので魔法を使いながら接近戦のように勝負を決めようと自分の影を作り出した。
5体の影のデルゼウズが一斉にリュードに襲いかかる。
数的不利。
5対1など圧倒的な差があるが本体でないならリュードだって遠慮はしない。
5体もいるなら回避しても間に合わないし、そうしても防戦一方になってしまうのでただ消耗するだけになる。
村にいた時に大量のオヤジに囲まれて鍛錬させられたリュードは素手で複数を開いて取る時に引いてはむしろ不利になってしまうことを知っていた。
反撃すること、前に出ること、圧力をかけることが大事なのである。
流石にデルゼウズの影は弱くない。
しかしリュードは殴られながらも前に出る。
鋭い爪を使って影を切り裂いて数を減らしていく。
魔法で作られた影の人形の攻撃は意外と重たいがリュードは一切怯むことがない。
「トーイを返せ!」
5体のシャドードールを倒してリュードは再びデルゼウズに近づく。
「せっかく呼び出されたのだ、もう少し楽しんでも良かろう?」
「それなら本体で来いよ!」
「そうしたくてもできない事情があるのだ。
恨むなら愚かにも永遠の美しさなどを追い求めた阿呆に言うのだな!」
接近戦を嫌がるデルゼウズが魔法を放ちながらリュードと距離を取ろうとする。
黒い魔力の球が放たれてリュードはそれをかわしながら距離を詰めていく。
リュードの方が速くて、だんだんと距離が近づく。
「厄介だな……」
「どこに行くつもりだ!」
もう少しで届く。
そこまで近づいた瞬間、デルゼウズが背中を向けて走り出した。
「ぐわっ!」
「な、なぜこちらに……うわっ!」
まさか逃げるのかと思ったがデルゼウズが向かったのは兵士たちの方だった。
ガマガエルの従えていた兵士たちは状況もわからず、雇い主であるガマガエルが氷漬けにされていて次への指示もなくリュードとデルゼウズの戦いを遠巻きに見ていた。
兵士たちの中に入ったデルゼウズは魔法を使って兵士を殺し始めた。
突如として始まった無差別殺人にリュードも困惑する。
兵士を盾にするでもなく攻撃し出すとは目的はなんなのか。
「やめろ!」
とにかくあんなことはやめさせなければいけない。
散り散りに逃げ出す兵士が邪魔でデルゼウズになかなか近づけない。
「血と肉を捧げる。
我が求めに応じ、姿を現せ」
デルゼウズが呼び出された時のように地面に散らばった肢体や血が浮き上がる。
1つに集まり、凝縮し、細長い形に伸びていく。
そしてそれは一本の剣となった。
赤黒い剣身をしたやや大振りの剣。
「さて、これならどうかな?」
今度は剣を手にしたデルゼウズからリュードに襲いかかった。
「くそっ!」
悪魔が呼び出した剣。
どう考えても、そしてどう見てもなまくらではありえない。
鱗は鱗。
固くとも防具ではなく、魔力を込められた武器を相手取るにはやや防御力は足りない。
間一髪のところで剣をかわすがデルゼウズもそれで攻撃の手を止めるはずがない。
剣を返して素早く次々と切りかかる。
剣が胸をかすめて軽く切れる。
やはり鱗では剣を防げない。
素手に対して剣が相手では部が悪い。
「ハハッ、忘れるなよ!」
デルゼウズはあえてかわしやすく剣を振り下ろした。
リュードはそれに気づかずデルゼウズの予想通りの方向に避けてしまった。
リュードの避ける方向に手のひらを向けたデルゼウズは黒い魔力の球を打ち出した。
目の前に飛んできた黒い魔力の球は爆発して、リュードが大きく後ろに吹き飛ぶ。
幸い見た目の派手さに比べて大きなダメージはない。
けれど相手のレベルは高く、武器もない。
しかもその上リュードはトーイの体を殺してはいけないという枷まで負っている。
素手で制圧するのにも限度があった。
これなら死んだ兵士の武器を奪えばよかったと思ったがもう吹き飛ばされて転がる剣からは離れてしまった。
武器を取りに行こうと思ったらデルゼウズを突破しなければならない。
武器を拾う一瞬でさえも隙として襲いかかってきそうなデルゼウズ。
武器を拾おうという意図がバレればまずそちらに行かせてもらえないだろうし、気付くのが遅すぎたと内心で舌打ちする。
「知恵を絞る音が聞こえてきそうだな!」
「……ライトニングアロー!」
黒い魔力の球がデルゼウズの周りに浮かび、細長く形を変える。
それを見てリュードも雷の矢を作り、対抗しようとする。
わずかにリュードが遅れて魔法を放つ。
魔法の矢がぶつかり、激しく雷の音を立てる。
「クッ!」
デルゼウズの矢の方が数も多く威力が高かった。
全てを相殺しきれなくて、黒い雷の矢がリュードを襲う。
地面を転がって矢をかわすリュード。
地面に当たって矢が爆ぜる音が聞こえてくる。
「はっ!」
立て直す暇もない。
矢を避けて転がったリュードの視界に剣が迫っていた。
なんとかギリギリのところで剣をかわしたがさらに続くデルゼウズの膝蹴りまでリュードはかわすことができなかった。
「カハッ……」
今度はまた剣。
頬をかすめるが直撃は避ける。
「ほら!」
ただ避けただけで、続かない。
顔を殴られてリュードは後ろに2転3転と転がる。
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