遊びの代償7

 そもそも地上が荒れて地下の奴隷の存在が忘れられたらどうする。

 ウロダはルフォンたちに出会って情報を聞けたからまだマシだったが食料も持たないこの状況で飢え死するまで戦わされることになるのか。


 大会はどうなるのだ。

 自由は。


 いや、生きてこのマヤノブッカから出られるのか。


 取り止めもなく考えは浮かんでは消えていく。

 どの考えにも答えが出ないので疑問ばかりが浮かんで、心の余裕が無くなっていく。


「あ、あの!」


「んあ?


 なんだ?」


「ト、トーイという人は知りませんか?


 えっと……特徴はあんまりないんですけど」


「トーイ?


 あの細っこい奴か?」


「し、知ってるんですか?」


 リュードを知っているならトーイはどうか。

 ミュリウォは勇気を出して聞いてみる。


 もちろんトーイも一緒だったのでウロダは知っている。

 リュードを探している人とトーイを探している人が一緒にいる。


 奇妙な縁だと思うが、きっとこれは必然なのだろう。

 だから生き残れなさそうなトーイもなぜなのか生き残っていたに違いない。


 自分の仲間を助けちゃくれなかったカミサマなんて特に

信じちゃいないが何か運命めいたものを感じさせていた。


 映像はイマイチ信用ならなかったけれど実際に知っている人から名前を聞くと確信を持てる。

 

「リュードがいること分かったし、頑張って探そっか」


「そだね」


「トーイもきっと一緒に……」


 地上の様子もよろしくない。

 休んでいる間にもリュードは行動を続けているだろうし地上の様子も変化しているかもしれない。


 まずはリュードを見つけないことには何も始まらない。

 移動を開始しようと立ち上がる。


「ま、待ってくれ。


 俺も連れて行ってくれないか?」


 まだ疲れているし、考えも1つもまとまっていない。

 けれどここで置いていかれたらダメな気がした。


 慌てて立ち上がってすがるような目を向ける。

 魔力が使えない自分よりも強い2人についていった方が絶対に安全だ。


 いや、魔力があってもウロダよりもルフォンとラストの方が強い。

 リュードの関係者なら悪いようにはしないだろうし、リュードのことを教えてやった小さい恩もある。


「いいよ、行こう」


 リュードの知り合いならとりあえず助けておこう。

 共闘した感じ悪い人でもなさそうなのでついてきたいというなら断ることはしない。


「あっ、ま、待ってくれ!」


 さっさと歩き出したルフォンたち。

 一瞬他の奴隷たちから石でも回収をと思ったけれど地上がそんなことになっているのに大会なんて続けている暇はないだろう。


 石を集めても無意味ならルフォンについていくのが優先だと後ろ髪引かれる思いはありながらそこを後にした。


「しっかしよう……悪魔って」


 他の心配はたくさんあるけれど身の安全だけを考えるなら地下にいた方が安全なのではないか、なんてことも思う。

 聞いた話なら空飛ぶ低級悪魔が空を飛び交っている。


 地下に降りてくるなんてことは考えにくい。


 けれど地下にいても蓄えがない。

 結局食料もなくて死んでしまうならさして変わった結末を迎えるものじゃない。


 当てもなくルフォンたちは地下を歩いていく。

 他の奴隷に会うこともないけれど何かの変化もない。


 同じような道が続くので違うところを歩いているかすら怪しく思えてきてしまう。


「ようこそ、いらっしゃいませ」


 広く、四角く綺麗に切り取られた部屋。

 仮面をつけた係員の男性がうやうやしく礼をしてルフォンたちを受け入れる。


「こちらは休憩所でございます」


 リュードたちにしたような説明を係員はルフォンたちにする。


 すごく違和感がある。

 突如として現れた休憩所にではなく、この係員の男に対してである。


 さらりと説明をしてみせたのだが、あまりにも、平静である。

 態度がルフォンたちに対しても一切変わりがない。


 ずっと地下にいるなら地上の騒ぎについて知らなくても不思議ではない。

 自分の仕事をこなしているだけに思える。


 しかしながらルフォンたちはどう見ても奴隷ではない。

 首輪もなく、服だって着ているし、好きに武器も所持している。


 隠しようもなく部外者である。

 この場にいることがふさわしくない、いてはいけない相手。


 逆に地上で騒ぎが起きていることを知っているならどうだろう。

 地下に逃げ込んできてもおかしくはない。


 ルフォンたちが異常であることを知らない人ならルフォンたちを見て何も思わないのは別に不思議でない。


 ただそうすると仕事をしていることがおかしくなる。


 何にしてもおかしいのだ。


「……あなた何者ですか?」


「…………何者とは何でしょうか?」


「私たちが誰だか知ってる?」


「いいえ?


 知りませんが」


「知らない人が勝手にここに入ってきて、よく冷静でいられるね」


「私は私の仕事をしているだけでございます」


 あくまでも冷静に対応する。


「今地上ではどうなってるか知ってるの?」


「……ふふっ、宴が始まっております」


「…………やっぱりあなた何者?」


「すでに止まらない宴が始まっている。


 小娘が入り込んだところで何を動揺する必要があるというのだ」


 男の白目が黒く染まる。

 体がメキメキと音を立てて膨張を始めて大きくなっていく。


 肌も赤黒くなり、人の形から外れて変わっていく。


 係員の男はビクエを丸くして、ほんの少しだけ人の形を残したような歪な化け物になってしまった。


「あのお方のイケニエにお前たちもなるといい!」


「何だあの化け物……あれが悪魔なのか!?」


「はははっ、俺が悪魔……そうだ、俺をバカにしたヤツ全てを殺す悪魔だ!」


 悪魔の係員がルフォンたちに襲いかかる。

 丸くて歪な体型をしているのに思っていたよりも速い。


「ミュリウォ、下がって!」


 ルフォンがナイフを抜いて、悪魔の係員の振り下ろされた腕とすれ違う。


「やるな!」


 悪魔の係員の腕をかわしながらルフォンはナイフで何回も悪魔の係員を切り付けていた。

 ブシュリと腕からドス黒い血を噴き出しても悪魔の係員は怯んだ様子もなく大きく笑う。


「ん?」


 悪魔の係員の肩に矢が刺さる。

 ラストが放ったもの。


 魔力が爆発して悪魔の係員の体が大きく揺れた。


「どぉーだ!」


 肩が大きくえぐれた様は見ていて痛々しい。


「ふっふっふっ、痛いですね」


 普通なら戦闘続行は不可能なケガであるが悪魔の係員は不敵に笑う。


「な、なんだ!


 あんなんありかよ……」


 ウロダが驚愕するのも無理はない。

 えぐれた肩に肉が盛り上がってきて、あっという間に肩が治ってしまった。


「素晴らしい……これが、悪魔の力」


 腕を回して肩の具合を確かめる。

 尋常ではないパワーと湧き出てきて止まらないパワー。


 全能感が男の意識を支配して、そこはかとない自信がどんどんと意識を狂わせる。


「負ける気が……」


 ボーッと自分の体を確かめている悪魔の係員は隙だらけである。

 何が起きているのか分からないがこのまま放っておくのはマズイと思った。


 ルフォンが飛び上がって悪魔の係員の頭にナイフを突き立てる。

 力いっぱい振り下ろされたナイフは根元まで深く突き刺さって、ルフォンは後ろに回転しながらナイフを引き抜いた。


 目がグルリと上を向いて、悪魔の係員がゆっくりと後ろに倒れていく。


 重たい音を立てて地面に倒れた悪魔の係員は動かない。


「やったね!


 悪魔って言っても大したこと……」


「ルフォンさん!」


 ミュリウォの声が聞こえて、ルフォンは身をよじりながら前方に跳躍した。

 風を切る音が聞こえてルフォンの脇腹スレスレを悪魔の係員の腕が通り過ぎて行った。


 直撃はしなかったが服が破けて掠めた脇腹に血が滲む。

 頭を刺されて倒れたはずの悪魔の係員が起き上がっていた。


 ミュリウォが叫ばなかったら危ないところであった。

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