遊びの代償6

「おじさん、手助けするから魔物の気をひいて!」


「お、おじ……チッ、分かった!」


 ウロダは突然現れたルフォンたちに困惑していた。

 よく見ると首輪もしておらず奴隷には見えない。


 おじさんなんて言われて動揺するが首輪をしていないということは魔力を扱えるということであり、魔物を倒せる希望が見える。

 得体の知れない乱入者に迷ったがこの機会を逃してはいけない。


 おじさんと言われたことは納得していないが文句は飲み込んでウロダはアリに切りかかる。


「こっちだ、この野郎!」


 切れないことは分かっているので気をひくために叩きつけるように何回も剣を振り下ろす。

 切れないので反動が大きく手に伝わり、痺れるような衝撃に剣を手放しそうになる。


 そもそもこんな大型の剣はウロダの得意武器ではない。


 アリの意識が離れているルフォンたちよりも近くにいるウロダの方に向く。


「いいよ、おじさん!」


「おじさんって言うな!」


 そんなこと言われても名前も知らないしとラストは思った。


「クソッ、さっさとしてくれ!


 あんま長いことは持たないぞ!」


 アリの攻撃をなんとか防ぐウロダ。


「分かってる!」


 後ろに回り込むルフォン。

 ナイフの1本に魔力を集中させる。


 ウロダを狙っているアリはルフォンに気づいていない。

 ルフォンは狙いすましたナイフを繰り出した。


 自分が初手で付けた小さい傷。

 寸分違わずそこにナイフを当てた。


 魔力を多く込めずして傷ぐらいはついた。

 魔力をしっかり込めて、傷に当たったナイフはアリの足を切り裂いた。


 耳障りな叫び声を上げるアリ。

 緑色の血を撒き散らし、身を悶えさせ、大きな隙を作る。


「結構硬いみたいだけど、ここはどうかな?」


 当然ラストに対してはほとんど注意は向けられていない。

 おかげで落ち着いてアリを観察し、狙うことができた。


 目一杯に引き絞った手を離す。

 一瞬の隙を狙った一矢。


 相手の動きを読んだラストの矢はアリの関節に向かって飛んでいった。

 曲げられた関節の柔らかいところは矢を弾くこともできず深々と突き刺さった。


 ラストはアリが足を曲げた瞬間を狙ったのだ。

 さらに矢に込められた魔力が爆発する。


 柔らかい体の内側から爆発して抵抗もできずにもう一本足が吹き飛ぶ。

 体の表面が固い魔物というのは中が柔らかかったりする。


 このアリも中が非常に柔らかくて脆く、抵抗力がなかった。

 短い間に足を2本も失ってアリは痛みに暴れ回る。


 これ以上のダメージを嫌がって狙いも定めずにとりあえず攻撃する。


 魔力が使えるということもあるが純粋に2人の実力が高く、強いのだとウロダは思った。


「ラスト、頭狙うよ!」


「りょーかい!」


 ここでそれほど時間を浪費してはいられない。

 一分一秒でも早くリュードを探し出すために手早く終わらせる。


 今度はルフォンがアリの気をひく。

 懐に入り込み危なげなくアリの攻撃をかわしながらアリの体の向きを誘導していく。


 ルフォンはアリをラストの方に向けさせた。


「行くよ!」


 アリの攻撃に合わせて引いたルフォンはすぐさま地面を蹴って飛び上がる。

 両手のナイフに魔力を込めてクロスするようにアリの頭を切りつける。


 弱点である頭の中を守っているのだ、それなりに固く、アリの頭に十字の切れ込みが入っただけに留まる。


「オッケー!」


 ルフォンに続いてラストが矢を放つ。

 狙いはルフォンがつけた十字の傷のど真ん中。


 多くの魔力を込めた矢が飛んでいき、アリの頭に当たる。

 今度の矢は爆発させない。


 ただ魔力で強化した矢。

 貫通力の高まった矢は見事に十字の傷の真ん中に当たり、固い外骨格に突き刺さった頭の中にまで到達した。


 頭の中が燃えるような痛み。

 激しく頭を振るが深々と突き刺さった矢は抜けるはずもない。


 地面に頭を擦り付けるが出ているところが折れるだけで逆に回収すら不可能となる。

 ルフォンたちはアリから距離を取るがアリにはもはやルフォンたちも見えていない。


 壁に頭をぶつけたりひどく叫んだりとアリは暴れていたが段々とフラフラとし始めて、最後にもう一度壁に頭を擦り付けるようにしながら地面に倒れて動かなくなった。


「た、倒した……のか?」


「そうみたいだね」


「た、助かったー!」


 ウロダは体を投げ出して地面に大の字になって寝転ぶ。

 もう剣を振り回していた腕はパンパンになっていて、体力の限界だった。


 安易に誘いに乗って魔物になんか挑まなければよかったと後悔した。

 ルフォンたちが来なければアリの餌になっていたところだった。


 1つ問題なのはこれは魔物の討伐とみなされるのかであるがこの際どうでも良い。

 生きてることが大事だ。


「一体何者だい?」


 物好きだってこんなところに来やしない。


「私たち人を探してるの」


「人?


 こんなところまで探しに来るとはご苦労なこったな……」


「こう、頭に黒いツノがある人を知りませんか?」


「ツノだって?


 そういや、リュードも頭にツノがあったな」


「リュード!」


「リューちゃん」


「なんだなんだ、いきなり大きな声出して……あー、なるほど」


 ルフォンとラストのリアクションに驚いたウロダ。

 しかしすぐにリュードが言っていたことを思い出した。


 一緒に旅している奴がいて、きっと探してくれているって。

 こんな若くて可愛い女の子2人も連れて旅しているとは聞いていなかった。


 少しばかり嫉妬してしまう。


「リューちゃんのこと、知ってるんですか!」


「あっ、う、はい」


 どうせならカッコよく対応したかったのだがルフォンとラストに詰められてウロダは動揺してしまう。

 ウロダは男しかいないパーティーで活動していて、女性との関わりが多くなかった人であった。


 上半身裸の奴隷たちと一緒でしばらく女性らしい女性との会話もなかった。

 情けない話、どんな顔して良いか分からなかった。


 特に2人は美人なので、一瞬たりとも威勢の良さを発揮できずにウロダは小さくなってしまった。


「えと、あいつは俺と一緒の人に買われてきたんです。


 俺もあいつもこのくだらない大会とやらに出させられて、貴族の見せもんにされてます。


 一回戦生き残ったからあいつもどっかにいるんじゃないですかね?」


 正直にリュードのことを話すウロダ。

 助けてもらった恩はあるので答えないわけにもいかない。


 リュードと会った人に会った。

 確実な生存の情報に2人の顔がパッと明るくなる。


 心配して、こんなところにまで助けに来てくれる旅の仲間がいる。

 それも極上の美人。


 羨ましいことこの上ない。

 ウロダは2人のキラキラした笑顔を直視できなくて、視線を落としてため息をついた。


「それにしたってどうやって入ってきたんだ?」


 入ってきた入り口は塞がれてしまっていた。

 逃げ出せはしないかと試したけれど壊せはしなかった。


 ルフォンたちが入ってきたのは大会で使われていない入り口であり、塞いだのは大会関係者じゃなかった。

 だから入ってこられたのだけどウロダからすると分厚い石壁を破壊して入ってきた結構ヤバい女性たちにも見えた。


「まあいいや、でもいいのか?」


「何がですか?」


「あれだよ、あれ」


 ウロダはカメの魔道具を顎でしゃくる。


「ずっとついてくるあれ、きっと監視用か何かだ。


 あんたらのことももうバレちまってるぜ」


「大丈夫だと思うよ。


 だって……」


 ルフォンは地上で起きていることをウロダに簡単に説明する。

 もはや監視なんて無意味だし、混乱している状況じゃしているとも思えない。


「悪魔って……」


 ウロダは頭を抱えた。

 知らない間に地上ではとんでもないことが起きている。


 心配なのは奴隷の雇い主であるウバのことである。

 悪魔に襲われて死んでしまったら首輪が一生外せないかもしれない。

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