遊びの代償5
「奴隷たちが入った入り口は封鎖されていたり、大会の監視下にありますが個人で掘ったものや今回使われていないものもあります。
どうせ逃げないだろうからリュード様のところにいくと良い、なんてことも支部長がおっしゃっていました」
「リューちゃんのところに行ける……」
「地下は広いのでどこにいるかまでは分かりません。
また、この赤い印も直接入り口の状態まで確かめたものではないので使えないところもあるかもしれません」
「うん、自分で確かめてみるよ。
カディナさんにお礼、伝えておいて」
「仕事ですから。
私はこの状況を外に伝えなければいけないので失礼します。
お気をつけてください」
「情報屋さんも気をつけてね」
深々と頭を下げると情報屋の女性は走り去った。
「行こう。
リューちゃんとトーイさんのところに」
最後に見た時にはリュードとトーイは一緒にいた。
多少親しげな様子だったし、非力なトーイをリュードが放っておくはずがない。
今も一緒にいる可能性が高い。
不思議な偶然。
リュードを探すルフォンとラストがトーイを探すミュリウォと出会い、リュードとトーイもまた出会っていた。
2人まとめて見つけ出せるかもしれない。
もう宿に戻ってくることはないかもしれない。
リュードを見つけたらそのままこんなところからは脱出するつもりなので宿に戻って荷物をまとめる。
まずは1番近い印のところに向かった。
ビクエに見つからないように姿勢を低く隠れるようにしながら、かつ出来るだけ素早く移動する。
印の場所にあったのはごく普通の一軒家であった。
本当にこんな町中の一軒家に入り口があるのか疑わしたかった。
けれど個人で掘ったものもあると言っていた。
もしかしたらこんな一軒家でも個人的に掘った地下道があるのかもしれないと思ったがドアが開かない。
まだ人が中にいるようで、この騒ぎで閉じこもっているようだ。
無理に人がいる家に押し入る気はない。
1ヶ所目は諦めて次に進むことにした。
2ヶ所目も民家だった。
しかしこちらは空き家のようで売り家の看板が立てらていた。
空き家といえど勝手に侵入する申し訳なさを感じながら入り口を探してみる。
パッと見た目では分からなかったが歩いていると床板のわずかな音の変化をルフォンのミミは拾った。
カーペットを剥がし、床板にわずかな凹みを見つけた。
そこにナイフを差し込んで床板を外してみると地下への入り口を見つけた。
「あちゃー……」
「これじゃあ無理だね」
床下の入り口は崩壊していた。
簡単に土をどかせる感じではなく、すっかりと埋まってしまっていて入れそうになかった。
「次行こ、次」
3ヶ所目。
地図だと町中なので分かっていたがこれもまた民家。
売り家の看板はないのだけど窓が割れている。
窓枠ごと内側に破壊されていて、中を覗き込むと血の跡があった。
中に人の気配も、悪魔の気配もない。
申し訳ないがこれ以上時間もかけたくないので窓から侵入する。
おそらく窓から覗き込んだらビクエにバレてしまったのだろう。
中の荒れようはひどく、そこら中に血が飛び散っていた。
テーブルの上には人が生活していた跡があって、居た堪れない気分になる。
「ありました!」
ウォークインクローゼットの奥の床に取っ手を見つけた。
しばらく使われていないのか建て付けの悪い扉を引っ張り開けてみると地下への階段が出てきた。
中は崩れていなさそう。
「みんな行くよ?」
「うん」
「はい」
ルフォンがラストとミュリウォを見ると2人はルフォンにうなずき返す。
民家にあった松明にはもう主人がいない。
少し失敬して火をつけて階段を降り始める。
大会で使われていた階段は大会用にわざわざ明かりがあったが、こうした個人のものには明かりなんてついていない。
先頭にルフォンが立って松明で照らして降りていく。
どこまで降りるのか松明の光が届ききらずに分からない。
背中に感じる町の騒ぎが遠くなっていって、階段を降りる音だけが耳に聞こえる。
本当リュードに会えるのか分からない地下。
それと地下に行くということは他の奴隷に遭遇する可能性もある。
おそらく襲われるだろう。
そうした不安も感じながら降りていくと1番下まで問題なく来ることができた。
「……何もありませんね?」
下は小部屋になっているが道はなく、行き止まりであった。
「待って……」
壁に近づいて松明で照らすルフォン。
2人は呼吸すらも惜しんで音を出さないようにルフォンの行動を見守る。
立ち止まったピタリとミミを壁につけた。
壁の向こうに何かの音を感じる。
風が動く音。
壁の向こうに空間がある。
「ちょっと持ってて。
えいっ!」
ルフォンはミュリウォに松明を手渡してナイフを抜く。
壁に向かって柄を叩きつけた。
ズボッとナイフの柄が壁に刺さってミュリウォは驚きに目を見開いた。
そのままルフォンは穴を広げるようにナイフで壁を殴って壊す。
ある程度広げた穴に松明をかざしてみる。
向こう側は道が続いているようで道を薄い土壁で隠していたようだった。
「どりゃあ!」
ナイフでは効率が悪い。
ラストが壁を蹴るとボコリと大きく崩れたのでそのまま壁を蹴り壊した。
またルフォンを先頭にして、ミュリウォ、ラストと続く。
少し進んだところで人が掘ったのではない天然の広い洞窟に出た。
大会で使われる場所の一部であって明かりが付けられていて松明が無くても行動できる。
映像で見ていた場所に似ている。
ルフォンは松明を消して使うかもしれないので荷物に入れておく。
「……ルフォン」
「うん、聞こえるね」
「え、え?
何がですか?」
ミュリウォの耳には聞こえなくてもルフォンとラストには聞こえている。
どこかで誰かが戦っている。
「どーする?」
「もしかしたらリューちゃんかもしれないし、行ってみよう」
「あっ、待ってくださいよ!」
念のために2人は武器を構えて音の聞こえる方に向かう。
警戒はしながらも小走りで洞窟を進んでいく。
「ちくしょう!」
リュードが戦ったような広い部屋。
その中で1人の男性が魔物と戦っていた。
相手はアリのような大きな魔物で、男性は両手持ちの大振りの剣で戦っているが全くアリに通じていない。
魔物と戦っているのは奇しくもリュードと同じユバに買われた奴隷のウロダであった。
手を組んだ奴隷はみんな死んでしまい、1人必死に抵抗するウロダはとても分が悪く、アリに勝てそうな気配はない。
アリの周りにはいくつかの死体があるがアリの体に見える戦いの痕跡は小さい傷だけでダメージはほとんどなさそうだった。
ウロダはアリの攻撃を防ぐのにいっぱいいっぱいで泣きそうな形相で何とか持ち堪えていた。
「どーする?」
「もちろん助けるよ」
リュードならきっとそうする。
「そうだね。
ミュリウォは隠れてて」
「は、はい」
「行くよ!」
ルフォンとラストが影から飛び出す。
ウロダで最後、もう他に敵はいないと思い込んでいるのでアリはウロダしか見ていない。
ルフォンは真っ直ぐにアリに向かうと足の一本に向かってナイフを振った。
しかしルフォンのナイフはわずかにアリの足を傷付けたところで止まる。
思っていたよりも固い。
アリに気づかれてしまったルフォンは刃が通らないのを見て素早くアリから距離を取った。
「はっ!」
下がったルフォンと入れ替わりでラストが矢を放った。
真っ直ぐに飛んでいく矢は振り向いたアリの頭に当たって魔力が爆発した。
少し後ろに弾かれたアリだったが矢が当たったところが小さくへこんだぐらいでダメージは少なそうであった。
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