遊びの代償4

 リュードはお風呂に入ると結構長い。

 たっぷり入るわけはないだろうけどリュードがこの後劇的展開に巻き込まれる可能性も低そうだ。


 このステージについては2、3日やる予定で1日中映像は映しっぱなしでいる。

 いくらなんでも数日ぶっ通しで映像を見続けることは出来ないのでチラホラと一度引き上げる人も出始めた。


 ルフォンたちも応援疲れをしてしまった。

 時間的に食事も取らなきゃいけないし宿に帰ることにした。


 人が多いので出店みたいなものもコロシアムの周辺にあった。

 適当なものを買って宿に帰って食べながらワイワイとリュードの活躍について話していた。


 改めてリュードはすごい人だと思った。

 苦戦した理由も見ていて何となく魔力が使えないと分かったし、もしそうなら余計すごいと思った。


「お休みのところ、失礼します。


 サドゥパガンの者です」


 みんなが顔を見合わせる。


「どうぞ」


「失礼します。


 こちらが割符です」


 例の如く割符を合わせてちゃんと相手が情報屋かどうか確認する。

 情報屋がやっている宿だから大きな心配はないが警戒してし足りないことなどない。


「今お時間大丈夫ですか?」


「はい、何かありましたか?」


「情報が1つ。


 それと支部長からの伝言がございます」


 ここにきての情報。

 否が応でもリュードのことを期待する。


「まずは伝言から……


『マヤノブッカから早く脱出なさってください』とのことでした」


「えっ?」


 予想だにしなかった言葉。

 3人は驚きを隠せなかった。


 マヤノブッカから脱出しろとは穏やかではない伝言である。


「どういうこと?」


「詳しいことはまだ明らかになっていないのですがお客様の調査を進める中で……」


「キャッ!」


 轟音、それと振動。

 爆発がどこかで起きてミュリウォがひどく驚いた。


 不安な予感がして外に出る。

 外に出ると嫌な魔力をルフォンとラストは感じた。


 煙が上がっているのが見えた。


「な、なんです……キャア!」


 近いところで爆発が起きた。

 それだけでなくマヤノブッカの至る所で爆発が起きて煙が上がっている。


「まさか……こんなに早く」


「一体何が起きてるの!」


「これは……うっ!」


 また爆発。


「何が起きてるのか簡単に説明して」


「はい。


 私たちは調査の過程でこの大会に悪魔が関わっている疑いがあることを突き止めました。


 まだ確証はないのですがどうやら悪魔がこの大会を利用して何かをしようとしていると支部長は踏んでいました」


「悪魔って……」


「キャアアア!」


 ミュリウォのものではない悲鳴が聞こえてきた。


「ルフォン、空!」


「あれは……」


 いつの間にか空を何かが飛んでいる。

 それなりの大きさがあるそれはワイバーンのような翼竜に近い姿をしているけれどワイバーンほどの大きさもなく、真っ黒な色をしている。


 どこから湧いて出てきているのか数が増えていっていて、空を旋回しては時折地上に向かって滑降している。

 人に襲いかかっているらしく近くに滑降した直後に悲鳴のようなものが聞こえてきた。


 何かしらの尋常じゃない事態が起きている。


「わわっ、こっち来るよ!」


 謎の翼竜もどきが1匹ルフォンたちに気づいて滑降してきた。


「みんな下がって」


 ルフォンがナイフを抜いて飛び上がる。

 大きく開けられた翼竜もどきの口の上を越え、空中で身をひるがえす。


 グルリと回転したルフォンはそのままの勢いで翼竜もどきをナイフで切り付けた。

 首を切り落とされて翼竜もどきはそのまま地面に激突しながら転がっていく。


 人ほどの大きさがある翼竜もどきはルフォンたちも見たことがない魔物であった。


「よっ、さすがルフォン!」


「へへん、私だって強いからね!」


「こ、これなんですかぁ?」


 でろりと紫色の血が流れ出る頭が目の前に転がってきて、ミュリウォは慌ててラストの後ろに隠れる。


「これは最下級の悪魔ですね」


 ミュリウォの疑問に情報屋の女性が答えた。


「あ、悪魔……これがですか?」


 悪魔とは何か。

 1つの魔物だとされながらも魔物とは異なった悪しき存在。


 この世の中には真人族と魔人族、そして魔物と大きく分けられているが悪魔は魔人族ではなく、魔物でもない、第四の存在であると言う者もいる。

 悪魔そのものは多くのことが謎に包まれている。


 魔力に優れて魔法に精通していて、高い知能がある。

 性格は残虐で非常に残忍で、そして自分本位。


 どこから来るのかも不明だが悪魔の国、あるいは悪魔の世界があるとされるが真人族にも魔人族にもそれを知るものはいない。


 しかし1つ確実に言えることがある。

 悪魔は敵。


 真人族にしても魔人族にしても悪魔はどちらにとっても敵なのである。

 第四の勢力とも言える悪魔は自分たち以外の種族を下に見て、その支配を試みている。


 子供でも知っている絶対的な敵が悪魔なのである。

 ミュリウォは顔を青くした。


 悪魔が現れる時、その場所はひどく荒れ果てる。

 最悪の事態であって、多くの命が失われる出来事が悪魔の出現となる。


 悪魔が現れると普段は敵同士の者でも手を取り合って悪魔を倒しにかかるので悪魔が最終的にどこかに定着したことはないが後に残ったものは大きな被害だけとなる。


 どちらかといえば真人族の方が被害にあってきたので真人族の方が悪魔を恨んで嫌っている。

 田舎暮らしのルフォンは悪魔と聞いても馴染みが薄いがラストなんかは施政者としての教育も受けてきたので悪魔の所業も聞き及んでいる。


 悪魔の甘言に惑わされて心の隙間に入り込まれないようにと真面目な顔で注意されたのを思い出した。

 狡猾で人の弱みに漬け込んで支配しようとする。


 一度従ってしまうともう後戻りはできない悪魔の契約。


「血の色も気持ちが悪いね」


 最下級の悪魔はビクエという。

 知能が低く、非常に好戦的で攻撃性が高く、人を見かけると襲いかかってくる。


 ここまで来るとほとんど魔物とは変わりがないのだけれど一応悪魔だとされている。


 そんな最下級とはいえ、悪魔がマヤノブッカの上空を飛び回っている。

 ビクエはそこら辺にいるものではなく、自然発生するものでもない。


 こんなところにビクエがいるということは、もっと上級の悪魔がいる可能性があった。


 マヤノブッカのところどころで魔法が打ち上がってビクエが撃ち落とされている。

 状況の把握までできなくても脅威が目の前にいるので戦い始めている人たちがいた。


 貴族の大会が行われているので警備もいるし、貴族個人が連れている護衛なんかもそこら中にいる。


「早くお三方も避難なされた方が……」


「ここには、マヤノブッカにはリューちゃんがいる。


 だから私は行かないよ」


 このような事態が起きたということはリュードの身にも危機が迫っている可能性がある。

 今ならまだマヤノブッカから脱出するチャンスはあるだろうがリュードを見捨てて逃げるつもりなどルフォンには毛頭ない。


「私だって」


「ト、トーイが頑張っているんですから私も逃げません!」


「……分かりました。


 お伝えしようとしていた情報ですが、リュードさんがいると思われる場所が分かりました」


「えっ!」


「この都市の地下には巨大な迷路のような空間があるのですがそこに奴隷たちは入れられています。


 どこから入れられたのかは分かりませんがそのどこかにはいます。

 いくつか地下に繋がる入り口も目星を付けてあります。


 もし皆さんが避難しない場合はこのことをお教えしろと言われておりました。


 こちらを」


「これは何ですか?」


「地下に繋がる入り口がある場所を記してあります」


 情報屋の女性から渡されたのは畳まれた紙。

 広げて見るとマヤノブッカの地図でいくつかの場所に赤く丸で印が付けてあった。

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