あの人を追いかけて5
劇場の火の回りは早かった。
人を呼んで人攫いは捕まえさせるつもりだったけれど、燃え盛る劇場の中に残されてはどうなったのか考えるまでもない。
リュードの正確な行方は分からなかった。
けれど話によるとリュードは貴族に売られていったことは分かった。
今この時期に人攫いから奴隷を買う人の目的は十中八九決まっている。
貴族が行うという大会のためにリュードは買われた。
結局その大会が開かれるマヤノブッカにいかなければならない。
「ここがマヤノブッカ……」
マヤノブッカに近づくほどマヤノブッカについて口に出す人が増えていった。
中にはマヤノブッカのことを自由都市なんて良いように言う人もいた。
どこの国にも属さない国のために支配者がおらずに法の目が行き届いていない不法地帯。
都合よく解釈してみれば自由とも表現していいかもしれないが単に取り締まる人がいないだけの話である。
それでもマヤノブッカで何もかも許されるかというと実はそうでもない。
一定の秩序はあって、法ではなくてもルールはある。
現在マヤノブッカにおける影響が強いのは女性の国トゥジュームである。
特に今は貴族の大会のためにトゥジュームの女性貴族が多く来ているためにマヤノブッカでも女性に手を出してくる人はいなかった。
誰が貴族で、誰が貴族に関わりがあるのか分からない以上普段は荒れているものも女性に手を出さない。
今はトゥジュームの法に近く、より過激な形で動いているので女性に手を出して、それが貴族であったのなら命はない。
貴族はそうしたところも徹底しているので、ルフォンたちにとっては幸運なことにマヤノブッカで活動する上で危険なことは少なかった。
マヤノブッカに訪れたルフォンたちに絡んでくる輩はおらず、比較的出歩いている女性も多くて周りに紛れることができた。
フードをかぶってミミを隠しているルフォンやラストの容姿が良く、堂々としているので周りから見ると貴族のようにも見えているのもまた関係していた。
「うーん……中々難しいね」
「そうですね……」
マヤノブッカでリュードを探すにしても、まずはそのための拠点となる場所が必要である。
治安が悪い場所ほど高い宿に泊まっておくのが安心である。
なので高めの宿を探して部屋に空きがあるのかを探しているけれどどこも満室で泊まれる部屋がない。
貴族の大会のせいで参加貴族や見物客が集まっていて高めの宿まで広く部屋が埋まってしまっていた。
安くてセキュリティに心配のある宿はこのような都市では不安がある。
なのであるがリュードやトーイを探さねばならないので時間もない。
このまま高くてしっかりした宿を探して空きがあるかを確認して回っている時間も惜しい。
安宿でもとりあえず泊まるところを見つけようかと悩んでいた。
「申し訳ございません、ルフォン様ですか?」
もう何軒か回ってみて空きがなさそうなら安い宿で妥協しようと3人で決めて移動し始めた。
フードを深くかぶった女性がルフォンたちに近づいてきた。
「どちら様ですか?」
ルフォンが警戒してナイフに手をかける。
もちろん知り合いでもなく、こんなところに知り合いもいない。
「サドゥパガンの使いのものです。
こちらを」
割符を提示する女性。
一応合わせてみるとピタリと合わさり、ルフォンは警戒を解く。
「それで何の用ですか?」
「色々とお伝えしたいことはあるのですがまずはお宿の方お探しではありませんか?」
「うん、どこも埋まってて困ってるんだ。
どこかいいところ知らない?」
「もしご迷惑でなければ我々の方でご用意しましたのでそちらにお泊まりになられるのはどうでしょうか?」
「それは……お願いしたいかな」
願ってもない申し出。
ついてきてくださいと言う女性に付いていく。
思っていたよりも長い時間を歩かされてマヤノブッカの反対側にまで来て、一軒の宿に着いた。
「この時期ですから空いているお部屋なくてお困りでしたでしょう。
支部長より仰せつかっておりましたのでお部屋の方も確保しておりました。
こちらは情報ギルドで経営しておりますので安全でありますし、料金もいただきません」
「本当?
やったじゃん、ルフォン!」
「そうだね!」
歩き詰めでだいぶ疲れている。
マヤノブッカが安全な都市でないので警戒し通しで歩いていたので精神的にも疲労していた。
ルフォンもラストもようやく休めると喜びをあらわにする。
リュードならここでこの親切心に裏を考えて怪しむのだけど3人は素直に良い宿が見つかったと喜んだ。
情報ギルドサドゥパガンが偽装用に持っている宿泊施設。
諜報員が泊まったり、拠点としても使えるその宿はマヤノブッカにある中でも高級宿の分類になり、さらにルフォンたちは最上階の1番良い部屋に通された。
サドゥパガンの偉い人が来た時なんかに泊まるような部屋なのだがルフォンたちはそんなこと知る由もなかった。
「お好きなだけこの部屋お使いください。
それと依頼されておりました調査につきましてご報告がございます。
今ご報告申し上げてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
フカフカのベッドに腰掛けてそのまま話を聞く。
ラストなんかはすでに寝転がってしまっている。
宿探して時間を費やしてもう時間的にも遅い方なのでそのまま寝てしまいたいぐらいの気分だった。
「まずは人攫いの方から。
他にそのような集団や組織がないか探しましたが人攫いをやっている者は見つかりませんでした。
やはり以前にお伝えした者たちが人攫いで間違いなかったようです。
その後、ですが劇場の火事により生き残ったものはいないようです」
ミュリウォの表情が暗くなる。
直接ルフォンたちがトドメを刺した人はおらず殺してはいないのだが、戦闘不能にしたために逃げられず劇場の火事でなくなった。
間接的には殺したも同然であり、その重たさにミュリウォは胸が苦しくなった。
ルフォンやラストも何も感じないわけではないが戦いになる以上殺してしまうこともあるし、手加減をしていても後に死んでしまうこともある。
命を奪うことに抵抗がないのではないが人攫いという重罪を犯してその金を笑って数える連中は殺してはいけない人でなかったので、心のどこかでは割り切っていた。
ルフォンも旅をしてきて命を奪うことの必要性を知っているし、ラストも自分を守るためなら時に非情になる必要があると分かっている。
何より、どんな命もリュードには替えられない。
「過程でなぜか我々の諜報員が殺害されましたので劇場を燃やした犯人も追っております」
直接人攫いにトドメを刺し、劇場を燃やした犯人はルフォンたちでなく別にいる。
人攫いたちは軽い気持ちで人攫いをやっていたのかもしれないけれど貴族は簡単な相手ではなく、人攫いを依頼するような貴族はおそらく口封じすらためらいがない。
相手はどうやってか情報ギルドが周りにいたことを察知して諜報員まで消して逃げた。
そのことによってサドゥパガンは非常に怒っていた。
サドゥパガンの諜報員に手を出した者には報いを受けてもらう。
依頼とは関係なく劇場を燃やした犯人をサドゥパガンの方で追いかけることになった。
「そして大会に出場させられている奴隷の調査も進みました」
ピクリとルフォンが反応する。
もしここにリュードがいなければまた一から探し直さなきゃいけない。
奴隷の大会になんていてと言えないが、そこにリュードがいてくれたらと思う。
「事前にお伝えいただきました特徴に一致する奴隷の男性が1名、いらっしゃいます」
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