あの人を追いかけて6

 ルフォンとラストは顔を見合わせる。


「本当ですか!?」


「リュ、リュード、いたの!?」


「お名前は公表されてませんので確認できませんが黒いツノのある男性がお一方だけ奴隷の中にいらっしゃいます。


 予選回であるバトルロイヤルを生き抜きまして、次のステージに進まれております。


 トーイさんの方はそれらしきものが数名いらっしゃいました。

 次に進まれた方はお二方のみです。


 もう少し調査を進めねば確実なことは何も言えません」


「そ、そうですか……」


 希望があるだけマシだけど喜びきれないミュリウォ。

 特にトーイは地味な方の見た目をしている。


 ほとんどが真人族の奴隷の中ではトーイは個性的ではなく見つけづらい。

 簡単な特徴だけあげると似ている人がいるのも当然の話となる。


 ただバトルロイヤルと聞いてミュリウォは軽く絶望した。

 トーイは全く戦うことと無縁の人物であるからだ。


 希望を持ちたいけれどトーイかも分からない人が2人だけ生き残ったと聞いても希望を持ちきれなかった。

 ルフォンたちも下手に希望を持たせる発言ができない。


 助けられないこともある。


「ご自分の目で確かめたいでしょうからこちらも入手いたしました」


 諜報員の女性はテーブルに3枚の紙を置いた。


「こちらが貴族の大会を観覧するために必要なチケットになります。


 チケットがあれば中に入って大会の様子を確認できます。


 リュード様やトーイ様と思われる方をご自分でお確かめください」

 

「これで……」


「次のステージは2日後から始まると聞いています。


 会場は町の真ん中に見えるコロシアムです」


 チケットを見ると座席番号が書いてある。

 3つ並んだ席をわざわざ探して用意してくれたみたいだ。


「こちらが今回の報告書でございます。


 もう少し調査は続けますがほとんどこれで確定となると思われます」


「分かりました。


 色々とありがとうございます」


「それでは失礼します。


 何かありましたら宿の主人に言ってくださればそちらもサドゥパガンに繋がっておりますので」


 最後まで笑うこともなく諜報員の女性は部屋を出て行った。

 諜報員の女性が出て行くとルフォンはニッコリ笑ってルフォンに抱きついた。


「やったじゃん、ルフォン!


 リュード、みっかったよ!」


「ま、まだ分からないよ……


 それに見付けても助けなきゃいけないし」


「んもう、嬉しいくせにー!」


 口ではそう言うがルフォンの尻尾は期待に揺れている。

 リュードともうすぐ会えるという喜びに勝手に尻尾が振られてしまうのだ。


「いいなぁ……」


「はっ……そ、そんな顔しないでよ!」


「そうだよ、まだ分からないよ!」


 テンションの上がったラストに押されてすっかり一瞬トーイのことを忘れていた。

 トーイについては可能性がリュードよりもはるかに低くて素直に喜べる2人が羨ましかった。


 慌ててミュリウォを励ますがどの言葉を選んでも嫌味のようになってしまう可能性があって口をつぐむしかなかった。


 2日の余裕はできたけれどマヤノブッカの治安は良くないし観光地でもない。

 観光する気もないし下手に動き回るわけにもいかない。


 はやる気持ちを押さえつけて、ルフォンたちは2日間を宿にこもって過ごした。

 フードを深くかぶって顔を隠す。


 誰に見られたところで構わないのだけど目立たぬようにはしておく。

 他にもバレたくない人がいるのか似たような出立ちの人がいるので仮に何か行動を起こすとしてもルフォンたちだとはバレないだろう。


 コロシアムは異様な雰囲気であった。

 指定された席に着いたが耳が痛くなるほどのざわつきと戦いと血を求める興奮した目をした大人たちの集まりは熱気にも近い異常さがある。


 コロシアムの真ん中にある闘技場ステージの上に1人の女性が出てきた。

 黒いウサギのお面を付けたその人は黒い筒のような物を持っていた。


「さーて、それでは第二ステージの方に参りたいと思いますが準備はよろしいですかー?」


 黒うさぎの司会が筒に声を出すとコロシアムのあちこちに取り付けられた大きな筒から声が出てくる。

 いわゆるマイクとスピーカーだがこの世界ではそれを魔道具として作り出したものだった。


 早く始めろ!と罵声が飛ぶ。

 ステージの声がスピーカーから聞こえてくることやこんな魔道具をどうやって用意したかなんて周りの人は気にしていない。


 とっとと大会を始めることの方がみんなにとっては大切なことだった。

 この雰囲気を3人はとても好きになれそうになかった。


「第一ステージを生き残ったのは158名の挑戦者の皆様でーす。


 この第二ステージで挑戦していただくのはダンジョンバトルです!」


 黒うさぎの司会はステージを大きく使って各方向を向きながら罵声もなんのその視界を続ける。


「ダンジョンといっても本当にダンジョンを攻略するのではありません!


 この町の地下には巨大な地下空間があるのはご存じでしょうか?


 知らなくても大丈夫ですが、ダンジョンとも呼べるほどに広いこの地下空間を使って参加者をさらに絞ります!


 ルールは簡単です。

 参加者の手首には腕輪が付けられていまして、それには1つの石がついています。


 それを10個集めるだけ!


 簡単なルールです。

 いくつ集めても構いませんが10個集められなかったら失格となります。


 どうやって集めるかって?

 それはお願いでもしてみればいいんじゃないでしょうか?」


 ルフォンたちは苦い顔をする。

 要するに自分たち以外の奴隷を殺して石を奪えと言っているのだ。


 黒うさぎの司会の白々しい言い方に石でも投げたくなる。


「ただしもう1つ、石がなくてもクリアと見なされる条件もございます。


 やっさしー私たちは地下空間のどこかに魔物をご用意しました!

 もし魔物を倒すことができましたら、石が10個なくても次のステージに進むことができちゃいます!


 えっ?

 どうやってみんなが勝ち上がってくるかみたいですって?


 そりゃあもちろん見ることもできます。


 こちらをご覧くださーい!」


 黒うさぎの司会がパッと手を上げる。

 すると闘技場を囲むように白い布が上から降りてくる。


 天井から吊るされ闘技場の四方を囲む真っ白な巨大な布がなんなのか会場がざわつく。


「つい先日およそ500年前の遺物が大量に発掘されました。

 それは魔道具でありまして、なんと離れたところの光景を映し出すことができるものでした!


 元々は偵察や監視を行うための魔道具だったみたいですが私たちはそんな魔道具を手に入れることにせいこーしたのでーす!」


 黒うさぎの司会が何を言いたいのか理解している人は少ない。

 その魔道具がどうしたのだとざわつきが大きくなる。


「んー、実際に見ていただいた方が早いでしょうね。


 じゃん!」


 白い布に囲まれてしまって見えないステージの上で黒うさぎの司会はポーズをとる。

 コロシアムの中を照らしていた明かりが次々と消えて行く。


 そして真っ暗になったコロシアムの中でパッと白い布に映像が映し出された。


「リューちゃん!」


 ボヤけたり、ブレたりしている映像。

 安定しないで次々と移り変わって行くような映像が段々と安定して鮮明に見え始めた。


 別々の人が映し出されるその映像の中の1人。

 一瞬だけどリュードの姿があった。


 ルフォンはそれを見逃さなかった。


「全てを同時にお見せすることはできませんがこちらの魔道具を使いまして、良いシーンをみなさまにお見せしたいと思います。


 いかがでしょう!」


 ワッと会場が湧く。

 すごい技術だと先ほどまで殺気立っていた人たちもほめそやす。


 これまでなかったやり方と競技内容に興奮を隠しきれない観客たち。

 本当に一瞬だけ映った光景。


 リュードはどこか狭い洞窟のようなところにいるようにルフォンの目には見えた。


「どこにいるの……リューちゃん」


 姿は見えた。

 なのに目の前にはいない。


 手が届きそうで届かない。

 胸に広がるもどかしさが苦しくて、もう一度リュードが移らないかとルフォンは映像に目を凝らした。

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