あの人を追いかけて3
「で、でもあんな大金」
「じゃあさ、いつか返してよ。
余裕ができた時でいいから」
余裕ができた時に返せばいいなんて実質的には返さなくていいと言っているのと同じ。
この先リュードを助け出して旅を再開することになったらミュリウォとは別れることになるし、きっと会うこともなくなる。
旅をしている人を探し出してお金を返すなんて至難の業で、まして定住するミュリウォたちが現実的にお金を返せることなんてないだろう。
つまりルフォンは返さなくていいと言っているのだ。
なんとなくリュードっぽい言い回しだとラストはひっそり思った。
「う……あ、ありがとうございます!」
ミュリウォも鈍い人ではない。
ルフォンが本気で返さなくてもいいと言ってくれていることを察して深々と頭を下げた。
もし機会があるならば本気で返すつもりはあるがルフォンの心意気に感動していた。
大切な人を助けたいという気持ちは同じである。
人攫いについては噂を聞く限りでは人攫いは同じグループのようだ。
とりあえず同じ人攫いに攫われたなら同じところにいる可能性は考えられる。
さらに奴隷が集められた大会があるならば最終的にはそこに集まる可能性は非常に高い。
ついでだと言うのは言葉は悪いがリュードを大会で探すならトーイも探しても大きくは変わらない。
むしろリュードは目立つのでトーイの方が見つかればそこからリュードの足取りを終える可能性もあった。
まだもうちょっと心を開き切ってはいないが同じ目的を持つ仲間である。
お金の問題くらいは些事である。
「ですがマヤノブッカですか……
とても面倒なところですね」
ルフォンたちはみんなマヤノブッカがどんなところか分かっていないのでミュリウォが説明する。
行くつもりのないところであったのでリュードも特に触れることがなかったので知らなかったのだ。
荒れたところとして有名でトゥジュームというよりは他の国との空白地帯にある中規模の都市だと伝えた。
確かに非合法の大会をやるにはちょうどよさそうな場所だ。
「危ない場所でも行くしかないよ」
少しでも可能性があるなら、リュードに繋がる何かが見つけられるなら地の底にだって行く。
「危ないところにいるなら余計助けなきゃ!
絶対助けるよ、ルフォン!」
ラストだって同じ気持ちだ。
何度も危機を助けてくれた大事な恩人の危機なのだ、まだ何の恩も返せていないのにリュードを失うわけにはいかない。
「……そうですね、私もトーイの事諦めません。
微力ながら頑張ります!」
3人は決意を1つにしてマヤノブッカに向かうことに決めたのであった。
どっちにしろ情報ギルドはルフォンたちがマヤノブッカの方に向かうと思っているので情報を得るのにもマヤノブッカ方面に行かなきゃいけない。
じっと待っているより動いた方がルフォンたちの性に合っている。
急ぐ、けれど冷静に。
ルフォンたちはマヤノブッカに向かった。
旅に不慣れなミュリウォも必死に食らいついて移動する。
あんなところに行くのはやめときな、なんて言われることも飽き飽きしてきたので行き先を聞かれても答えなくなった。
「失礼します。
サドゥパガンの者です」
女性だけだと視線も集めることもなく順調にルフォンたちは旅を進めていた。
行程としては半分ほど来たところで突然宿のドアが控えめにノックされた。
ルフォンたちを訪ねる人はいないはずとルフォンがナイフを構えた。
サドゥパガンだと聞いても警戒を解かず、片手にナイフを、もう片方に割符を持ってサッとドアを開ける。
フードをまぶかにかぶった女性が頭を下げ、割符を差し出す。
ナイフをしまって割符を合わせるとギザギザしたところがピタリと合わさり半端に見えていたサドゥパガンの文字がちゃんと見えるようになる。
「入ってください」
「失礼します」
情報ギルドの者だと確認できたので部屋に招き入れる。
「この度1つ分かったことがありますのでご報告に参りました」
「何が分かったんですか?」
「人攫いの集団について居場所が判明いたしました」
「本当ですか?」
「はい。
どうやらここからそう遠くないところに拠点を構えているようです。
詳細はこちらにまとめてありますので」
そう言って女性はテーブルに丸めた書類を置いた。
「お探しの人物につきましてはまだ調査中となります。
貴族の大会につきましてもまだ開催されておりませんのでお調べできない状況にあります」
「……分かりました」
「あまり素行の良くない者の集まりなので向かわれるならお気をつけください」
「ありがとうございます」
情報ギルドはしっかり仕事してくれていた。
割符の片割れを回収して情報ギルドの女性は宿を後にした。
「人攫いか……」
ここに来てもう1つ追うべき重要な対象が見つかってしまった。
人攫いの元にリュードがそのままいることは考えにくいが行き先を知っている可能性はある。
もしかしたらマヤノブッカに行かない方向で話が進むこともありうる。
3人は悩んだ。
どちらがより大切な人に近づけるのか材料が少な過ぎて判断が出来ない。
「私は人攫いの方に……」
先に答えを出したのはミュリウォだった。
ミュリウォはわずかに打算的な考えから答えを出していた。
トーイは身体的な能力の高い人ではない。
奴隷として魅力的かと問われれば奴隷にするにはやや貧弱さが目立ってしまう。
となれば売れ残る可能性も考えられた。
人攫いの元にいるのは低い可能性だがリュードよりもトーイの方がそうした売れ残っていることも可能性としてあり得なくもないのだ。
もしかしたらトーイが人攫いのところにいるかもしれないのなら確かめたいとミュリウォは考えた。
「悪い人たちを放ってはおけないし、まだ捕まっている人もいるかもしれない。
だから私も人攫いのところに行くべきだと思う」
ラストも人攫いの方に行くことに賛成した。
リュードならどうするか。
ルフォンとラストの基本的な行動の指針はそれだった。
リュードを助けることの他にリュードだったらどう行動するか、リュードに胸を張って何があったかを報告出来るかを考えていた。
人攫いにリュードのことを確かめるのも必要なことだし、人攫いがさらって捕らえている人がまだいるかもしれない。
助けられるべき人がいるなら助けるべき。
「……行こうか」
ラストの言葉を受けてルフォンが大きくうなずいた。
丸めた書類を伸ばして人攫いについて確認する。
場所としては少し戻ることになり、マヤノブッカから遠ざかる。
たまたま距離的にはそんなに遠くないので行って帰ってきてマヤノブッカに向かっても大丈夫そうではある。
情報ギルドが調べてくれた内容によると人攫いは元々山賊のような荒れた人の集まった集団だった。
リーダーはそれなりに有名な犯罪者で暴力などで指名手配されているほどの人物である。
道ゆく人に対して盗みや脅迫を繰り返していたのに最近人攫いにも手を出した。
経緯は不明だが貴族の大会のために人攫いをしているとみられた。
ルフォンたちは人攫いの方に向かった。
スデアントという都市に人攫いが潜伏していると報告書には書いてあった。
今は使われていない古い劇場を拠点にしているらしく軽い下調べまでしてあった。
「わ、私も行きます!」
もし仮にトーイがいた場合ミュリウォがいればすぐに分かる。
危険は伴うがミュリウォも一緒に行くことになった。
「出来るだけ後ろに下がっててね。
私ちょっと感情をコントロール出来ないかもしれないから」
置き去られたリュードの剣の姿がまぶたに浮かぶ。
地面のえぐれた跡を見れば剣を杖のようにしていたことは分かる。
リュードは最後まで1人で抵抗していた。
人攫いによって眠らされたルフォンたちは何もすることができずにリュードを誘拐されてしまった。
フツフツと怒りが湧き上がってくる。
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