諦めぬ意思を持つ仲間1
「うげぇ〜、苦いぃぃぃ……」
リュード特製の万能解毒薬。
色々なものに効くようにと作ったものだった。
ポーションは苦味が出ないように苦心して作り上げていたが解毒薬はとにかく色々な毒に効くように様々なものを混ぜているのでとても苦かった。
苦味を抑えながら毒に効くところまでは持っていけなかった。
リュードがいなくなった異常事態。
ルフォンは苦味が強いので半ば気付け薬にもなる解毒薬をラストの口に遠慮なく流し込んだ。
苦味と青臭い草の臭いにラストは涙目で飛び上がった。
「ラストちゃん、大変なのでら目を覚ましてー!」
「ひふぁいよ、めふぉふぁまひたよー!」
ラストの頬を引っ張ってダメ押しで意識を覚醒させる。
「……いたいよぅ」
「大変なの!」
「何が大変なの?」
「リューちゃんがいなくなったの!」
「……へっ?」
リュードの剣はテント手前で落ちている。
よほどのことがない限りリュードが自分の武器を手放してどこかにいくなんてあり得ない。
どこかにいくにしても剣を地面に捨ててはいかずちゃんと荷物と一緒にでもする。
ラストもそれは分かっているので明らかにおかしいと思った。
抗えない異常な眠気に襲われた。
まだ頭の奥がぼんやりとしてモヤがかったような気だるさがある。
ラストはふと、少し前に聞いた話を思い出した。
人攫いというと大体女性か子供が攫われるものだけどこの国の特殊性のために男性が誘拐される。
ラストがその話に触れるとルフォンも同じ事を考えていた。
リュードは人攫いに誘拐された。
認めたくないが他にルフォンとラストを置いて跡形もなくいなくなる理由の説明がつかない。
どこかで倒れているぐらいのわずかな可能性を信じてルフォンとラストは周りも捜索した。
けれどリュードは見つからなかった。
人攫いもプロである程度のところまでは他の人がいたらしい痕跡らしきものが見つけられたが途中でその痕跡も追えなくなってしまった。
ルフォンが起きてしまったので近くの痕跡までは消せなかったのだ。
「ど、どうしよ……リュード、どこ行っちゃんだろう…………」
ラストはルフォンと違って自力で起きられなかった。
ルフォンも起きられたのはリュードのネックレスのおかげなのだけれどもしルフォンまでそのまま起きなかったらと考えるとゾッとする。
ラストは突然の事件に思考が上手く働かない。
こんな大きなことが起きると困惑しながらもリュードはとりあえず引っ張ってくれていた。
今はリュードはいない。
こんなにリュードに頼り切りだったのかと少し悔しい思いがする。
ルフォンも起きたばかりの時は焦っていたがラストよりも早くに起きて時間が経っているし、少しだけ冷静になれていた。
どうしたらいいか分からないなりに考える。
リュードならどうする。
ラストよりも年上の自分がしっかりしなきゃいけないとルフォンは自分を奮い立たせる。
リュードの置かれている状況を考えるとここで延々と悩み続ける時間も惜しい。
きっとリュードは諦めない。
攫われた側なら諦めないで逃げ出そうとする。
攫われていない側なら諦めないで探そうとする。
ただ待っているだけじゃダメだ。
こちらからもリュードを探さなきゃいけない。
冷静になるにつれてリュードのことが頭を駆け巡る。
ルフォンが困ることはあっても、リュードが困ることは少ない。
もし困った状況にあるリュードを助けることができたなら?
考えすぎたルフォンの思考はぶっ飛んだ。
もし困ったリュードを助けられたならきっとすごく褒めてくれるはずだ。
最近少し頭を撫でてくれる回数も減った。
ピンチはチャンスだと誰かが言っていた。
攫われたということはリュードは少なくとも生きている。
「大丈夫」
「ルフォン……」
「大丈夫だよ、リューちゃんだもん」
自分に言い聞かせるようにラストに声をかける。
「とりあえずリューちゃんを探そう」
リュードは死なない。
何があっても諦めない。
ならこちらも諦めないで探すのだ。
そしてこれはチャンスなのだと思うことにする。
『あの子がピンチになるなんて……まずないと思うけど、もし絶体絶命の危機に陥ってもあの子は死なないから。
もしそうなったらチャンスだと思いなさい。
助けてもらった経験少ないから助けてあげたらもうあなたの虜よ、虜』
なんだったら裏で糸を引いてピンチにしてやってもいいわよ、なんて言っていたことも思い出してしまった。
誰がそんなことを言っていたのか、リュードの母親のメーリエッヒである。
戦いや血痕なんかも見当たらないのでケガもしていないはずだ。
無事であると考えられることをラストに伝える。
ケガもなくきっと無事だと考えられる。
ラストもひとまずはリュードの無事を信じて冷静さを取り戻す。
心配と信頼とちょっとした邪な考え。
2人はリュードを探すことにして2人で夜を明かした。
「おんも!」
朝になったので荷物を片付ける。
リュードの剣を回収しようとしてラストがその重さに驚く。
リュードは普通の剣のように振り回していたのにとんでもなく重たかった。
引きずらないように気をつけてなんとかマジックボックスの袋に入れた。
もしマジックボックスの袋がなかったり、人攫いに持っていかれたりしていたら剣は隠して置いていくしかなかった。
リュードの分の荷物も全て袋の中に入れてルフォンたちは出発した。
ルフォンが早くに目を覚ましたお陰でリュード以外の荷物には一切手をつけられていなかった。
お金もそのまま無事なので何かをするにも困ることがなかったのは助かった。
これまではのんびりと旅をしてきたが早足で次の町へと移動をする。
宿で部屋を取ると女性だけだと少し割引されるなんてことが発覚しつつ、荷物を部屋に置いて冒険者ギルドに向かった。
「ここ最近出るって噂の人攫いについて聞きたいの」
ついた時間は昼前。
やや閑散とした冒険者ギルドの酒場スペースにあるカウンターのバーテンダーの前に行く。
お酒を注文するのではない。
お金を置いて情報を注文する。
こういうことを聞きたい時は依頼の方のカウンターに向かうのではなく、酒場などの方で聞くのが正解である。
「……申し訳ありません。
それについてお話できることはありません」
「どーして……」
「これでも?」
食ってかかろうとするラストを制して、ルフォンは懐からさらにお金を出して重ねる。
このようなことの多くはお金で解決できることが多い。
さらりと増えたお金を見て、少しだけギルド員の目の色が変わる。
「最近はギルドも大変でしょ?」
さらにもう一押し。
もう一枚乗せられたお金を見てギルド員はさりげなく周りを確認する。
ギルド員も人間だ。
もらえるならお金は欲しい。
磨いていたグラスを置いて、そっとお金を懐に入れる。
酒場担当は大変だけどこうした役得があるからやめられない。
「詳しいことは俺の首もかかってくるから言えないんだ。
ただこんなふうに言えば分かると思うが、人攫いに関してはこの国のお偉い人が関わっている。
…………ギルドに圧力がかけられるぐらいのお偉い人がな」
声をひそめてギルド員は教えてくれた。
「ありがとう」
お金も欲しいが仕事も失うわけにはいかない。
お金を受け取ったので話せることは話した。
想像よりもリュードは厄介で大きなことに巻き込まれたのかもしれない可能性が出てきた。
「ル、ルフォンカッコいい……」
悩ましげな表情を浮かべるルフォンをラストはキラキラとした眼差しで見ていた。
食ってかかりそうになったラストと違ってルフォンは大人の対応をしてみせた。
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