諦めぬ意思を持つ仲間2
あくまでも冷静に大人の交渉を続けて情報を引き出した。
ラストのように食ってかかっていたら周りの目も集めてしまうし、なんの情報も得られなかっただろう。
ただお金を出しただけなのにあたかも余裕があるように見せかけたルフォンの堂々たる態度にラストは大人っぽさを感じていた。
ルフォンもあれが正解だったのかは分かっていない。
でもリュードならあんな時でも言葉荒らげることはしない。
そう思ってやってみただけだったけど結果的に正しい行動であった。
「そ、そう?」
こんな大人っぽさを取り上げて褒められたことなど少ないので照れてしまう。
なんだかんだルフォンも旅を続けて成長している。
旅人としての大人の風格が備わってきているのかもしれないとちょっとだけ鼻が高い気分になった。
「でも……どうする?」
けれど引き出せた情報はほとんどない。
人攫いがただの人攫いでないことが分かっただけで他にヒントとなるようなことは何もなかった。
「そうだね……まずはちょっと歩こうか」
ルフォンがラストに目配せした。
その意味は分からないけれどラストはうなずいてルフォンについていく。
少したわいのない会話をする。
夜に何を食べたいとかそんな会話をしながら少し歩く速さを上げる。
角を曲がり、グルリと振り返る。
「うっ!」
「誰?
私、今はあんまり機嫌良くないよ?」
早足で角を曲がってきたフードをかぶった女性。
ルフォンは服を掴んで壁に押し付けるとナイフを首に当てる。
ギルドを出た時からずっとついてきていた。
ルフォンは尾行に気づいて相手を罠にかけたのである。
「ま、待ってください!
悪気はなかったんです!」
本当に首を切り落としてしまいそうな冷たい殺気を感じて慌ててフードを下ろして顔を見せる。
フードをかぶったままでは話も受け入れてもらえそうにない。
ルフォンが捕らえたのは若い女性だった。
明るい栗色の髪と目をしていて、両手を上げて敵意はないと引き攣った笑みを浮かべる。
「悪気なくても人を尾行するのは良くないことだよ。
何の用?」
「お、お話が聞きたくて……」
「今は誰かとおしゃべりしている暇はないんだ。
ごめんね」
今は知らない人と仲良くお話している時間なんてものはない。
特に害するつもりもないのならこれ以上時間を割くことはないとルフォンがナイフを引く。
「お、お仲間の男性が誘拐されたんですよね!」
回りくどく話していては聞いてもらえない。
話の核心部分を口に出す。
「そのまま、続けて」
「は、はい……」
ナイフよりももっと怖い、ルフォンの眼差し。
話を聞く気にはなったがなぜそのことを知っていて、なぜそれについての話がしたくて接近してきたのか。
少しでも怪しい動きをしたら腕の1本ぐらい切り落として無理矢理話を聞き出すぐらいのつもりでいた。
「私も……私も人攫いを探しているんです。
私の婚約者も誘拐されてしまったんです!」
「続けて」
「けれど人攫いが出るという噂しかなく、誰に聞いてもそのことを話してくれなくて……
そんな時にギルドで人攫いについて聞いているところをたまたま目撃しまして……私と同じ境遇なら何か助け合えることはないかと、思いまして…………」
ルフォンの殺気が若干弱くなる。
「尾行してしまったことは申し訳ありません……
どうお声がけしたらいいのか分からなくて」
もしかしてあなたも人攫いに大事な人を攫われましたかなどと声をかけることなんてできない。
良いタイミングと良い声の掛け方を探っているうちにルフォンたちが移動を始めてしまい、結果的に尾行する形で声をかけるタイミングがないかを見ていたのだ。
素人の尾行なんてルフォンには通じない。
ラストはルフォンをキラキラした目で見ていたから気づいていなかったけれどルフォンは尾行されていることに気づいていた。
てっきり人攫いに関わった何か危ないものだと思った。
だけど人攫いに関わってはいるけれど危ないものではなかった。
「な、何かお話でも聞くことができたらと思ったんですがすいませんでした……」
「尾行のことは許すよ。
あなたのこと、その人攫いのこととか聞かせて」
「分かりました……」
立ち話もなんなのでルフォンたちが泊まる宿でお話をすることにした。
女性の名前はミュリウォ。
そしてミュリウォの婚約者の名前はトーイと言った。
2人は仕事の関係でたまたま知り合い、ミュリウォがトーイの優しいところに惹かれて付き合い始めて、今では結婚を約束する間柄にまでなった。
この国は悪い国ではないけれど男性の立場がやや低いと言わざるを得ない。
そこでミュリウォが元々他国の出身でもあったことから結婚を機に別の国で新しくやり直すことを決めた。
ミュリウォの故郷の国に行ってささやかな結婚式をして2人で協力して暮らしていくつもりだった。
仕事も辞め、家を引き払って国を出ていこうと移動していた時にトーイが人攫いに連れ去れてしまった。
「その時はなぜなのか妙に眠くなって頭がぼんやりとしていました……
気づいたらトーイはいなくなっていて…………」
その時は寄り合いの馬車に乗って移動していた。
男性はトーイともう1人いたのだがそのどちらもいなくなっていた。
ギルドや国の警備兵にも相談した。
けれど別の男がいるなんて慰めにもならない言葉をかけられてミュリウォの話に取り合ってもくれない。
ポトリとミュリウォの膝に涙が落ちた。
ルフォンたちと同じ状況。
同じ犯人であることは推測できるし、どのような気持ちでいたのかは想像に難くない。
「でも……私は諦めたくないんです」
1人でもミュリウォは諦めなかった。
人攫いのことを聞いて回り、調べた。
そんなミュリウォを憐れんだギルド員がこっそりと貴族が関わっているので手を退くことを忠告してくれた。
そこからミュリウォは探すのをやめるのではなく、貴族が関わっているなら関わる理由があるはずだと貴族の方に探りを入れ出した。
何か少しでも糸口が見付かればと思った。
本来一般的な市民であるミュリウォに貴族を調べる術なんてないのであるがミュリウォはたまたま前職のツテがあった。
たまたま攫われた所の近くの町に知り合いがいて、泣きそうな顔をして頭を下げるミュリウォのために一肌脱いでくれた。
「どうやら、貴族の方々には危ない趣味があるようです」
「危ない趣味?」
「はい。
トゥジュームの女性貴族たちは自分達が抱える男性たちを競わせてどの男性が1番であるのかを決める催しというか大会というのかを開催しているらしいんです」
貴族の危ない趣味と聞いて、裸でムチで叩かれるリュードの姿を想像したラスト。
変な想像を1人でしてしまったことに顔を赤くする。
ムチの練習をしていたラストに昔メイドさんがそのような危ない趣味を持つ人もいるなんて教えてくれたのだ。
なぜなのか今そんなことを思い出してしまったのだ。
「それでその危ない趣味の大会が近々行われるらしいのです。
それも今回は主催者がとんでもない景品を用意しているとかで貴族たちは目の色を変えて優勝出来そうな男を探しているとか……」
その男探しに使っているのが人攫いなのではないかとミュリウォは睨んでいる。
その大会はウラの遊びなので表立ってそんなことをするので集まれと募集はできない。
なのでリスクは伴うが男を集めるために人攫いのようなものの組織なりを支援して派手にやらせているのではないかと推測した。
「ここまで調べたのですが、ここからは私の力では……」
友人もよくやってくれた方である。
秘密の催しを調べるには危険が伴いすぎる。
これ以上は巻き込むこともできなかった。
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