第5章
訪れた別れ1
「目指せドワガル!」
旅に出ることが出来る!
しかもリュードとルフォンと一緒!
これほど最高なことは人生に他にないと思った。
後顧の憂いであったベギーオもブジャンもいなくなった。
雷の神様の神殿を建てることも正式に決定して、雷の神様の復興の中心地になる国を守ってくれるとモノランも約束もしてくれた。
ついでにラストがいなければレストも気兼ねなくバロワとの失われた時間を埋めていけることだろう。
鼻歌でも歌いながら歩きたい気分のラストは腰に剣まで差している。
弓矢がメインの武器であることに変わりはないけれども扱うことのできずに遠ざけていた剣や槍といった武器にも憧れがあった。
これまで使っていた弓はデュラハンによって壊されてしまった。
とりあえずで代用の弓は用意したが特注品に比べると劣ってしまう。
ムチも持ってはいるけど殺傷力に関しては刃物の1つでも持っておいた方がいい。
久々に持った剣は重くて子供の頃に習ったことは全部忘れてしまっていた。
なので日が落ちてきて野営の準備をした後にリュードが少しずつ教えてあげていた。
寝るまでの短い時間、次の日に影響が出ない程度にラストは剣の鍛錬にも励んでいた。
そうしながら目指している行き先はドワーフの国ドワガルである。
「はぁ……」
この世界には様々な文化を持つ国が存在する。
一般的な価値観はリュードが前にいた世界よりもやや古い考え方が主流で男性優位でありがちな価値観が多い。
これには魔物という存在も大きい。
常に身の回りに脅威が存在するために戦える人がいなければ生活は成り立たない。
魔物と戦う冒険者は男性が多いので自然と男性優位な社会になってしまう。
ただそうではない国も存在する。
全く異なる価値観や逆とも言っていい価値観を持つ国も中には存在している。
これまでの旅の中ではリュードとルフォンは平等であった。
泊まる宿も相談して2人で決めて役割分担もちゃんと行ってやってきていた。
何か人と話すときにはリュードが前に出ることは多かったのだけど基本的には勝手気ままに何かをやったりすることは少ない。
何かの食材や香辛料を見つけてルフォンがこっそり買ってきたりすることもあるけどこれまで稼いだお金で取っておく部分と2人がそれぞれ自由に使える部分は分けて、それぞれのお小遣い的にしてあるので問題もない。
道が広ければ並んで歩くが狭ければリュードが人避けも兼ねて前を歩くのがいつものことなのだが、今はリュードが一歩下がってルフォンとラストの後ろを歩いている。
「宿はどうする、リューちゃん?」
「好きにして……ください」
町を見回る兵士や歩いている住人の多くは女性。
小さいお店では男女どちらの人もお店をやっているものだけど大きいお店では男性が店主で女性が店員ということも珍しくない。
けれどこの国では女性が店主で男性が店員。
逆なことはほとんどない。
リュードたちが今いるのはトゥジューム。
ドワガルはティアローザと友好国ではあるが決して物理的な距離が近い国ではなかった。
むしろ遠い。
なのでドワガルまで長い旅路を行かねばならず、トゥジュームはその途中にある国だった。
このトゥジュームという国はかなり特殊な国である。
非常に男性優位で女性が軽んじられることを男尊女卑などいう言葉があるのだけれど、トゥジュームにおいては女尊男卑、女性優位であり男性よりも女性の方が完全に上の立場にある国なのである。
リュードとルフォンとラストに上下はないのでタメ口でも何ら問題はない。
普通の国なら誰も何も思わず普通の会話に視線を向けられることもない。
トゥジュームは違う。
リュードがルフォンやラストにタメ口を使っただけで周りがいい顔をしない。
男のくせに女にタメ口を使っていると渋い顔をして視線を向けられる。
非難されるような視線で見られてリュードも気まずい気分になる。
郷に入っては郷に従えと偉い人が言っていた。
悪目立ちしてしまうぐらいなら目立たぬ方がいい。
意地になってタメ口を貫き通すぐらいなら周りが何も思わないようにちゃんと話せばいいのだ。
どうやらリュードがちゃんとしていないとチクリと注意されるのはルフォンたちらしい。
男を教育していないのかと言われるみたいだ。
明らかに外から来た冒険者に価値観を押し付けるのはどうかと思うが道行く人がみんなそんなだから一々反論もしてられない。
「疲れた!」
「なんだか新鮮だけど落ち着かないね」
「私はこんなリュードでもいいかな?」
「勘弁してくれ……」
宿のベッドに倒れ込むリュード。
ただ言葉遣いだけではない。
決して女性より前に出ず、常に恭しい態度を取って丁寧な言葉遣いで接する。
奴隷でもあるまいしと思うのだけど周りからじろじろと見られるのは落ち着かないのでしょうがない。
ただしすごく気疲れする。
宿もちょっとだけ問題がある。
空き部屋の都合から4人部屋を2つで男女に分けるか、4人部屋1つで済ますかの選択があった。
当然4人部屋2つで男女分けて使おうと思ったのだけど宿屋の店主がいい顔をしなかった。
この店主も当然女性なのだが男性が1人で4人部屋を悠々と使うことに眉をひそめられた。
たった一泊するのにもそんな顔をされて、仕方なく4人部屋を3人で使うことになった。
非常に頑なな女性社会。
トゥジュームのことはその手前の国の時点で聞いていたが話に聞いていた以上に徹底している感じがある。
リュードとしては肩身が狭く感じるのだけどそうしたことに抵抗がないなら住みやすい国だとは言われていた。
女性が男性を守る国なので魔物が討伐できない非力な男性でも構わず、偉そうな男性に辟易した女性はこの国に移ってきたりもする。
ここまで徹底しているので治安も良くて、唯一の価値観の元に団結して相互協力も盛んで結びつきも強い。
ヒモになりたい男性も女性が稼いでくるし周りが助けてくれるので多少顔が良ければ何もせずに暮らせてしまうなんてうそぶくやつもいた。
だからといって男性の権利が軽んじられていたりするのでもないので価値観に合えば悪くない国なのだろう。
確かに道は綺麗だし荒れて暴れるようなものも見かけはしなかった。
統制が取られていて安定している国ではある。
「さっさとこの国を抜けて行こう」
否定するつもりはなくてもリュードには合わない。
女性を下ではなく、対等に扱ったとしても白い目で見られるのでたまったものではない。
食事や買い物のためにも外に出なきゃいけないと思うと憂鬱な気分になってくる。
「いい男連れてんね?」
宿の部屋で料理するわけにもいかないので外で食事を取る。
料理の注文なんかもルフォンとラストに任せてリュードは小さくなって黙っておく。
適当に選んだお店だったけれどそれなりに繁盛していて席は埋まっている。
当たり外れの多い外食だけど今回は当たりの雰囲気がある。
料理を待っていると隣のテーブルに座っていた冒険者らしき女性が声をかけてきた。
「ふーん、私の好みの顔してるね。
どうだい、そんなひ弱そうな女たちじゃなくて私のところに来ないかい?」
男性が女性に声をかけるようにトゥジュームでは女性が男性に声をかける。
特に成功するとも思っていない、要するにナンパみたいなもの。
「ありがとうございます。
でも俺には彼女たちがいますので……」
「そうかい?
でも気が変わったら私のところに来な。
可愛がってあげるよ」
角が立たないように丁寧にお断りする。
基本的に軽いナンパなら男女がどちらでも無理矢理はしてこない。
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