次の旅に2

「そうかそうか。


 お礼と言っておいてなんだが1つお願いがあるのだ」


「お願いですか?


 俺たちにできることなら手伝いますけど……」


 お礼としてドワーフのことを紹介するのにそこに加えてお願いするのは不躾なことだが特に上手い理由付けも思いつかなかった。

 だからそのまんまお願いしてみる。


「……ええと?」


 無言。

 ヴァンはスッと目をつぶって言葉を発さない。


「お願いとは、ラストを一緒に連れて行ってやってくれないかということだ」


「お父様!?」


 呼び出されたはいいけど蚊帳の外。

 きっと二人に対する用事が終わったら次に話があるのだと思って寂しそうにリュードとルフォンを見ていたラスト。


 話を聞けば聞くほどお別れの時であると寂しさとか悲しさが心を占めて、重たい気分になっていた。

 ところがいきなり名前を出されて慌てた。


 しかもその内容が内容なだけにポカンとした顔でヴァンのことを見つめている。


「ドワーフたちは警戒心が強いからな。


 紹介状だけではお礼を果たせるか、どうにも不安でな。


 血人族の王の娘が来たとあればドワーフでも雑に扱えはしない」


「……それだけではない、ですよね?」


 取ってつけたように感じられるのはリュードだけでない。

 名前を出されたラストも納得がいっていない顔をしている。


 王の娘が来たならドワーフも丁寧な対応をするだろうがそこまでする理由はなく、ちゃんとした使者を同行させるのでもよいだろう。


「やはりこれでは納得してくれんか?」


「俺はそれでも構いませんが……」


 リュードがラストを見る。

 別に嫌ではないのだけどそんな理由で、とは思わざるを得ない複雑な顔をしているラスト。


 行かされる本人が納得していない。


「……私は間違っていた。


 ここで色々な勉学を学び、大領主として実際の経営も学ぶことによってそれで十分であると考えてきた。


 けれど今回の事件で思ったのだ。

 世の中は広く、思い通りにならないことの方が多い。


 それでも時には突き進んでいくことは大事であるし、その気概を持つことが大切なのである。


 そのためには世界をもっと広い視野で見る必要がある。


 ラスト、お前は真っ直ぐに育ってくれた。

 だから今度はそのまま大きく育って欲しいのだ。


 リュード君とルフォン君、君たちは強く、柔軟でありながら成長の途中にいる。

 ラストにもきっと良い刺激になる。


 どうか、我が娘の成長に一役買ってくれないか」


 ベギーオはあまりにも視野が狭くなってしまった。

 王座に固執して周りが見えなくなった結果にあのような暗い考えも平気で持つようになってしまった。


 ラストにはもっと世界を見て、自由に物事を考えてもらいたい。

 その過程で王への自覚や心構えが出来てくればよいなとは思うがそうではない道を選ぶこともヴァンはよいのではないかと考えていた。


「……大領主としての仕事はどうするんですか?」


 一瞬ニヤつきかけた顔を引き締めてラストが問う。

 現在もラストに与えられていた領地は緊急措置として直轄地になっている。


 けれどラストは大領主の座を剥奪されたわけでもなく、未だに大領主である。


「こたびバロワも大領主の座から退くことになった。


 ラストが持つ領地以外は大領主の座が空席となってしまう。


 しかし次から次へと任せられるほど大領主の座も軽くはないし、未だにベギーオやプジャンの領地では混乱が続いている。


 そしてさらにだ。

 事の真相が混乱を避けるために伏せられているためにベギーオの母方の一族が口を出してきていてな。


 このままでは何をしでかすか分からない」


 そうしたことについてもラストに一度国を離れてもらってしっかりと立て直す必要がある。


「大領主は剥奪はしないがしばらくは大領主としての仕事は休んでもらう。


 その間に今一度制度も見直すつもりだ」


 バロワの出自についても公表せねばならない。

 モノランの件にも手をつけなきゃいけなくてやることはまだまだ山のようにある。


 ラストに手を出してくる輩がいるとは思いにくいがラストまで手が回り切らないのが現状である。


 そこでラストには世界を見てもらういい機会だし、ヴァンとしてはラストのために国内の色々なところを見直すいい機会なのである。

 外の世界が安全とは言えないが経験が積める分外の世界にいる方がよっぽどいいだろう。


「正直男の側に置いておくことは気が進まないが……」


 リュードは実力もあって、大人の試練で非常に多くのことに貢献してきたので信頼もしていい。

 しかしながら男女的なことを考えてしまうと果たして信頼してもよいものかとヴァンは悩む。


 滅多に人を褒めない堅物のコルトンが誉めていた人物を疑いたくはないのだけど。

 やはり男親としての心配はある。


「これは国としての頼みではなく、私個人の頼みだ」


 立ち上がってゆっくりとリュードに頭を下げるヴァン。

 こんな風に頭を下げるのは子供の頃に母に怒られた時ぐらいのものだ。


「俺はこのお願い聞き受けても大丈夫だ。


 2人はどう思う?


 特にラスト」


 一緒に旅することについてはよほど変なやつでもないなら旅してもいいと思っていた。

 ただしそれはちゃんと本人が希望していることが前提だ。


「私は……2人と旅したい!


 ……かな?」


「……うん、私もラストならいいかな」


「ほ、本当!?」


「でも言っておくよ」


「な、何でしょうか!」


「第一夫人は、私だよ?」


「へっ?」


 これは暗にルフォンがラストのことを認めたと言ってもよかった。

 ラストの顔が真っ赤になっていく。


「べ、別にそんなんじゃないって!」


「もう!


 分かってるよ!」


「うぅ〜!」


 リュードには言ってなくてもルフォンにはもう知られてしまっている思い。

 旅を共にするということはそうしたちょっと男女的なこともやるのだろうかなんてラストは少しだけ考えてしまった。


「お父さんは認めませんからね!」


 娘のリュードを見る目がどうにもおかしい。

 頼んだ手前撤回することも出来ないけれどヴァンの中にある不安がより一層大きくなってしまった。


 ということで、ドワーフの国であるドワガルにはリュードとルフォン、そしてラストの3人で向かうことになったのであった。

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