次の旅に1

「いっくぞー!」


 意気揚々と先頭を歩くラスト。

 行く道を間違えているのでもないのでリュードとルフォンも大人しくついていく。


 ティアローザの国境付近までやってきていた。

 グルリと大きく国の中を一周し、誘拐事件のために行ったり来たりしたティアローザも終わりだと思うと多少の感慨深さもある。


「ええと、出国ですね。


 …………ん?」


 国境の関所を守る衛兵がラストの顔を見て首を傾げた。

 末端の兵士なので王族のことなんてほとんど知らないのであるがラストをどこかで見たことがある気がしていた。


 もしかしたら何かの行事の時にでも見たことがあるのかもしれない。

 けれどこの国で血人族は別に珍しくもない。


 どこで見たかも思い出すことができずそのままラストたちを国の外に送り出した。


「じゃじゃーん、国外に脱出ー!」


 ラストは見送りに来たのではない。

 当然勝手についてきたのでもない。


 ーーーーー


 仕事もひと段落ついてのんびりとしていたところ、ラストは王城に呼び出された。

 ついでにリュードとルフォンも呼び出された。


「わざわざ足労いただいてすまないな。


 今日君たちに来てもらったのは全てのことが終わり、お礼をしようと思っていたのだ」


 実際まだやらねばならないことはあるがリュードたちを拘束せねばならないようなことは終わった。

 冒険者であり世界を自由に旅するリュードたちをいつまでも取り調べで縛り付けておくことは申し訳ない。


 なので何か今回のことに関するお詫びとお礼をしてまた2人には自由に旅を続けてもらおうとヴァンは思っていた。


「黒重鉄なる金属を扱える職人を探していると聞いた」


 リュードたちがお金に興味が薄いことは事前に調べてある。

 何か欲しいものでもないかと調べたかったけど親しい友人がいるのでもないから本人に聞くほかはない。


 そんな時にヴィッツからリュードたちが黒重鉄を扱える職人を探していることを聞いたのである。


「レストを助けてくれたお礼に職人を見つけたいと思ったのだがこの国も狭くはない。


 黒重鉄を扱えることをうたっている職人がいるのかもしれないが見つけるのは容易くはない」


 全職人を一軒一軒回って黒重鉄を扱えるか聞いて調べていくことは非効率的である。

 国内は未だ混乱の影響があって仕事は忙しく、人海戦術で探そうにも人手が割けない。


「時間もかかるし、もしかしたらいない可能性だってある。


 そこでどうだ、確実にいるところに行ってみる気はないか?」


「黒重鉄を扱える職人が確実にいるところですか?」


「そうだ。


 ドワーフの国に行ってみるつもりはないか?」


「ドワーフ……」


「ドワーフの国ならば黒重鉄を扱えるドワーフの職人も1人ぐらいはいるだろう」


「ですが、ドワーフといえばあのドワーフですよね?」


 魔人族がいるこの世界でもドワーフは存在している。

 真人族の分類上はドワーフも魔人族になるのだけどドワーフは自分たちはドワーフでありドワーフという種族なのだと主張する。


「そう、あのドワーフだ。


 閉鎖的で偏屈、他の種族を受け入れないドワーフだ」


「俺の聞いたことがある話だと何のツテもなく行ったとしても国内に入れすらできないと聞きましたが」


「そうだな。


 だからドワーフの国ドワガルの前にはドワガルに入ることを諦められない人や商人を相手にする小さい集落まで存在するらしい」


「それじゃあ……」


 職人を探す探さない以前の問題である。

 ドワーフは非常に閉鎖的で自分の気に入った者か昔から交流のある者しか受け入れない。


 はるか昔はそんなことがなく、全ての鍛冶はドワーフから始まると言われるほどにドワーフが世界中の武器を作っていた。

 みんながドワーフの武器を求め、ドワーフもそれに応えていたのでドワーフが持つ交流はとても多かった。


 しかしドワーフを変えてしまったのは真魔大戦であった。

 ドワーフは真魔大戦の時に微妙な立場に置かれた。


 真人族からするとドワーフは魔人族だった。

 けれどドワーフには魔人族とは違うのだというドワーフのプライドがあった。


 魔人族側はドワーフの武器を作る技術が欲しくてドワーフを引き入れようとしたがドワーフは魔人族側につくことに抵抗があった。

 ドワーフはあくまでも中立を保とうとした。


 真魔大戦においてはどちらにもつかず武器が欲しいというなら作り、必要なら直すことをしようとした。


 その判断は結果的に間違いであった。


 真人族はドワーフが味方にならないのなら敵だとした。

 魔人族側につかれてしまうぐらいならドワーフを捕らえて利用してしまおうと考えた。


 真人族はドワーフを攻めた。

 世界に散らばったドワーフたちは捕らえられ、真人族はドワーフをはるかに上回る数でドワーフの国を攻め落とそうとした。


 ドワーフの国は単一の都市がすなわち国であり、その唯一の都市は天然の要塞でもあった。

 必死に抵抗したドワーフは己のプライドのために戦った。


 守りに守り、そして最後までドワガルは落ちることがなかった。

 しかし国は守れても多くの者が亡くなった。


 深い悲しみと真人族への恨みはドワーフを鎖国へと導いた。

 魔人族へは直接の恨みなくても、戦争は真人族と魔人族の間に起きたものであったのでそうした側面から魔人族への恨みもあった。


 長い時間をかけてもドワーフは他種族への不信感を忘れず、真人族への強い恨みはいつしか他の種族全体への不信感になって残った。


 つまるところ、黒重鉄を扱えるような職人がドワーフにはいるかもしれない。

 けれどドワーフに武器を直してほしいとお願いしても聞き入れてはくれないのである。


「普通の人ならドワガルに入ることすらできないだろうな。


 だが我々は違う」


 ヴァンはニヤリと笑う。


「血人族はドワーフと交流があるのだ」


 血人族は奴隷とされていた他の種族を助けて吸収することで自由と国を勝ち取りティアローザを興した。

 奴隷とされていた者の中には少なからずドワーフもいたのである。


 真魔大戦が終わり、戦争の影響が落ち着く中でティアローザはわざわざ護衛をつけてドワーフをドワガルに返しまでした。

 恨みは忘れない。


 けれど受けた恩も忘れない。


 ティアローザはドワガルにとって数少ない友好国であったのである。

 ヴィッツから黒重鉄なる金属のことを聞いた時ヴァンはすぐにドワーフのことを思いついた。


 ドワーフに紹介してほしいとせがんでくる輩は大勢いる。

 武器だろうが防具だろうがドワーフ製のものは今や手の届かない貴重なもので誰しもが憧れを持つ。


「我々の紹介なら武器の修繕くらいの融通はきかせてくれるはずだ。


 自分の足で行ってもらう必要はあるがな。


 どうだ、これはお礼になるかな?」


「……もちろんです」


 ドワーフが存在していることは知っていたので一度会ってみたいとは思っていた。

 同時にドワーフたちがどのような態度で他種族を見ているかも知っていたので会うことも厳しいと分かっていた。


 このような形でのお礼になるとはリュードも予想しなかったが悪くない話である。


「どう思う、ルフォン」


「うーんとね、私はいい包丁が欲しいかな?」


「賛成みたいだな」


 質問の答えとしては一歩先を行き過ぎている。

 ドワーフの国に行くことを前提にして答えたルフォン。


 以前どこかでドワーフが作った包丁は切れ味の高さとそれが衰えないことで有名だと聞いた。

 今の包丁も悪くないけどより良いものがあると聞いたら欲しくなってしまう。


「リューちゃんが行くところが私の行くところだからね!」


「分かったよ。


 でもルフォンの行きたくないところは俺の行きたくないところでもあることは覚えといてくれよ。


 話はまとまりました。


 是非ともドワーフにご紹介していただければと思います」


 次はどこに行こうか悩んでいたところだ。

 これで目的地もできるしちょうどいい。

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