実は君のこと2
「いやいや、そもそもレストとバロワは兄妹じゃん!」
ラストたち兄弟姉妹は基本的には異母兄弟になる。
ラストとレストは母も父も同じ姉妹だけどレストとバロワは母が違えど父が同じ兄妹になる。
はるか昔ならいざ知らず、現代においては近親婚は禁忌とされている。
真人族でも魔人族であっても今は近親婚は禁じられた行いなのである。
血の濃さを守るためにやっている少数部族もあるけれど当然に血人族でも近親婚はタブー。
合法的な結婚など望めない。
「んーとね、1つずつ説明するわ」
混乱に包まれポカンとするみんなの顔がおかしくてレストはクスリと笑った。
「まずね、バロワ君は私たちの兄妹じゃないの」
「え、えええっ!」
「話していいのかちょっと微妙だけどみんなを信頼して話すわ。
どうせ結婚しようと思ったら公表しなきゃいけないのだし」
「バロワが兄じゃないって、どど、ということ!」
「もーお、落ち着きなさい」
落ち着いていられるか。
兄だと思っていた人が兄ではないとはどういうことなのか。
つまりバロワはヴァンの息子ではないのに、息子のように振る舞い、領地まで与えられていることになる。
もちろんヴァンがポッと出てきた子供を自分の子だとして育てるはずがないので知っているだろうけど、一体どういうことなのか事情が飲み込めない。
でも、言われてみればとラストは思った。
バロワがいつからいるのかラストの記憶には定かではなかった。
ラストは末の娘、兄弟姉妹の中でも1番下で遅くに生まれた子である。
物心つくまでの間にもよく兄姉たちには会っていたような記憶が朧げながらあるのにバロワに関してはない。
物心ついてから、ある時いきなり会った気がする。
レストが手を引いて連れてきていたような気もする。
そしてバロワの母親や出身氏族に関してもラストは知らなかった。
大体王候補になったラストのことを嫌っている母親たちが多かったのでそちらの方はあまりあった記憶がないがレストとよくいた気がするバロワの母親を紹介されたことはなかった。
所属する出身氏族も弱小氏族なら弱小氏族なりに名前が出てくるものだけど、バロワについては一切話題に上がったことがない。
生まれた時から兄としていたのでなく、ある時から兄になった。
思い返すとバロワについてそう思えてきた。
「バロワ君はね、私たちのお祖父様の弟の孫になるの」
「オジイサマノオトウトノマゴ」
一回じゃ関係性を理解できずにラストが遠い目をして繰り返した。
バロワはヴァンの実の子ではなかった。
バロワはラストたち兄弟姉妹から見ておじいさん、つまりヴァンの父親であり先王の弟の孫になる。
先王の弟は兄弟姉妹で権力を争うことを嫌って王位継承権を放棄して一般の市民として暮らしていた。
先王の弟にも愛する人がいて子をなし、そしてその子もまたさらに子をなした。
それがバロワであった。
しかし幼いバロワを不幸が襲った。
バロワの母親は体が弱かった。
そのためにバロワ産んですぐに亡くなってしまい、バロワは父親の手によって育てられていた。
けれど父親もまた事故によって亡くなってしまう。
幼いバロワは1人残されたのであるが先王の弟が王位継承権を放棄した時に、先王の弟の出身氏族はひどく怒り先王の弟との関係を絶った。
そんな裏切り者みたいな先王の弟の息子と結婚したバロワの母親もまた自分の氏族から絶縁をされていた。
住んでいるところの周りにいる人にはよくされたけれど頼れる親族がいなかった。
一方で先王と先王の弟は先王の弟が世俗に降った後も交流があった。
王であることを気にせずに会うことができる相手が弟だったのだ。
ひっそりと続く交流は互いの子供同士でも続いた。
ヴァンとバロワの父親も交流があったのである。
事故に遭い、亡くなる間際の遺言でバロワの父親はヴァンにバロワを託した。
その真意は養ってくれる人たちを探してほしいぐらいの意味であったのだがヴァンはなんとバロワを引き取ったのである。
年齢的には他の子と被っていたりして不自然でなく、1人ぐらい増えても問題はないだろうと思った。
バロワのことを放ってもおけなかった。
多少の工作はあったがラストの記憶通り、バロワはいきなりラストの兄になったのであった。
「だから私とバロワ君は……ちょっとだけ血は繋がってるけど兄妹ではないの」
「バロワ兄さんは兄さんじゃない……?」
「今はお兄さんだけど、そうじゃなくなることもできるのよ」
「……分かっ、た?」
分かってない顔をしているラスト。
分からないのではなくて分かりたくないのかもしれない。
「だから結婚はできるんだけど、別に今すぐって話じゃなくて、もっと国のことが安定して、もっとお互いのことを知ってから……ってことになったの」
「そ、それはいいけど、どうしていきなり結婚って話になったのさ!」
「それは……バロワ君に告白されて…………」
レストは顔を赤く染めて乙女の顔をしていた。
ーーーーー
「うーん…………」
死にはしなかったけれど結構な出血も伴う大きめのケガだった。
そのためかポーションで治しても血が足りず体が気だるい感じがしていたバロワは唸るようにして目を覚ました。
「ここは……」
見知らぬ天井。
思い出せるのは最後に情けない姿を晒したこと。
レストを守ろうとして守りきれず、ラストの胸に抱かれるようにして気を失ってしまった。
ベキーオの力が予想よりも遥かに強かった。
強いのはベキーオの方だけどそこまで圧倒的な差があるとは思っていなかったのに、何かヤバいものにでも手を出したかのような強さだった。
「んん……」
「あっ、レスト…………」
気だるさを押して体を起き上がらせるとベッドに突っ伏してレストが寝ていた。
状況はまだ分かっていないけれど生きていることからベキーオがやられたのだと分かる。
頭数はいたがベキーオの周りには信頼できる仲間というものはいなかった。
対してラストには信頼でき、強い仲間がいた。
バロワもリュードが切られる直前で割り込んでくれたからまだ死なずに済んだことは覚えていた。
血人族とは真逆の黒い姿の青年は冷静な判断でバロワも助けてくれた。
ペラフィランと思われる魔物も乱入してきたのでそこはどうなったかなどは気になったが、生きている今が全ての結果を物語っている。
「ん……バロワ、君?」
思わずレストの寝顔を眺めてしまっていた。
守りたかったもの、それがレストだった。
そうしているとレストも目を覚ました。
「また、そう呼んでくれるんだな」
レストとバロワは幼馴染と言ってよかった。
バロワの方が年上なのだがラストが物心ついて遊び相手が欲しいと思っている時にバロワが兄となった。
だから昔の関係は兄妹というよりも友達であった。
ラストとも当然に遊んでいたがラストが幼くて外で遊ぶことができなかったのでバロワをその相手に選んだのだ。
ラストが生まれてお姉さんになったレストはバロワに対してもお姉さんぽく接した。
暗くて物静かでオドオドとしたバロワ少年は明るく活発でお姉さんぶりたいレストに手を引かれて王城で遊んだ。
決して嫌じゃなかった。
両親を亡くして新しい環境に置かれたバロワにとって手を引いて自分を連れ出してくれるレストはお日さまなような存在であった。
その時の呼び方がバロワ君であった。
いつ頃からか君ではなくちゃんと兄として呼んでくれるようになったけれどバロワはずっとそのままでいいのにと思っていた。
「……どうしてあんなことしたの!」
目を覚ましたレストは血に濡れたバロワの姿を思い出して声を荒らげた。
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