残る疑問
ティアローザは揺れた。
ベギーオは責任から逃れて逃げ出し、追跡の最中に自殺したことにされた。
ダンジョンブレイクのことは隠しきれなかった。
隠しきれなかったためにダンジョンブレイクはベギーオが引き起こしたことで、越えてはならない一線を越えたためにその責任を感じて事に及んだと説明がなされた。
国外にでも逃げてくれていればよかったのにとヴァンはどこかで思う。
甘い考えだけどそうすれば国外追放、二度と国に戻れないと宣言するだけでことは終わったのに。
死んでしまって、その上大罪を犯したとなるとまともに埋葬してやることもできない。
自分の子が死んだだけでなく、王家としての墓に入ることも許されない。
重たい結末である。
しかもそれだけでは終わらなかった。
調査を進める中でベギーオは殺人から脅しまで自分の地位を確固たるものにするためにさまざまなことに手を染めていた。
犯罪組織とまではいかなくてもそれに近いような組織体系でベギーオは権力を維持していた。
今回の件でそのような犯罪に手を染めていた連中も根こそぎ捕まることとなった。
そしてプジャンはラストの殺人未遂の幇助として逮捕されたのだが、小悪党でほとんどのことに直接手を出してはいなかった。
ただいざとなったらベギーオに全ての責任をなすりつけられるようにと燃やすように言われていた指示の手紙を保管していたのを見つけられて、別の件でも責任を追及されることになった。
それにプジャンが神獣の子を殺したことはヴァンも知っている。
暗殺未遂などの件だけでも大事なのだが神獣の子を殺すことは宗教を敵に回してしまうこと。
悩んだけれどヴァンは王として判断を下した。
今混乱している国内でモノランが暴れることになっては収拾がつけられなくなる。
温情を期待すると言付けだけして、モノランにプジャンを引き渡すことにした。
どうなるのかは目に見えているけれどモノランに引き渡さなかったところで罪の重さを見ると死刑に近い重たい判断を下すしかない。
1人の子のために国を揺らがせるわけにはいかなかった。
プジャンは名目上国外追放となった。
もしモノランが温情をかけて生かしてくれたのなら国の外に追い出して二度と踏み入れないようにするつもりだった。
大領主の座が2つも空いて、王様候補でもあったベギーオとプジャンがいなくなった。
国民に走る動揺は大きい。
そこでヴァンはどうせならとモノランを利用することにした。
モノランが神獣であることを大々的に公表して、ダンジョンブレイクを収めた黒獣がモノランであったと広める。
ついでにモノランは雷の神様の神獣で、雷の神殿を建てること、そして神獣が国を守ってくれていると話をやや誇張した。
国民に少しでも安心を与えてベギーオやプジャンのニュースを和らげようとした。
直轄地として全てを統括的に取りまとめてスピーディに事態の収拾を図った。
「長いこと引き留めてしまって申し訳ないね」
「いえ、のんびりできてよかったです」
リュードが休んでいたところにヴァンが来た。
話があるとルフォンとラストも部屋に呼ばれて集まった。
ルフォンのお祝いをした時よりもやつれた顔をしているヴァン。
毎日仕事に追われて、見たくもないベギーオに関する報告や混乱が治まりつつあるっても未だに問題の多い国民の請願などをひたすらに処理していた。
「君たちを不安にさせたいとかそんなつもりはない。
だけど今回のことについては深く関わっているし、知る権利があると思うから話そう」
話すべきかは悩んだ。
けれどここまでリュードとルフォンは真摯にラストを助けてくれたし、深く関わっている。
このまま何も知らせずに終わりでは納得がいかないだろうと思った。
「うちの宰相の1人が失踪した」
ヴァンが余計仕事に追われる大きな理由の1つ。
この国には宰相が2人いた。
行政分野のトップとして働くものが宰相であり、ヴァンの叔父と第二夫人の弟がヴァンを支えて、この国を守っていた。
そして失踪したのはヴァンの叔父の方の宰相。
実はベギーオの母親と血縁関係があってベギーオにも近い存在だった宰相は自分が責任を持ってベギーオについて調査すると言って自ら動いていたのだがある時に消えてしまった。
宰相だけではない国の行政機関のポストにつくような人や下の人からも何人かがいきなり消えたのだ。
本当に消えたという表現が正しい。
机の上には処理しかけの書類が置いてあり、服の一枚、お金の一枚ですら手付かずでいなくなってしまった。
誰一人として消えた人の行方を知らず、仕方なくそちらの方も調べることになった。
仕事としてはみんな綺麗なものでなぜ失踪したかの理由も分からなかった。
そこでベギーオと結びつけて調べてみた。
そうすると、わずかな綻びが見つかった。
ベギーオが無茶をやっても誰も気づかなかった理由、それはヴァンにまで上がる間に全ての話が握りつぶされていたからだ。
宰相である叔父までがベギーオに肩入れして、ベギーオの黒いところを隠していた。
そこまではいい。
ベギーオを王にするとか親戚であるので可愛さでとかまだ理解はできるのだけど、一斉失踪までした理由は分からなかった。
証拠の隠滅を図るでもなく日常生活の途中でいきなり消えるような失踪には謎が残っていた。
「のだが、つい先日進展があった」
進展といえるのか甚だ疑問だ。
ティアローザの北側にある大きな湖。
そこで宰相は発見された。
他の失踪者と共に、死んだ状態で。
「不可解なのが宰相も含め、みな痩せ細った状態で見つかったのだ。
まるで長い間監禁でもされていたようだった」
死因も分からない。
逃げるのにも十分な時間もあったのになぜまだ国内にいて、湖で死んでいたのか。
失踪直前までには健康な人たちだったのに湖で発見されるまでの間に異様にやせ細ってしまった原因はなんなのか。
解決されない謎ばかりが増えていく。
未だにこの問題の解決は出来ていない。
これからもこの問題に明確な答えが出ることはないだろうとヴァンは言った。
「他国の存在も疑ったが今私は隣の国とは良好な関係を築いている。
むしろベギーオの方が真人族にやや強硬な態度を取っているのでわざわざベギーオを王にしたくて何か工作をしてくるとは思えない」
この異様な一連の出来事はなぜ起きたのか。
あまりにも狂っていておかしいことが続いている。
「悪魔……」
1つの可能性ではある。
しかし人を支配して国を支配しようとする勢力で、こんな異様さを持っているのは悪魔ぐらいだとヴァンは思わず口に出して呟いてしまった。
「何にしてもだ。
この事件の調査は続けていくがいつまでもウダウダと続けるわけにはいかない。
国内の平定が先だし、ひとまず起きたことがこれで、結論は出すことができないというのが結論になってしまう。
巻き込んでしまったのに何一つ分からず申し訳ない」
ヴァンはリュードたちに頭を下げた。国内の問題に外部のものを巻き込むことになってしまった。
それなのにいくら調査しても雲を掴むようで答えが出ない。
せめてこの国は安全で安心できると示したかったのにどうしてもそれが出来なかった。
「王様はまだ裏に何かこの事件を操っている者がいるとお考えですか?」
「……そうだ。
ただそこに結論付けることは難しいし、多分出来ないだろう」
「それが悪魔……ですか」
「それも推測の域を出ない私の想像だ。
だけど過去にあった出来事を見ると、悪魔ならば人の心に入り込み、卑怯な手で国を手に入れることをしそうだと思ったのだ」
「お父様……」
「済まないな、ラスト。
お前にとっても安全だと言い切りたいのに、どうしても私はウソがつけないからな」
心にモヤっとしたものを残して、ティアローザにおける大事件は幕を閉じることになった。
黒幕はいたのか。
いたのなら黒幕は誰だったのか。
そんな話を聞いては宰相が黒幕とはリュードも思えはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます